episode58〜元凶〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
こうして、リリックの見事な推理によって、拘束された宮廷楽団員の男。
そのは、大人しく身体を預けたかと思えた。
しかし、何を思ったのか間もなくすると、暴れるような声と共に、リリック達へと言葉を浴びせ始めた。
「… っ濡れ衣だ! 俺はっ… 」
しかしその瞬間、一瞬にして男の生気は奪われた。
自身に向けられなくともビリビリと感じるその殺気は、言わずもがなリリックから放たれていた。
言葉を出さなくとも、その視線が今にも彼の心臓に突き刺さるかのように矛先を向けていた。
ナナはその方を見る事ができなかった。
楽団員は、その身体を支える全ての力を使うのをやめた。
膝から崩れ落ちると、首をガクンと下に落とす。
彼へと近づく足音がしない。
床が凍りついているのかとも思うくらいだった。
気が付いた時には、楽団員の目の前には、剣を伸ばしたリリックの姿があった。
その切先を楽団員の顎下に置き、そのまま顔を上げさせるように手首に力を込めた。
目線が定まらない楽団員に対し、リリックは冷たく言い放つ。
「誰の差し金だ?」
「… ない」
「あ?」
「… らない知らないっ知らないんだ! 俺はなっ… にも… 」
「そうか。今すぐ死にたいらしいな」
そう言うとリリックはその剣を引き、振りかぶろうと頭上へと掲げた。
ナナは思わず手で顔を覆う。
しかしその瞬間、楽団員は腰を抜かしたまま後退りをした。
「おっお待ち下さいっ!」
そう言いながら、命乞いをするかのように、片手を前に出した。
「何だ? 最後に言い残したいことでも?」
リリックの表情は、まさに氷点下のようだった。
楽団員は目を合わせるのを恐れて、少し俯きながら言葉を発した。
「名も… その者が何者なのかもわかりませんが、絶対的音感を彼女が持つ事を、直接伝えた者の特徴はわかります」
そう言いながら、楽団員はその目線をナナの方へと向けた。
「そいつは知り合いではないという事か?」
「は、はい。あの時一度会ったきりでございます。それ以前もそれ以降もその者には、接触した事はありません」
(おそらく、そいつがあの男の犬か… )
「その男の特徴は?」
「いえ… その者は男ではなく、女です」
「女? そうか… まさか女だったとは… 先入観とは怖いものだな。では、その女の特徴というのは?」
「背の高い侍女のような服装をしておりました。髪の色は黒。そして口元には小さな2つのホクロがありました」
「口元に2つのホクロ? 確かに珍しいな。それに背の高い女ならば、かなり目立つであろう?」
(背の高い侍女? そんな人いたかなー? 庭師になら… )
「ん? あれ? 侍女?」
「どうした?」
「その女性は侍女だったのですよね? … 私が見た女性にもとても背の高い者がいました! しかし、それは侍女ではなく… 庭師… 彼女にホクロがあったかはわかりませんが… 庭師長さんに聞けばわかるんじゃないですか!?」
「ダランか… 確かに彼なら知っているかもしれないな」
レクアがそう言うと、目配せによりこの国の従者がすぐに部屋から出た。
そして、リリックはその間にもこの開かずの楽譜を他に読める者がいないか、探すようにレクアへと提案した。
レクアの従者達は彼の言葉によって、すぐに行動を起こした。
そしてネイルが何やら耳打ちをするかのように、リリックへと報告を入れていた。
その言葉に、再び楽団員の方へと視線を向けるリリック。
「おい。他に何か隠している事はないか?」
「何の… 事でございましょう?」
「では聞き方を変えよう。ここ1、2ヶ月かの間に、我が国へと足を運んではないか?」
(ん?)
「パルティシオン国にですか?」
「そうだ」
「そうですね… ここ1、2ヶ月だとしましたら、仕事で訪れた事記憶はございませんが… 」
「ふっ、仕事でか… では、数ヶ月もしくはここ何年かでは?」
「え? あ… はい、それは友好国である以上、何度かは訪れてはおります」
「… それは、私用でか?」
「そ、それは… もちろん私用の時もございましたが… 」
「ほとんどが私用の間違いだろ?」
その言葉に対し、楽団員は口をつぐむしかないかった。
「それに、その友好国である我が国を侮辱しているのは、お前が原因なのではないか?」
「な、何を仰っているのか… 」
「ふふ… 通りで足がつかなかったわけだ。犯人は我が国の者でなかったのだからな。それはとても喜ばしいが… ここ何年探しても見つからなかったのは、他の国の… それも定期的に来ることのできる者だったとはな」
(犯人? 何の犯人なのかしら? 何だか、今回の事とは関係なさそうだけど)
リリックは止めどなく続ける。
「何度も来れる距離。それも堂々と入れる。情報も得やすい位置にいる。しかし、簡単には探し出せるような距離にはいない。そして、確実にここへと来れる理由ができる者。流れ者でも何でもなかった… そして… 」
今以上に冷たい歩みが、楽団員へと押し寄せる。
リリックは楽団員の頭を力いっぱい掴むと、その頭を自身へと上げた。
そして、最高潮に冷たい声で言い放つ。
「ましてや、この俺でもなかったのだからな」
(マジで何の話?)
ナナはその内容が全く掴めないでいた。
楽団員はというと、今すぐにでも死を覚悟するほどの表情をしていた。
「……… 何の… 事でござ… いましょう?」
リリックは飽きれ果て、その手を乱暴に離した。
怒りで言葉を出す事もやめた主人に代わって、側近であるネイルが口を開いた。
「リリック殿下は昔から、このように口数が少なく、人との距離を取りがちであります。更にはその表情はあまり豊かではございませんゆえ… 」
(え? 急にディスり始めた?)
ナナはその成り行きを、ちょっぴりハラハラしながら、視線を宙に泳がせた。
「そして遂には、冷徹無比とまで言われ始めました。ただの1人も手にかけた事はないのに」
(えっ!? 1人も?)
ナナは思わず、首をぐるりと回した。
グギリという音が脳内へと響き渡る。
「その噂はたちまち、国中… いや国を超えて他国にまで広がって行ってしまった。
しかし、我が主はそれを逆手に取り、特に弁解する事なく、今まで過ごしてらっしゃいました。
どんなに恐れられようが、周りから笑顔がなくなり気配を消されようが… たまに孤独になりそうになりながらも… 」
「おい… 話がズレているぞ?」
「失礼致しました」
「貴方はそれでもまだ、しらを切るつもりですか?」
(ネイルさん、意外と毒舌? それにしてもさすがだわ… 長年、この冷徹無比の側近をしている事だけはあるわね。この短時間で他にも情報を入手していたなんて)
ナナはその視線をネイルへと向けながら、本当に恐ろしいのは、実はこの人ではないかと思い始めていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
(基本歌は歌っていません)
あくまでも、作者が聞きながら想像し、執筆した楽曲を参考までに載せております。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。
 




