episode41〜遠征〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
(何故こうなった… ?)
ナナはその疑問符を付きながらも、その揺れる箱の中に身を委ねていた。
先程から視線が気になっているのは致し方ないのか。
その方向に目を向ける事なく、小さな窓から遠くに見える見慣れない城を眺めた。
「どうした? ナナ? 何か不安か?」
その言葉にナナは、いつもなら決してすることのない鋭い目を彼へと向けた。
「不満だらけですよ! 何故私が、このような格好で、馬車に乗せられてるんですか!?」
「それに関しては、何度も説明しただろう? お前はもう俺の妻だ」
(まだなってませんが?)
「そのドレスもとても、に、似合ってる… 凄く… 綺麗だ」
「っんな! … そ、それはどうも… あり… がとうございます」
ナナは聞き慣れないその言葉に、つい照れてしまった。
そう、ナナは先日のリリックからのプロポーズにより、婚約者としてある国へ行くために馬車に乗っていた。
行き先はと言うと、これもまた先日のある国の者との約束が適用されていたためである。
遠くに見える城は、そのサズリナ国城である。
そこで待っているのは、サズリナ国殿下であるレクアであった。
彼が殿下である事は、つい昨日知ったばかりだった。
(リリック様とそういう仲って… こういう事だったのね… )
そして、納得いかない声が再び上がる。
「リリック様。私はサズリナ国へ行くとは申しましたが、このような格好でとは聞いておりません」
(しかも一緒の馬車だなんて… )
「当たり前だろう? 俺の妻としてだ。正妃としての身なりとしては、妥当だと思うがな?」
「正妃… 本当に私を娶るおつもりで?」
「他に選択肢があるか?」
(えぇ… 私以外の選択肢しか無いのでは?)
「… それに、数日前からそれに向けての教育も受けて来ただろう?」
(あれは地獄だった。何回背筋が攣ったか… できれば二度と受けたくない… )
「素直に受けたと言う事は、つまり… そう言う事だろう?」
(そう言う事… ではない)
そんなナナに比べ、最近のリリックはとても上機嫌だった。
ガラス越しに映る自分を見て、更に不機嫌な顔になるナナ。
(本当… 誰よコレ)
高貴な馬車に揺られながら、刻々とその城は大きく近づいていた。
つまり、当初はサズリナ国へと演奏者として行くはずだったナナは、リリックの婚約者として向かうはめになったのだ。
演奏はそのついでとなる。
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馬車から降りると、ナナはその身を思わず伸ばしそうになった。
横からの視線が、釘を刺すように何かを示す。
(うげっ… ネイルさん)
彼はリリックの側近として、今回もいつも通り横に立っていた。
しかし、最近は少し彼の状況も変わって来ていた。
主人に加え、婚約者にも目を張らなければならなかったからだ。
彼は、正反対の2人に少し困惑していた。
2人は関係が婚約者として発展してから間もない。
それを慣れない土地でなさなければならないのだ。
ある意味監視にさえも近かった。
国際問題に発展するような事になってはならない。
今まで以上に気を張る側近に休まる時はない。
城の中に足を踏み入れた一行は、更に奥の王座の間へと案内された。
手慣れた様に挨拶をしているリリック。
彼の斜め後ろにいるナナは、その言葉を脳内へと留める事なく、この国の王族達を見つめていた。
高く上がった階段の上に座るサズリナ国王陛下。
その横には、見知った顔があった。
遠目に立つ彼の表情はわかりにくく、こっちを見ているのかもわからなかった。
(レクアさん… いや ’様’ か? 本当に殿下だったんだな… )
更にその横には、何人かの王族も並んでいた。
そして、国王と並び優雅に座るのはこの国の妃だ。
その姿に目を取られるナナ。
つい観察してしまっていた。
(お妃様… 美しい。座っているだけであんなオーラ… どうやったらあんな風に? やっぱり姿勢は大事よね? でも私には到底無… っは! 何言ってるの! まだ妃になるってわけじゃないのに、何その気になって!)
ナナはその歯を食いしばった。
その姿を見て、ネイルは目を細める。
(また何か余計な事をお考えになられてるな… )
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国王陛下への挨拶を終わらせた一行は、早速ネイルの部屋へと案内された。
「久しいね、リリック」
そう言いながらもその目線は、リリックでは無いところへと向けられていた。
「ん? あぁ」
(ナナを探しているのか?)
「随分と冷たいじゃないか。まぁ通常通りか… それより、彼女はここにはいないのか?」
「彼女? … とは?」
「ナナだよ。今回はナナを連れて来ることが本来の…
その言葉に、その場にいた全員が驚くようにして、目を丸くした」
「ん? なんだ?」
すると、リリックはそのまま言葉を少しだけ弾ませながら言う。
「ふっ… 見事だな? そう思わないか? ネイル?」
「左様にございますね。しかし… 」
そして、ナナ本人が苦々しい口調で口を開いた。
「あ、あのぅ… 」
「あぁこれは失礼。リリックの婚約者である… えぇと確かカレン嬢でしたね?」
レクアは、そう言うとそのまま婚約者の前にまで行き、ひざまづいて手の甲にキスをしようとした。
しかし、その行為に慣れていないナナは、その手を思わず引っ込めてしまった。
驚いたように、顔を上げるレクア。
「レクアさん? ご、ごめんなさいっ! ちょっとびっくりしちゃって… こういった挨拶をされるとは聞いてはいたのですが、実際にされるのは初めてなもので… 」
そう言いながら、ナナは照れるように、レクアの顔をチラリと見た。
彼の顔が固まっていたのは、目に見えてわかっていた。
しかし、何故固まっているのかは、ナナには理解できていなかった。
「嘘… だろ? ナナなのか?」
「え? あ、はい! お久しぶりですね、レクアさ… あ、いえ、レクア様」
そう言いながら、笑みを見せたナナ。
「え? どうしてそのような格好を? 本来ならその位置には、婚約者であるカレン嬢が… 」
「そうだな。 ’婚約者’ であることは確かに変わりない。しかし、アレは仮初のものだった。元々その気もなかったしな。現在、正式な婚約者はナナだ」
リリックの言葉に、目の色が変わるレクア。
その反応を予想していたのか、気にも止めていないのか、そのまま続けるリリック。
「その為、今回はピアノ演奏者を兼ねた婚約者の立ち位置として連れ添ったまでだ」
そのなんとも言えない表情に、ニヒルな笑みを浮かべるリリック。
「… 本当なのか、ナナ?」
「え? えぇと… そうな… 」
その瞬間、四方から鋭い視線が刺さる。
「そう… なんです… かねぇ? えぇといつの間にか… ねぇ… 本当」
ナナの煮え切らないような返事に、首を傾げるレクア。
「まぁそういうことだ。大丈夫だ。演奏なら完璧に弾いてくれる。 ’俺のナナ’ がな」
(俺のナナ?)
牽制を張るような言い方に、ナナは少しだけ目線を刺した。
(どうなっている… )
「… 部屋を用意してある。今日は疲れただろう。ゆっくり休むといい。演奏会は3日後だ」
少し棘のある言い方で、リリック達を案内させるように使用人に命ずるレクア。
いつもはしない笑みをニコリと向けると、リリックはその場を後にした。
(何この空気… ピリピリ感がなんとも… )
ナナは何だか居た堪れない気持ちになりながらもリリックの後について行った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
(基本歌は歌っていません)
お好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




