episode53〜抱擁〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
その男はこの部屋から出ろという仕草をしたかと思えば、特に何をしてくるわけでもなく、先程のピアノの部屋へと案内した。
セダリアは、その警戒心を最大限にする。
しかし、ナナの腕を男が掴んでいるのが目に入ると、下手に動けない事を再認識し、様子を伺う事にしたのだ。
そして、再びその部屋に来たナナは、疑問符を投げた。
「あの… さっきの演奏に何か不備でも?」
「いや、素晴らしかった」
「え? あ、それは… ありがとうございます」
予想だにしていなかったところで、まさか褒められるとは思っていなかったので、ナナは変に照れてしまった。
「あの状態の中、よくあそこまで弾けたものだ。しかもかなりの短時間で弾きこなした… お前の噂は本当だったんだな?」
「私の… ? 噂… ですか?」
「… あぁ、絶対的な音感を持つの者が、他国から来ていると… 」
その言葉に、鋭い睨みを効かせるセダリア。
「それを何処から聞いた?」
「何処からでもいいだろう。お前には関係のない事だ」
「誰だ?」
(セダさん… 怒ってるの珍しい… 怖い)
そう思いながら、ナナは男の方に再度目をやった。
そして目が合う。
「お前、2、3日前に王宮で演奏をしただろう?」
「え? あ、はい。それはそう… ですけど」
その言葉に、セダリアは勘付いたように反応した。
「まさかっ… その中にいたのか?」
男は頷く事によって、返事を返した。
「という事は、招待客の中に? いや… そうは限らないな。使用人の中に、紛れ込んで変装していた者がいたかもしれない… 」
「えっと… あの会場には、かなりの人数がいましたよ? 見つけ出すには無理なんじゃ… 」
「いや… ナナ。僕達を甘く見てはいけないよ? この世界の何処にいても必ず見つけ出してみるから」
そう言うセダリアの言葉には、説得力しかなかった。
「ほら… 」
セダリアのその言葉の意図が、2人には分からなかった。
そして次の瞬間、大きな物音が遠くから聞こえた気がした。
見覚えのある声と人物が扉を蹴破って、ナナ達の前に現れた。
そして言葉を発する事なく、抱きしめるリリック。
その身体が壊れるかもしれない。
しかし、その感情を抑える事は、今の彼には非常に難しかった。
「リ、リック様!?」
「ナナ… 良かった」
やっと溢れ落ちたその言葉に、ナナの涙も流れた。
その様子を横目に見て、セダリアは何故か間に入る事ができなかった。
もどかしい気持ちを、今の自分にはどうする事もできない。
その一歩が間違いを起こす可能性だってある。
拳を握り締めると、側にいた従者へと事の詳細を話し始めた。
一方、ナナがその熱い抱擁に、照れが生じ始めた頃。
周りの様子が、ふとおかしいことに気が付いた。
リリックの従者の声が、慌ただしくしているのが見てわかった。
「殿下っ! 奴がいませんっ!」
その言葉にリリック以上に、驚きを隠せないでいたナナ。
「そんなはずっ… だって、さっきまで… それにここには出口なんてものは… 」
そう言いながら辺りを見渡す。
人の出入りの多さによって、男を探し目を追うのに、少し時間を要した。
すぐには判断できなかったが、本当に先程の男の姿がないように見えた。
そして、やはり気になったナナは、更に捜索しようと思い、その身を立ち上がらせようとした。
しかし、それは強まった腕によって、叶う事はなかった。
「何処へ行く?」
「リリック様? あの男は本当にこの部屋から出たのでしょうか?」
「ん? どう言うことだ?」
「少し気になることが… 」
ナナはそう言うと、リリックの耳元へと顔を近づけた。
そして、率直に自身の考えを伝えた。
「あの演奏会の中にスパイもしくは… 内通者がいるのではないでしょうか?」
その言葉に、リリックは驚きはしなかった。
ゆっくり頷くと、目線だけを動かし始めた。
そして、今度はリリックがナナの耳元へと唇を近づけた。
「前々から… 俺達も少し気にはなってはいた。しかし、それには確たる情報がない。足りないんだ」
「じゃあ… 決定的な証拠とか、怪しい人物とかのそう言う物もないのですか? 何か、少しでも… 」
その言葉に、首を振る事で意思を示した。
「… 先程、男はまだこの中にいるのではないかと、そう言ったな?」
「はい」
「何故そう思う?」
「私は攫われて目が覚めた時に、この部屋をくまなく歩き回りました。あの扉以外に、出口や抜け穴などがないかを確認するために」
「それで? 怪しい所は見つかったのか?」
「いえ… やはりあの扉以外にそれらしい物はなく… 私の探し漏れがあったかもしれませんが… 」
「なるほど… 」
2人は互いの意見を忍び声で会話をしていた。
そう、その距離感を忘れていたのだ。
ふとその温もりに、再度恥ずかしさが込み上げてくる。
「リ、リック様?」
「ん? なんだ?」
「私もう一度、この中を調べたいです… それに」
そう言いながらナナはその身体を離そうと、腰に絡みついた腕を引き剥がそうと試みた。
もちろんそれは失敗に終わる。
更に強まった腕とその手には、大きな手が重なることとなる。
「わかった。なら、共に探そう」
そして、立ち上がると共に、ナナの身体を労るように優しく起き上がらせてくれた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
(基本歌は歌っていません)
あくまでも、作者が聞きながら想像し、執筆した楽曲を参考までに載せております。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
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