episode40〜紐解き〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
「それは… 側室というお考えで相違ございませんか?」
納得いかないような表情を、更に浮かべるセダリア。
「もちろん正妃だが?」
「なっ、何を言い出すんだい!? だってそこにいるカレン嬢が正妃としての… 」
「鼻からそのつもりがない事くらい、お前にもわかっていたであろう? それにそんな儀を行った覚えもないしな」
そのさらりと突っぱねる言葉に、前のめりになるカレン。
「な、何を仰っているんですか!? わ、わたくしに仰ったではありませんか! 愛していると! 周りの者も耳にしていたはずですっ!」
訴えるように言葉を放つカレンに、更に冷たい視線を投げるリリック。
「その偽りの言葉が、何日も俺を苦しめたんだな。そんなものが欲しければいくらでもくれてやる。その耳がある限りな… 」
その言葉に、血の気が引くカレン。
しかし、リリックは言葉を止めない。
「それに、あれはお前が全て仕組んだものであろう? よくもまぁ、白々しくそんな事を言えたもんだな?」
「え? 仕組んだ? リリィ? それってどういう事?」
すると、リリックは側近であるネイルへと目を向けた。
それを命令と受け取ると、ネイルは口を開き事の説明をし始めた。
「はい。あの日、カング広場で突如現れた煙幕のような物は、水蒸気だと確認出来ました。それは何処で作られたものか、すぐに分かりました」
「何処なんだい?」
「都の南端にある工房です。そこの主人も当初はそのようなことに使用されるとは、思ってもみなかったそうです。
店の主人は事件の事を聞き、すぐに自身が作った物だと気が付き、慌てておりました」
「でも依頼内容で気が付くはずじゃ… ?」
「それがその依頼内容とは、
’川向こうにいる愛する人にも届く距離の、とびきりの媚薬を‘
だったそうで」
(そんな… バカな。店主さんは相当ロマンチストなのかしら? それとも、仕事に忠実?)
ナナの浮かない顔に気が付いてはいたものの、話を続けるネイル。
「そう言われた彼は、物理的にそのままの意味に捉えたそうです。川の向こう岸にいるくらいの距離でも、届くようなと」
「怪しいとは思わなかったのかしら?」
「その容姿は、声と背格好で女性だとは分かったそうです。断ろうとも思ったが、その工房の5年分にも当たる大金を目の前に出され、ふた言目には承諾していたそうです。それに… 」
(あ、後者の方か… )
「それに?」
「何よりも、その紋章がモルバード家の証であると気が付いたそうです。彼は、とびきりの媚薬を作ろうと思ったのです。成功すれば更なる仕事に繋がりますからね」
「紋章? どこに?」
「髪飾りだそうです」
その言葉に、思わず髪の毛を抑えたカレン。
「でもそれをいつ、どうやってリリック様に?」
「それはいつでもできました。モルバード卿とは昔からの長い付き合いですからね。王宮とは切っても切り離せない間柄になりつつあります。
その息子であるリリック様を、屋敷に呼ぶなんてできるのは、王族以外ではもはやモルバード卿くらいです」
「なるほど」
「しかし、カレン嬢にとっても予想外のことが起きました」
そう言いながら、ナナの方を見るネイル。
(ん?)
「あなた様ですよ。ナナ様」
「わ、私?」
(え? 待って、今継承で言われた?)
「あの日、都中の注目を浴びていたセダリア様と、一緒に… その、散策をしていたのですよね?」
(散策… )
「それを根に持った都の令嬢達が、2人の後をつけた。
媚薬をちょうど受け取った帰り道だったカレン嬢とぶつかり、運悪く噴水へと投げられたようなのです。
それが水と反応し、更には噴水の特徴を思う存分発揮させてしまった」
(噴水の中の水が撒き散らされたのか… なんて事… )
「更に付け加えれば、モルバード卿には娘は1人しかおりませんからね。そこにおられるカレン・モルバード嬢、ただ1人です」
「な、何を言っているの!? もしかしたら私に扮した者かも! 髪飾りだって、いつでも誰かが持ち出せるかわからないじゃない!」
「そうですね。その可能性もございました。決定的だったのは、その匂いです。その香水は、モルバード家が買い付けに行った時に、特別に作ってもらったものではございませんか?」
その言葉に、セダリアは近づき確認するように匂いを嗅いだ。
「確か… 色んな令嬢に会ったけど、このような匂いのする子は、1人もいなかった」
セダリアは、リリックの誕生パーティー後に押し付けられたあの日々を思い出していた。
「そう、これはその時カレン嬢の為だけに作られた物。唯一無二の代物だそうで。それをあなたは、とても大切にしておられたそうですね?」
「じゃあそれも誰かが、きっとわたくしの香水を盗んだに違いありませんわ!」
「それは、俺の事も含まれているのか?」
「あ、い、いえ! そんな! リリック様を疑うなんて… 」
「そうか? しかし、実際にその香りを拝借し、工房の者に確認させたのは、この俺なんだが?」
「え?」
リリックのまさかの告白に、驚きを隠せないでいるカレン。
その開いた口は、令嬢なる者がするような大きさではなかった。
「其方の父上が言ったのであろう?
