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episode69〜血筋〜

たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。

ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。

暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。


翌朝。


ナナが次に目が覚めた時、視界がいつもよりはっきりしないことに気が付いた。


近くに置いてあった手鏡へと、手を伸ばす。


「んなっ… 目が… 目がぁぁあ」


(あぁぁ… 昨日散々泣き腫らしたからだ… 確か、冷やさずにそのまま寝て… こんな顔で外歩けな… )


すると、タイミングを見計らったかのように、次々と使用人達が部屋の中へと入って来た。


その手には、何やら様々な道具を手に持っていた。


丁寧に服を脱がされ、湯浴みの部屋へと連れて行かれるナナ。


そこでは、まさに極上と呼べる施しが待っていた。


身体中の悪い物が流れ落ち、そして顔の腫れもスッキリとなくなっていく。

ナナは、このまま天へと召されても良いと思った。


そして、あっという間に貴婦人ナナが出来上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ある部屋へと移動させられたナナは、その場所にいる者達へと挨拶をするように、頭を下げた。


「ご、ごきげんよう… 」


そして、リリックにも一瞬目が行く。


しかし、ナナのその目にはすぐに、最奥にいたある者の姿を捉えた。


「えっ… 何故… ここに?」


振り向いたその優雅な姿に、ナナは身体が硬直した。


そしてその足は、ゆっくりとナナの元へと近づいて行く。

その美しい姿から放たれる眩しい程の笑みをナナだけに向け、言葉を与えた。


「ナナさん… 美しいわね。さすが、私の息子を射止めただけの事はあるわ」


(えっ!? い、射止め… ?)


「王妃様っ… お心遣い痛み入ります」


「ん? 正直な気持ちよ?」


「… え、えと… 何故こちらに?」


「あら? 実家に帰って来ているだけよ?」


「え… ? 実家?」


「えぇ… あちらにおられるサズリナ国王は、わたくしの弟だから」


「えっ!? おと、弟っ」


ナナはその場にふさわしくないような大きな口を開け、そして中々塞がらなかった。


その表情に、笑いを堪える者が約二名。


パルティシオン国の王族達である。


(待って… えぇと、リリック様のお父さんの弟、つまり元国王の息子はセダさんで… お母さんはサズリナ国の王族… 兄が現サズリナの国王… の息子はレクア様で… 現国王の姉がリリック様のお母さん… て事は… )


「レクア様とも従兄弟!?」


そう言うと、やっと開いた口が閉じた事に笑いを溢したリリック。


「あぁ、そうだ」


「… ややこしい… けど、なんて… なんて高貴な血筋っ… 」


「ん? なんか言ったか?」


「あ、いえ… 」


すると、その高貴な血筋の上に立つ王妃が、ナナの方へと近づき口を開いた。


「… 陛下から… 兄から聞いたわ、妹の事… 」


(頭の中がやっと繋がって、どれがどうなっているのか…… あ… )


ナナは、自身の表情が強張り始めたのがわかった。


「あ、あの… 私… とんでもない事を… 勝手に… 」


「ありがとう、ナナさん」


「へ?」


「… 妹のレイラはね、とてもピアノが好きだったの。あの時… 私が話したからなの。全ての始まりは、私のあるひと言からだった。

あの丘に、不思議なピアノがあると… 子を孕っていて、身体がずっと辛かったようだったから、気分転換になると思って… あのピアノの存在を教えたのはこの私。そしたら… まさかあんな事になるなんて」


(そんな… でもそれって… )


