episode47〜音酒場〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
夕刻となり、ナナは遂に約束の場所へと赴いていた。
もうすぐ沈む柔らかい橙色と、店の外に灯されている橙色が重なり、揺れるように辺りを照らし始めた。
しらふであるはずのその顔には、不穏な笑みが浮かぶ。
(ふ… ふふ、楽しみ! どんな人達がいるのかしら? 楽器は1つだけ? それとも他に見た事もないような楽器があるの?)
ナナには、その高揚を鎮めるのは難しかった。
大きな期待を胸に、その扉を開ける。
鈴よりも大きな音が、客の出入りを知らせるように鳴り響いた。
お酒の香りと楽しそうな笑い声。
慣れない雰囲気に、ナナは一瞬戸惑った。
しかし、その肩を優しく掴まれると共に、少し角ばった席の方へと誘われた。
その席はまるで、事前に予約してあるかのようだった。
いや、その通りだった。
ネイルによって、その全てが手配されていたのだ。
注文の品を待っている間にも、ナナはその楽器達が目に入って仕方がなかった。
「なるほど、音楽を自由に弾ける酒場のようなものか?」
そう言いながら、ナナがソワソワとしているのを感じ取ったリリック。
「はいっ! あれ? でも… そちらには、誰も目もくれてませんね? 皆飲んでばかり… ?」
まだ開店したばかりであるのか、音を奏でるような気配は未だしなかった。
「それにしても何だか… 男性が多くないですか? というよりか、女性は私しか… ?」
ナナは素朴な疑問を投げかけた。
「ん? 確かにな… まぁ、酒場なんてそんなもんだろう?」
(この国では女性は、こういう場にいる事自体がかなり珍しいのかしら? かくゆう私も、あっちの世界では未成年だから、初めてなんだけども… )
運ばれてきた食事に手を付けつつも、ナナは様子を伺っていた。
「気にせず弾いてきたらどうなんだ?」
リリックは飲み物を片手にそう言う。
しかし、ナナにとってそれは、とてつもなく勇気ある行動であった。
いくら大舞台を何度か踏んできたからと言っても、その度に心臓を抉られるような緊張感に襲われるのだ。
ましてや初めての場所。
男性しかいないその視線に、耐えられるかとても心配であった。
(お酒が入ればきっと… その勢いとかで、いけるんだろうな… )
そう思いながらも、胸の高鳴りが止まらない。
(弾きたい… 弾きたいけど、でも今日はこの場の雰囲気を味わうために来た… だけ… うん)
「そういえばこの国の成人… というか、お酒を飲んでも問題ない年齢って、何歳からなんですか?」
「ん? あぁ特に制限は設けられてはいないが、男性の成人年齢が18歳で、女性が16歳だから… 」
(16歳? 私、当てはまるな)
「ん? お前… まさか… 」
「え? あ、いやいやいやいや! まさかぁ! 飲もうなんて思ってませんよ! 全く! これっぽっちも!」
「… ならいいが」
「えへへへへ」
ナナはニヘラと笑いながら、リリックに向かって強く頷いた。
ある程度、空腹を埋めたナナ達。
段々と店の中も賑わいを増してきていた。
ほぼ満席となってきていた頃、ふと中年の男性がヴァイオリンへと手を掛けた。
ナナは、その動向をまじまじと見つめていた。
(あ… 弾くのかな?)
そう思いながら、どんなものかとナナは見ていた。
しかしそれは、とても音楽とは呼べるような代物ではなかった。
不協和音として、店内へと響いてしまっていたその音は、耳を塞ぎたくなる程であった。
空いた皿を下げに来た店主に、ふと声をかけるリリック。
「ここは、自由に演奏しても良いのだろう?」
「はい、左様ですが」
「何故、誰も演奏する者がいない?」
「まぁ古い楽器しかないですからね。それよりも料理と酒の美味さ、そして ’他の目的’ の方が繁盛してしまいまして、調律も滞っている次第です」
「なるほど… 」
(手入れが行き届いていないと言うことか… )
その言葉を聞きながらもナナは、今もまだ楽器達の方を見ていた。
「ナナ? どうする? 今日はやめと… 」
すると、ナナは席をおもむろに立ち上がった。
その足取りは、何故か少しばかりふらついていた。
(ん?)
