episode42〜防御レベル〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
サズリナ国の使用人に案内されたリリック達は、この滞在中、使用する客間へと案内された。
その部屋はとても異国情緒溢れた作りになっていて、パルティシオン国とはまた違った特徴があった。
「素敵… 」
部屋に入るや否や、そう声を漏らすナナ。
煌びやかな照明に、キラキラと反射する装飾品。
座らなくともわかる、心地よさそうな品の良いソファー。
大きなテーブルには果物や飲み物などの歓迎の品がいくつも置かれていた。
それよりも一段と目が惹かれる物がそこにはあった。
ピアノだ。
漆黒を纏っている大きなピアノは、丁寧に手入れをされていた。
この10日程の長旅の間、ずっと弾けてなかった。
ナナは禁断症状が出ていたのだ。
思わずヨダレが出そうになる。
いや、出ていた。
目を輝かせながら、両手の奇妙な動きに、リリックは笑みを溢して言う。
「ふふ、聴かせてくれるか?」
「はい! もちろん!」
そう言うと、ナナはピアノの前に一目散に座った。
いつもとは違う座り心地のその椅子に、しっかり腰を沈める。
そして、鍵盤へと両手をそっと置くと、大きく深呼吸をした。
久しぶりの音を部屋中に轟かせる。
今回は約束を破ってはいない。
リリックの前だけだからだ。
ネイルの存在。
彼は仕事中なので、カウントされないとしておこう。
ナナは、嬉しそうに鼻歌と歌声を混じらせながらピアノを走らせた。
いつものように、ソファーに座りながら、ピアノの旋律を脳内へと取り入れるリリック。
しかしいつもと変わらない音色のはずが、今日は状況が少し違った。
異国という特別な空間。
更には、婚約者に弾いてもらうその音色は、とても心地良い気分であった。
久しぶりの音を堪能したナナとリリック。
その想いはそれぞれあれど、互いに満足のいくものであるには変わりなかった。
そこで、ナナはある事に気が付いた。
ふと、眠気が襲ってきたその時だった。
(そろそろお暇をと… ん? あれ? そういえば… )
そう… ここでひとつ、ナナにとって予想外の飛び切りな問題が起こったのだ。
部屋の奥にある、大きくレースで覆われたベッドが目に入った。
1人分にしては大きさが異常だった。
まさしく、王族が睡眠を得るための造りであることは一目瞭然だった。
しかし、そこではない。
ナナが気になったのは、数だ。
部屋の中に用意されている物は、全て2つずつセットになるように見えた。
まるで2人部屋かのように。
その塞がらずに止まったままの口を見て、リリックは声をかけた。
「どうした? 何が不備でもあったか?」
「あ、いえ… えぇと、ここはリリック様のお部屋ですよね?」
「そのはずだが?」
「そうですよね? 素敵なお部屋を見せて下さり、ありがとうございます」
「ん? あぁ… 礼ならレクアに… 」
「そうですね。ではそろそろ私のお部屋に… お邪魔しま… 」
「ん? 何を言っている?」
ナナはそのちょっぴりよぎった真実を受け入れないようにと、何とか踏ん張った。
「あれれれぇ? もしかして用意するの忘れちゃったんですかね? そ、そうか! カレン嬢が来ると勘違いしていましたものね! だから部屋を1つしか用意してなかったんです! 今からでも… 」
その肩にずしりと重い手がのしかかる。
「おい… 良い加減に認めろよな? わかっているんだろう? 人は違うが、婚約者という事には変わりない。ここはパルティシオン国の殿下と、 ’その婚約者’ の為の部屋だ」
「っな… まさか、本当に? この部屋で… 私達は1週間程過ご… すと?」
「当然だろう?」
「えっ!? いきなり、ハードル高過ぎませんっ!?」
「… お前、まだ自分の立場を理解していないようだな?」
「ぐ… っグギギギ」
「それに、何をそんなに懸念している?」
「…… 」
「あぁ… なるほど、そう言うことか。大丈夫だ。今夜は手出しはしない」
(今夜は… ?)
「ふっ… もっともお前がその ’何か’ を望んでいるのであれば別だが?」
「っんな! な、何を仰っ… 」
「ふ、ふふふふ」
「…… っぎぎ… 」
ナナは顔を真っ赤にしながら、その珍しい笑みを目を細めて見た。
「とりあえず、疲れが溜まっているだろう? … そのはずだ。早めに休め」
(休めって言われたって… ベッドが1つしか… ん? それにしても本当に随分と広いベッドだな… これなら)
こうして、同じ部屋で過ごす事となったナナとリリック。
寝支度を済ますと、即座にその大きなベッドへと身を沈めた。
(何よこれ! すごいふかふかじゃない! リリック様さえいなけりゃ、ダイヴして泳いでいたのに!)
そう思いながら、ナナは更に掛け物を深く被った。
彼女にとっては、10日にも渡る初めての長い旅路だった。
そのため、今すぐにでも眠りに就きたかったのだが、同じ空間にいる彼がそうさせてくれない。
「何故そんな隅にいる?」
ナナの今にも落ちそうなその位置に、疑問を投げかけるリリック。
「… このくらいの距離なら… 」
「なら? … 安全だとも?」
「…… 」
「そうか。どう安全なのか説明して欲しいくらいだな? その護衛レベルは、一体どのくらいの信用性があるんだ? ん?」
「レベル… そ、それは相手の信頼度にもよります」
「なるほど… そう言われると、逆に襲いたくなるな?」
「え… ?」
「… クク… 冗談だ」
(おちょくって!)
ナナは掛け布団という、その薄い防御レベルを上げた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
サズリナ国へ辿り着き、最初に弾いた曲です。
MIMI(feat.にんじん)さんの【What Call This Day?】
1週間過ぎにも及ぶピアノ不足になっていたナナは、思わず歌を口ずさみながらこの曲を弾きました。
それをイメージしながら書いたので、宜しければ合わせて聴いてください。
もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。
 




