episode62〜揺れ動く〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
「…… しかし、どうやってこの世界に戻ってきたと言うんだ?」
「簡単だよ。あのピアノが再び現れたんだ。あっちの世界でね。何も知らない僕は、それを弾いてしまった。
そう… だから、僕だけこの世界に戻ってきてしまったんだ。何も知らずにね。
おそらく、あちらの世界とこの世界を繋ぐトリガーがあのピアノにある。
僕はそれを確かめたかった。そうすればまた… 」
そこまで言うと、セダリアは拳を強く握り返した。
「ん? 待てよ? と言うことは、前国王と王妃はまだ生きているということか?」
その言葉に頷くセダリア。
「嘘ついててごめん。でも… それが父さん達との最後の約束だったから… 」
「現国王の… 父上のためか?」
「多分ね。自身の存在によって、国があやふやになってはならない。 ’国王’ という地位は、国を守り治めるための場所でしかない。代わりは用意できるもんなんだ。
しかし、パルティシオンという国は一つしかない。
国を傾かせてはならないと… 幼かった僕は、その言葉の意味はわからなかったけど、その想いは届いていた。だから… 」
「口にも出したくないその… 思ってもいない事を… この何十年も… お前の事を… なんて… なんて愚かだったんだ… 」
「…… リリィ」
「リリック様! それはっ… 」
ナナが言葉を放とうとしたその時、リリックがセダリアの両肩を掴み、顔を俯きながら口を開いた。
「俺は… お前の気持ちを汲み取る事が出来なかった… 愚かだった… すまない」
「… っ! リリィ! それは違うよ! 仕方なかったんだ! 誰も… 悪くない… 誰かを咎めるのは… 間違っている」
そして、その視線はゆっくりとナナへと向けられた。
(あのピアノが… この世界とあちらの世界を繋いでいる… もしかしたら… )
「ナナ… ねぇ、もう言ってもいいんじゃない?」
「え?」
「なんだ?」
リリックはこれ以上、もう驚くこともないと思いながら、その視線を向けた。
「… 信じてもらえないと思い、特に口にしようとは思っていませんでした。でもセダさんの言葉を聞いて、確信しました。やはりここではない何処かに私がいた世界が存在していると…
私は…セダさんの言う、あちらの世界の人間なんです」
ナナのその告白に、表情ひとつ変えないリリック。
他の者は案の定、各自目を丸くしていた。
「でも… ひとつ、セダさんが仰っていた事と相違する事があります」
「ん? それは何だい?」
「私はこの世界に来る前に、一度も本物のピアノを弾いた事がありません。もちろん、あのピアノも… 」
「え!? そうなの? じゃあこの世界には、一体どうやって来たっていうの?」
「… 事故です」
「事故… ?」
「はい、私は祖母の見舞いに行く途中で、事故に遭いました。そして意識が消え、気が付いた時には、パルティシオン国の王宮内に倒れていたのです」
「…… どう言うことだ? 他にもこの世界へと繋ぐ方法があるのか?」
「わかりませんが… 確か、この世界に来た時に、りんごをひとつ手に持っていました。おそらく祖母の見舞いの際に買った物が、この世界へとついて来たのではないかと… 」
(りんご? … どこかで… )
「それにしても、何故、ピアノを弾いていないのに、ナナはこの世界へと来る事が出来たんだ?」
「それは分かりませんが、きっと他にも何か引き金みたいなものがあるのではないかと思います」
「そうか… しかしあのピアノを弾く事によって、世界を行き来出来ると分かっている以上、それをさせない為にナナを止めたわけか… 」
「そうだね。僕もその事実にはつい最近わかったばかりだ… 原因はピアノではなく、あの楽譜にあったんだ。この楽譜の曲を全て弾き終わるまでは、あのピアノは何処かに姿を現し続けるんではないかと思っている。きっと途中で演奏を止めた場合は、違う世界へと連れていかれるんだ。僕達の知らない異世界へとね」
「なるほど。その曲を弾くなと言ったのは、そういうことだったのか」
リリックの言葉に頷くセダリア。
「それによって、犠牲者が… いや、しかしあの譜面の状態じゃ弾ける者など、到底いないだろう?」
「そこなんだよリリィ。これも僕の考えの一つなんだけど、おそらくあの楽譜が途切れ途切れで、更にページが開けないようになってしまっているのは、その曲を完璧に弾かせないための何かの呪いなんじゃないかと思っている」
「呪いか? 全て弾く事が出来なかった場合、何処かに現れ続けると言ったな?」
「多分だけど… その曲の全てを弾き終えてしまうと、何かが起こる可能性がある」
「どいうことだ?」
「異世界へと姿を消した状況下には、そのどの場面でも共通している事があるんだ。そのどれもが、途中で演奏を終えてしまった事だった。
つまり、最後まで曲を弾かなかった。もしかしたら、最後まで曲を演奏する事によって、何かが起こるんではないかと僕は思っている」
「… それは何だと考えている?」
「ふぅ… 全てが憶測にしかないんだけど… 途中で演奏を止めた時に、異世界へと連れて行かれる。
つまり、その道が繋がっている状態だという事だから… 完奏した場合、この世界とあちらの世界との道が断たれるんじゃないかな?」
「道がなくなる… つまり繋がりがなくなるという事だな… ん? それではダメなのか?」
「それは… 」
そう言いながら、セダリアはナナの方に視線を寄せた。
「…… 」
「… しかし、最後まで弾く事は、絶対的音感のあるナナをもってしても不可能に近いんじゃないか?」
「僕だってそう思っていたよ。さっきの… ナナのあの言葉を聞くまでは… 」
「私の ’知っているかもしれない’ というその言葉が… 」
「そうだね。ナナがさっき、そう言うのを聞いて、僕の心臓は想像以上に跳ね上がった」
「この曲を最後まで弾いてしまえるかもしれない… そしたら、両親のいる世界へと戻れない… 御二方と二度と会えなくなるかもしれないと… そう思ったんですね?」
ナナのその言葉に、重く頷くセダリア。
「君ならそれが可能な気がしていた。しかしそれだけじゃないよ? ナナだってもう二度と家族に会えなくなる可能性だってあるんだ。やっとその可能性がここにある。大きな望みを今、この場で断ち切るのは… とてもじゃないが簡単に決断できることじゃないよね?」
「…… 」
(お母さんとおばあちゃんに… 会える? 本当に? セダリアさんが嘘をついているようには思えない… それにもし本当に元の世界に戻れるとしたら、私は… 私は… )
’戻りたくない’
ナナは頭の中が、一瞬真っ白な世界へと変わった。
そして、ある一つの感情が呼び起こされてしまっていた。
(え? 今… 私、戻りたくないって… 思った?)
ナナの表情が強張るのに、気が付いたリリック。
「ナナ? 帰りたいか?」
「…… 」
「大丈夫だ。正直に話して欲しい」
そしてナナは今まで一度も口にする事がなかった、自身の暗く膜の張った世界について、話し始めた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
(基本歌は歌っていません)
あくまでも、作者が聞きながら想像し、執筆した楽曲を参考までに載せております。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