側近であるネイルが、ある事に気が付いた。
「リリック様っ!」
「何だ?」
「グラスが… 」
先程までリリックが口にしていたグラスの中身が、いつの間にか減っていたのだ。
中身はもちろん酒である。
「なっ… あいつ!」
しかし、時は既に遅かった。
3分の1程残っていたものが、すっかり空となって向こう側がぼんやりと見えていたのだから。
しかし、飲み干してしまった本人も、その事実に気が付いていないようであった。
彼女は演奏の方ばかりに気が取られていて、手元を見ていなかったのだから。
なので、これは言わば ’不慮の事故’ なのである。
ナナはその味覚を感じない程、高揚していたのだ。
興味本位で楽器を弄る男性に、ニコリと笑みを向けたナナ。
「お? 何だ? 嬢ちゃん弾けるのか?」
ナナはその笑みを向けたまま、特に言葉を返すこともなく、ピアノの椅子へと座り始めた。
「俺もな、昔はやっていたんだよ? そうだ、いっその事、一緒に演そ… 」
しかし、その瞬間、ナナは鍵盤に手を掛け、思うがままに弾き始めた。
声を抑える事の難しい酒場の大きな賑わいが、段々と静まりかえる。
ナナの演奏に、気が付き始めたのだ。
そしてそれは、徐々に歓声と囃し立てるような声に変わっていく。
長い間、調律が行き届いてないそのピアノの音には少しズレが生じていた。
弾き始めはそうだった。
しかし、持ち前の音感を活かしたナナはそのズレさえも感じさせないほどに、自身のものにしていく。
「さすがだな… 」
ボソリとそう言いながら、その音に聴き入るリリック。
(だが、これとそれとは別だ… 約束を破った事は… どう落とし前をつけようか?)
そう思いながらも、リリックは心地良さそうに笑みを浮かべていた。
1曲目を弾き終わると、ナナは満足そうな笑みを浮かべた。
そして2曲目へと、手を掛けようとしたその時だった。
ある影が、ナナの方へと覆い被さるようにかかった。
その者は、ずさんに置かれている楽器の中からギターを取り、近くの椅子へと腰を下ろした。
(あれ?この曲… あの曲に似ている… )
そう思いながら、自身の知っている曲に置き換えるように、鍵盤を走らせた。
その曲に似たものを弾こうと思っていたのか。
たまたま旋律が似ていただけなのか。
ナナの音色を汲み取るかのように、そのギターは手慣れたように音を重ね始めた。
ここには、自身しか知らないはずのその曲だ。
難なく合わせるその音に、ナナは何だか懐かしさを感じていた。
ナナは心地良い気分で、指を走らせ続けた。
そして、その者の方へと目を向けた。
それもそのはずだった。
その人物が登場した事に、ナナは非常に驚いた。
その為、音が少しだけ乱れてしまった。
ナナだけではない。
リリックやネイルさえも、驚きを隠せないでいた。
「セダさんっ!? どうしてここに!?」
聴き慣れた演奏の音の持ち主は、自国の庭師長でありリリックの従兄弟でもあるセダリアであった。
彼はニコリと笑うとその演奏を促すように、ギターを弾き続けた。
セダリアは、個人的にお忍びでこの国へと来ていたのだ。
その事実に、リリック達も知らずにいた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回、ナナが酒場で弾いた一発目の曲は、
MIMIさんの【アンダー】です。
2曲目に、ナナとセダリアが即興で演奏した曲は、
MIMI(feat.初音ミク&可不)さんの【フィオーレ】です。
もちろんセダリアはこの曲を知らないので、ナナが知っている曲の中から似た曲を演奏しました。
セダリアはそれに合わせるようにしたまでです。
(基本歌は歌っていません)
あくまでも作者のイメージしながら選んだ曲ですので、もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