ナナはその言葉に唇を噛み締めるようにして、口をつぐんだ。


「あの二人はもう戻ってこないと、思っていた。二度と会えないんだと… レイラのお腹にいた子も抱けないと思うと、更に負の感情は増していったわ…

全て… 自分のせいだと… 何度も苦しんだ。戒めの言葉が何も思いつかない。この気持ちを何処にぶつけていいのかわからなかった。

その連鎖が我が子への愛情を怠ってしまったんだわ… 大切な息子までも… 本当にごめんなさい… リリィ… 」


その懺悔とも取れる言葉を、ナナ達は静かに耳に入れていた。


「でもそんな時、小さな男の子が私達の前に現れた。その首には、王族の… しかも国王に与えられる龍の証が掛けられていた。そう… あなたよセダリア」


「… っ」


「辿々しい言葉ではあったけれど、レイラ達が生きていると聞き、心臓が跳ね返ったわ。それを知った時はどんなに嬉しかったか」


そう言いながら王妃は、セダリアの肩に優しく手を乗せた。


「王妃様… 」


「そして今回、このような事になってしまった。

私は、これが最善の道だったとは思えない」


その言葉に、ナナはその拳を強く握りしめた。


「けれど、これを誰がどうできようか。正解があればその答えを教えて欲しい。

私がもし、ナナさんと同じ立場だったとしても… きっと同じ選択をしていたに違いない」


「王妃様… っ」


その強き真っ直ぐな言葉によって、ナナの拳は緩み始めた。


代わりに、噛み締める唇の力が強まっていく。

美しく着飾られたばかりの顔にも、胸元にも大粒の涙が滴り始める。


そんなナナを見て、リリックがその涙を長い指ですくった。

そして、今ではすっかり柔らかくなったその笑みをナナへと向ける。


同じような微笑みを、再度ナナへと向ける王妃。


「私はね、今回の件で後悔しているし、こんな自分にもとても腹が立って仕方がないの。

セダリアの気持ちを… それに対して内密に動いていた事も全て知っていたわ。

それなのに、何も出来なかった。いや、しようとしなかったのかもしれない… それを誰かがどうこうしてくれるのを待っていたさえした。身分の高き者の悪いところよね… 」


(王妃様… それは… )


そう思いながら、ナナはその耳を最後まで傾けていた。


「でも… でもね、どちらの道を選んだとしても後悔をしたと思う。

王族という籠の中に入っている以上はね、後悔しない道なんて、ほぼ皆無に近いの。もう… 本当に後悔だらけよ? ふふふ」


冗談混じりに話す王妃に、今度はナナが切なく微笑み返す。


「同じような犠牲者を二度と出さない為にも、ナナさんがその道を閉した行為に称賛の意を送るわ。


民を守る為の、閉ざすという選択。

それも道。


大切な人達に会いにいく為に、ピアノという道を残すという選択。

それも道ね。


私には、王族としても道と、家族としての道があった。葛藤が葛藤を生んだわ。

私には… どちらも選択できない事は、わかりきっていた… それでも… 両方に手を伸ばしたいと思うのは、人間として当然でしょ?」


ナナは、その言葉にゆっくりと重く頷いた。


「私は… その選択さえも怖くて出来なかった。

でも、ナナさんはしてくれた。とても迷ったと思う。怖かったと思うわ。本当にありがとう」


今度は、首を横に振るナナ。


そして、再び王妃の方へと顔を向けた。

その瞳は、とても真っ直ぐ捕らえていた。


「王妃様… 御無礼をお許し下さい。

あなた様は、何も出来なかったと後悔をしておられるようですが、それは… 違うと思います。

何もしなかった… のではなく、何もしないように選択した… の間違いではありませんか? 手出しをしないように」


全員の瞳が、ナナへと注がれる。


いつもなら、たじろぐ状況のナナだったが、その言動を止める事なく続けた。


「様々な後悔の道は、王妃様が仰る通り、多い道かもしれません。

でも… そんな中でもできるだけ、その後悔に繋がる選択が少なく済むように自分達で考え、養う力を身につけさせる必要があった。

その為に彼らに任せていた。そういう形として、見守っていたのではないでしょうか?」


「…… っ」


「でも… 知って欲しいのは、王妃様だけじゃないということです」


「私だけではない?」


「えぇ。彼らだって、王妃様の事を考えておられる。もし、あなた様が、何かに関して先に助言をしようとすれば、おそらく真っ先にそちらの意見へと賛同してしまうはずです。

それが、身分という壁の弊害として現れる部分でもあります。あなたはそれらを見越しての、

’何もしなかった’ の選択ではなかったのだと… 少なからず私はそう感じました」


「… ナナさん… 」


「ナナ… 」


「ふふっ… ふふふ… ありがとうナナさん。でも、深く考えすぎよ? … やはりあの子達の娘ね。似てる。その考え方、とても好きよ。レイラ達にあなたの家族が側にいると知って嬉しく思うわ。この世界で使用人でとして働いていたから、昔からの顔馴染みでね」


