episode54〜ピアノ〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
リリックがナナの無事を確かめている頃、セダリアは更に入る隙を得られない程の感覚に陥っていた。
一度、直接牽制されている身だ。
その間、セダリアもここまでの事や、部屋の構造の件を、ネイルや他の従者達に伝えていた。
そして、やはり目に入るのは、例のピアノだ。
ある程度の状況説明が終わると、再度その古びたピアノに近づく。
(それにしても、あの楽譜は何故あの場所から動かない… ん? 動かせない? … そうか! そういうことか!)
すると、ナナとリリックも気になっていたのかそのピアノに近づいて来た。
「セダさん? 何かわかりましたか?」
「あ、いや… 」
「このピアノを運んだ者がいる… リリィその者達を探して欲しい」
セダリアとナナは、誘拐に関わった人達の特徴を伝えた。
「わかった。早急に探し出させる。それとサズリナ国にも協力を願おう… この落とし前を必ずつけさせてやる」
ナナはその瞳に、久しぶりに背筋が凍った。
そして、再度ある疑問が浮かぶ。
(この人… ほんと、何で私の事を妃になんてしようと思ってるんだろう? やっぱり何かの余興か何かかしら?)
そして、再びピアノについて意識を戻した。
「あの男、このピアノに異常に執着していましたよ? もちろんご覧の通り、鍵盤も音もボロボロです。とてもじゃないけど、普通に弾いたところで旋律なんて奏でられません」
「そうか。でもちゃんと弾いたんだろ?」
「えっ!? あ、はい… まぁそれはそうですけど… 」
その驚くような表情を見て、リリックは自然な笑みを浮かべた。
(さっきのあの氷点下のような表情は一体… )
「何で… わかったんですか?」
「そりゃ、わかる」
「… っ、婚約… 者… だからですか?」
「あぁ… そうかもな」
(そうかも?)
「それで?」
「完璧に弾いても、何も起こらなかったんだろう?」
(鋭い)
「… そうなんです。それであの男の表情は、明らかに変わりました。何というか… とても落胆したように見えました」
「なるほど、あの男はこの調律もままならないピアノを、絶対的音感のあるナナに弾かせて、何かをしようとした。それが考えていた事と、相違があった為に、考えを改めなくてはならなくなった… という事だな?」
「あ、は… 」
「セダリア?」
リリックはその問いをナナではなく、セダリアへと向けた。
(え? 何でセダさん? … あっそうか!)
「セダ、お前はこのピアノをずっと探していたのではないのか? あの時からずっと… 」
「あの時から?」
「… はぁ、やっぱりリリィは気が付いていたか。結構隠せてたと思っていたのに」
「お前の事はわかる… 」
「それは… 」
「家族だから、当たり前だろう」
「… っ!」
セダリアはその言葉に、罪悪感を感じてしまった。
「家族か… はは… そうか… リリィには… やっぱり敵わないな」
そう言いながら、今度はとても嬉しそうに満面の笑みを咲かせた。
「でも、このピアノに何かしらの変化をもたらすための行為、 ’完璧に弾きこなす’ と言う事でなければ、やっぱりこの楽譜?」
(やはり、そこに行き着くよな)
セダリアはそう思いながら、様子を伺っていた。
「楽譜… この捲る事の出来ない楽譜か?」
「そうですね… 」
「ナナ… この楽譜を見て何かわかるか?」
「えっ!? どどどどどうって!?」
「ん? 例えば、弾いた事のある曲とか、もしくは聴いた事のあるような… しかし、譜面自体が擦れて見えにくくなっているな? やはりこれじゃ… 」
ナナはその言葉に、何度も力強く頷いた。
(ナナ… やっぱり楽譜が… )
セダリア一足先の真実に辿り着きそうになりながらも、その判断をまだ何処に向かっていいのかわからないでいた。
ナナやセダリアの身体を労り、一度サズリナ城へと戻ることにした一行。
もちろん古びたピアノを運ぼうと提案した。
しかし、それはできなかったのだ。
これを何処から入れたのかの謎も残された。
出入り口は1つ。
それは、人が2人分の幅しかなかった。
王宮の物とは違って、グランドピアノとまではいかないが、それなりの大きさはある。
到底ピアノが通るような幅ではない。
分解して入れたのか?
いや、そうではない。
あの短時間で、それを更に組み立てるようなことはできないはずだった。
ましてや、そうそう容易な事ではない。
そう、元通りの調律がなされていないその不安定なピアノになど、到底不可能であった。
あの部屋の風景を思い出しながら、ナナは揺れる馬車に身を委ねていた。
(絶対他に出入り口があるわよね。それ以外考えられない! だってどうやっても… それに、きっとあの男もそこから逃げたのよ… もしくはまだあの中に居た可能性もあるけど… )
そう思いながら、ナナは古びたピアノに対する、あの感覚をもう一度思い出していた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
(基本歌は歌っていません)
あくまでも、作者が聞きながら想像し、執筆した楽曲を参考までに載せております。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
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