episode67〜愛〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
ナナは、そのピアノに再び手を乗せた。
今回は違う。
その曲が示す物とは、一体何なのであろうか。
もし本当にこの楽譜に記されているのが、この曲だとしたら、何故この曲なのだろう。
ここにそれが存在している理由は?
わからない。
何もかもわからないけど、今、これを弾けるのは自分しかしない。
そう思いながら、ナナは丁寧一音一音を奏でた。
そこには目には映らない譜面がある。
そう、あるはずだった。
しかし、ナナがその曲を弾き始めると、楽譜から浮き上がるように、剥がれ落ちるように書かれているはずの音が譜面から空へと舞い始めた。
とても不思議だった。
誰しもが見たことのないような、その光景に目を見張る。
そして、それは不思議なことに勝手に次のページへと開き始めたのだ。
ナナ自身もそれには当然、気が付いていた。
それよりも、更に不思議な光景がナナの脳内を駆け巡った。
彼女にはわかっていた。
これが、別れの始まりだということを。
しかし、ナナの心は既に決まっていた。
この手が止まる事は決してないと。
だからこその光景だと。
彼女の耳には、そこには決して聞こえる事がない声が聞こえた気がした。
『ナナ… 』
『ナナ… ミ』
『菜々美』
走馬灯のように記憶が蘇る。
いつの頃の記憶か。
ナナはその声に集中するかのように、そっと目を瞑った。
母と祖母が自分を見下ろすように、愛おしそうに名を呼んでくる。
『菜々美ちゃん… 菜々美ちゃん』
『菜々』
『菜ー々ちゃん!』
(お母さんっ… っおばあちゃん… この手を止めてしまえば… 2人に会える… )
2人の姿が、少しずつはっきりしてくる。
その光景が、ちょっとずつ目線が高くなるのがわかった。
(何これ… こんな記憶… 今頃になって… )
それは潜在的な記憶だった。
ピアノの伝送による記憶なのか。
向こうの世界と繋がる最後の手段。
そう感じていた。
全ての記憶がナナへと流れ込んでくる。
『ふふ… 笑った。今笑ったわよお母さん』
次々と目の前の場面が切り替わり、頭の中にはっきりと映る。
『すごい! すごいね、菜々ちゃん』
ナナの目からは、大粒の涙が停めどなく溢れていた。
目を瞑っているはずなのに、視界が水だまりで見えない。
止まる事のない手にこぼれ落ちる涙は、更にその鍵盤を走らせにくくした。
そうしないと決めたのは、自分自身だったから。
これ以上犠牲者を出してはいけない。
この選択が本当に正しいのかも、この後の結末も誰も知らない。
その衝動を堪えながら、ナナは菜々美としての軌跡を辿っていく。
「ゔぅ… っ」
(ナナ… )
傍にいたリリックは、それを見守ることしかできなかった。
そのもどかしい気持ちに、握る拳が強まる。
『菜々美、行ってらっしゃい』
(お母さん! お母さん!)
『菜々ちゃん、おいで』
(おばあちゃん… )
「ゔぅ… っぐ… か… あさん… おばあ… ちゃん」
『菜々美? 大丈夫?』
『菜々ちゃん… 』
(私、学校で… 嫌なことがあっても、言えずにいた… けど、2人は気が付いていたんだ… ずっと、ずっと… )
ナナは2人のその気持ちに、今頃になって気が付いた事の悔しさと切なさで、心がきつく締め付けられた。
その想いに、更に涙が溢れ出す。
「お母さんっ! おばあちゃんっ!」
それでも弾く事を決してやめる事はなかった。
曲があと半分もない事に、ナナは心臓が速まるのを感じた。
すると、更にその声がはっきりと聞こえた気がした。
いや、実際に先程とは何かが違う。
その事にナナは今一度、目を見開いた。
そして、辺りを見渡すように確認した。
(ナナ? 一体何を探している?)
リリックはその様子に、声を掛ける事はなかったものの、心配の視線を向ける。
ナナへと届いたその声の持ち主は、この場にいるはずもなかった。
しかし、実際に聞こえるのだ。
2人の声… 母と祖母のその声が。
「菜々美」
「… え?」
「菜々ちゃん?」
その声は、記憶の中からではなく、その耳へと直接聞こえていた。
「菜々美… 聞こえる?」
「お母… さん?」
「あぁ… 良かった。元気そうね」
「お母さんなの!?」
「えぇそうよ。おばあちゃんもお母さんも元気よ。手術も無事に終わって… でもあなたが事故に遭ったって聞いて… とても心配で心配で… 」
「お母さんっ! ごめんなさい! 私の不注意で… こんな事になるなんてっ… こっちの世界に来てしまったみたい… 」
「生きてて… 生きててくれて… 本当に良かった」
「お母さん! お母さん! 私っ… 」
「わかってるわ… 大丈夫、あなたは強いわ。だって私の子だもの。私は… 私達はあなたを信じてます」
「私っ… うんっ… 私お母さんの子で良かった」
その声に反応するナナ。
音色達は、もうすぐ終盤を迎えてしまう。
譜面から音が舞い上がるのと同時に、楽譜が薄くなっていくのを感じた。
しかし、それだけではなかった。
その手や足の感覚も少しずつ感触がなくなっていったのにも、気が付き始めたナナ。
段々と形が崩れていくピアノ。
「菜々ちゃん… 元気そうね。良かった。こっちは心配しないで? あなたは私達の希望だった。大切な人もできた? ふふ」
「おばあちゃん… っ。うんうん!」
「菜々美? 聞いて。そちらの世界ではあなたの助けになってくれる人がきっといる。いや、もう既にいるのかもしれないわね。もし、何か不安なことがあれば…… ズ… 国の… 」
「え!? 何!? 良く、聞こえな… 」
「… ラン… いう者… 訪ねて… ダランよ」
(ダランさん… !?)
「わかったわ! ダランさんなら知っているから!」
「… み」
「お母さん!? 待って! 私まだっ… 」
「菜々美… 」 「菜々ちゃん… 」
「「愛してる」」
「お母っ… ん… おばあちゃ… ありがとう… ありがとう… 私も幸せだった。2人が家族で、本当に良かった。今まで大切に… 育ててくれてありがとう… さようなら… 愛してる」
その瞬間、最後の一音がカケラとなって、空に向かって舞った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
ナナは冒頭で捲ることのできない楽譜に記されているであろう曲を弾こうと、ピアノに手を掛けました。
今回、その曲には、
MIMIさんの【カラバコにアイ】
をイメージして書きました。
(基本歌は歌っていません)
よらしかったら合わせて聞いて見て下さい。
あくまでも、作者が聞きながら想像し、執筆した楽曲を参考までに載せております。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