(そう… なのかな? 本当に? それにしても… )


「お母さ… 母と祖母がですが?」


「えぇそうよ。あなたの母は、パルティシオン国の使用人だった。目立ちはしなかったものの、とても仕事が丁寧で、そして妹と同じくピアノが好きだった。よく、レイラと弾いていたから… というか、レイラが無理矢理弾かせていたのだけれどね、ふふ」


(そうだったんだ… 全然知らなかった… )


「そして、あなたのお祖母様は、パルティシオン国の庭師だった。けれど、元々はこの国サズリナの生まれだったけれど、私の国へと移住して来たみたいなのよね… 理由はわからないけど… 」


(おばあちゃんが庭師!? 確かに、庭いじりは好きだったけど… あぁ私、自分の事ばかりで、全然二人の事知らなかったんだなぁ… そういえば… )


「あ、あの… そういえば、最後に家族と会話した時に、庭師のダランさんに会ってと言われました… えと、関係って… 」


「ダラン? ふふ、そうね… ダランはお祖母様の古い ’知り合い’ なんじゃないかしら? 後で尋ねてみるといいわ」


少し含みのある言い方をした王妃に、ナナは首を少し傾げながらも頷いた。


「あなたの家族が… あの二人が妹達の側にいるなら本当に心強いわ… 」


「はい… で、でも… 今も側に居るとは… 」


ナナが何かを言いかけたその時、一枚の薄い紙を目の前に差し出した。


それは、この世界にはまだ存在しない物であった。

絵と言うには、現物そのままとも言える。

光沢のあるその一枚に写っていたのは、紛れもなくナナの母と祖母だった。

近くには赤子が抱かれ、それが自身だと気が付いた時には、涙が一気に込み上げてきた。

そして、一緒に写っているのが、幼い男児とその両親であった。


「これって… 」


「そう… ナナさんと家族… そして私の大切な家族達よ… セダリアは… ふふ、本当に女の子みたいよね? これは… あなたの世界では何ていうのかしら? 絵にしては、ほぼ本物に近いわよね?」


「… っぅぐ… 写真… 写真です… 」


「写真… そう写真て言うの… 」


そう言うと、王妃は愛おしそうにレイラであろう女性の顔をそっと撫でた。


すると、今度はリリックがゆっくりと口を開いた。


「母上は、あの日からピアノを避けていた。

しかし、ナナのピアノの噂を聞いて、久しぶりに聴きたくなったんだと。ナナの音色は本当に素晴らしいからな」


嬉しそうにそう言うリリックを横目に、王妃もつられて言う。


「あら? それだけではないのよ?」


「ん? どう言う事ですか? 母上」


「あなたがあんなに感情を出しているのは、大人になってから、初めて見たわ。それが、ナナさんの存在が大きいと知ったから、聴きたくなったの」


(え? 感情を? そうなの?)


ナナは、未だリリックという人間を理解できないでいた。


「それは… 子を持つ親として当然のことでしょう?」


そう言いながら、王妃はナナへと、そして息子であるリリックへと微笑みかけた。


「それとね、レイラ達とは離れ離れになってしまったけれど、二人が残してくれたこの子がいるもの。

そして

なんだか、繋がってる気がするの… セダリアを通してね」


その言葉に、ナナは再び王妃が手にしている写真に目を向けた。


「… 私も何だかそんな気がします。それに、写真を撮っていたなんて… 知らなかったです」


「この写真、あなたにあげるわ」


「え? でも… 」


「いいの。私に会いに来る時はこれを持って来てね。そして、話を聞かせてちょうだい」


「はい… っはい! 王妃様!」


ナナのその言葉に優しく微笑みかけながら、肩に手をそっと置いた。


その瞳には薄っすらと涙が浮かび上がっていた。







最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


(基本歌は歌っていません)

あくまでも、作者が聞きながら想像し、執筆した楽曲を参考までに載せております。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。


文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。

また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。


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