『2人の婚約を祝って、食事会を設けたい』と。
だから、あの夜行ったではないか? 其方の屋敷に」
カレンはその言葉を聞いて、あの夜の事を思い出していた。
それは、カレンが仕組みリリックに言わせた、あの日の翌日のことであった。
ナナに昼間の演奏をさせた後、モルバード卿の食事会に赴いていたのだ。
ナナはすっかり寝入ってしまって、仕事へと無断欠勤をしていた頃だ。
「そして、其方の部屋に誘ったであろう? 自ら」
「… っは! あの時… 」
「思い出したか? そう、俺はあの時、小さな小瓶を落としてしまったよな? そう、 ’つい、うっかり‘ な… 」
ギリギリと何かの擦れる音が、ナナの耳に心地悪く聞こえる。
「そして慌てたお前は、一度その部屋から出た」
「それが… 目的で… ギリ… その為だけに、わたくしの部屋に… ギギ… 入ったと?」
段々とその音が大きくなった頃には、それがカレンの歯軋りだと気が付いた。
「敵わなかった。あの咽せるようなキツイ匂い… どうにかなりそうだった」
カレンが部屋に戻った時には、部屋の中はもぬけのからだったという。
「まぁ、モルバード卿の手前、お前をぞんざいには扱えないと思ってはいた」
(話を聞いている限り、十分ぞんざいだけど?)
ナナはそう思いながらも、話の行き先を見守っていた。
「だから俺も陛下とある約束をした」
「ある約束?」
「いちいち説明する義理もないが… まぁついでだ、言っておこう」
そう言いながら、その視線をセダリアにも移す。
「この大会で優勝した暁には、今ある婚約もどきは破棄し、そして正式にナナを正妃に迎えると」
「なっ… いつの間に!?」
「え? そ、そんな… ん? え? でも何故私?」
ナナは自身だけが知らないその疑問を、ボソリと投げかけた。
(気が付いてないのは、君だけだよナナ… )
「それは… そのうちわかる。それにだ、可愛い息子の初めてのお願いだ。父上は、嬉しそうに言ったよ。
『どんな願いでも叶えよう』とな」
(可愛い… 息子?)
ナナの脳内は、混乱に混乱を重ねていた。
その場に崩れ落ちるカレン。
(うわぁ… 公開失恋… 初めて見た… って違う! それよりっ!)
「そう言う事だ。今後一切手を出すなよ? 出した者には制裁が下ると思え」
そう2人に言い残し、リリックはナナの腕を引いて、その場から颯爽と出た。
その顔に満足気な笑みを浮かべて。
(え… えええぇ!?)
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そして、ナナの自室化したその部屋に到着すると、気持ちが溢れ出た。
「リリック様! 先程の… っ」
「さぁ今日の分を聞かせてもらおう」
それを抑えるように促すリリック。
「え? こんな時に何言ってるの?」
ナナは思わず心の声が漏れていた。
その無礼なはずの口調に、リリックは嬉しく思っていた。
「ふっ… こんな時からだ… どうにかなりそうだ。心を落ち着かせてくれ」
(お、落ち着かせるって… 落ち着かせる? 何でリリック様の方を? まぁでも… )
そう言いながら、ナナはピアノの前に腰を下ろした。
あくまでも、ナナの中では未だ主従関係だった。
だから抗えるような理由なんてない。
いつものようにソファーの上に、リリックも座り始める。
ある者はこれが夢であって欲しいと願いながら。
ある者はその絶望を挽回する為の糸口を見つけようと考えながら。
ある者は夢見心地なこの気分を存分に味わいながら。
そしてある者は… その夢見心地な気分の意味が何であるのかを… 何故そう感じてしまっているのかを… 音に纏わせながら。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
リリックが心を落ち着かせて欲しいと依頼した今夜の曲は、
ロクデナシさんの【リインカーネーション】です。
(基本歌は歌っていません)
もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




