episode37〜揺らぐ〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
演奏が終わると、開会での演奏後と似た雰囲気を感じ取ったナナ。
(ん? あれ? やばいっ! 集中しすぎた!)
そう思い、ナナが席を立ち足早に去ろうとした。
満足感も相まって、油断もあったのかもしれない。
誰かが指を弾く音がする。
次に、何かが落ちる音と共に、肩に何かがかかった気がした。
その方へと目を向けたナナは、ある違和感に見舞われた。
(コイン?)
そう思うと共に、横にある帽子にも目が入る。
「え… ?」
それは、自身にある帽子と似ていた。
違う。
それはナナ自身の帽子であった。
思わず、自分の頭を触る。
ナナはその瞬間、帽子が外れた事に気が付いたのだ。
動揺を露わにしたナナは、思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
その姿に、大きな影がかかる。
「やはり… 女だったか」
「え? やはり? バ、バレてた!?」
リリックが遠くの方で、声にならない声を出す。
ここで前に出ると、ナナを国として隠していた事になり、問題が生じるからだ。
(チッ… )
そう思いながら、側近に合図を送る。
しかし、既に遅かった。
頭を覆いながらしゃがみ込むナナの顔を、自身へと向ける彼の国の青年。
その手は、顎へと当てられていた。
青ざめたナナの顔が、その青年へと向けられる。
(あれ? この人… )
「お前、名は?」
「え? な、名は… ナ… ナ」
「ん? 名は何という?」
「ナ… ナです?」
「ナナ? 変わった名だな? これ落としてたぞ」
「あ… ありがとうご… 」
ナナはその髪飾りを思わず手に取ってしまった。
ニヤリと笑みを浮かべる青年。
そのナナの行動は、確信を更に与える事となった。
(昨日… あの庭で落としたんだ!)
「…… っ」
ナナの目は、史上最高に泳ぎまくった。
リリックの側近がこちらへと向かっているのが、わかったからだ。
(これはもう斬首か!? 処刑なのか!? コワイッ!)
そう思いながら、更に顔が青ざめる。
そして次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
恐怖のあまり、気を失ったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
身体が宙に浮いているような気分だった。
途中で目が覚めたナナは、目の前にある顔面に驚いた。
「えっ!? セダさん!?」
「ナナッ!? 大丈夫かい!?」
「え? あっ私! 私、さっき死を覚悟しました。もう一度覚悟し直した方がいいですよね?」
「え? 何のこと?」
(頭でも打ったのかな?)
「だって、さっき帽子が取れて、顔を見られて、女だって言われました! それに、リリック様の側近の方が、こちらに向かって来るのが… っきっとあれは死の宣告に違いないです! そういう顔してましたもの!」
(ネイルのやつ… 紛らわしい顔しやがって)
「大丈夫だよ。彼は元々そういう顔だから。それにネイルはナナの事を助けに来たんだよ。おそらくリリックの命令によってね」
「え… そうなんですか? じゃあまだ… 」
「そう… リリックは、君の首を切ろうなんて思っていない。それよりむしろ… 」
「え? そうなんですか? 良かったぁ! では、これでまたピアノが弾けるんですね!」
(え? そこ?)
「はぁ… その言葉を聞いて安心しました!」
「あ、うん… 良かったね、本当」
「それよりセダさん? そろそろ下ろして頂いても、大丈夫ですよ? 私ならもう… それに重いでしょうし」
「ふふ… そんな事ないよ? ずっとぎゅうって、していたいくらいだ」
そう言いながら、セダリアはナナに触れるその腕の力を強めた。
「えっ!? ちょっ… なっ… セダさん!? 冗談でもやめっ… あれ? やだ! セダさんお酒臭い!」
「ふふん… 」
ニコニコと笑いながら、その力を弱めずにナナの頭に頬擦りをかますセダリア。
「えぇっ! 本当やめっ… それに先程まで、あの場で演奏してたんじゃないんですか!? いつの間にそんなに飲んで!?」
その身を離そうともがくナナ。
しかし、大会3位の実力者である彼の腕力には、到底敵わなかった。
その瞬間、痛いという声と共に、ナナの拘束が解かれた。
「この酔っ払いが… 」
その身を剥がしてくれたのは、リリック殿下その人だった。
「痛ぁ… 何すんのさ、リリィ!」
「近寄るな、臭い」
「相変わらず毒吐くなぁ… 」
「ネイル、その酔っ払いを部屋に運んでおけ」
「御意」
そう言われた側近は、第3位の実力者を軽々と抱えてその場を去った。
その後ろ姿を見ながら、ナナが思わず呟いた。
「… あの人、ネイルさんって言うんですね」
ナナが思わず言った一言に、視線を突きつけるリリック。
(まずい… これはお叱りの予感… )
しかし、その肩には温かくも優しい腕が伸びていた。
「え… ?」
「全く… 」
(ん? んん?)
そして、そのままナナのピアノ部屋へと進んで行った。
「今日はもう外に出るなよ?」
「え? あ、はい… あの、もしかして送って下さったんですか?」
「…… あれほど言ったのに… 今日はもう早く寝ろ」
「え? でも、この部屋は私の部屋では… 」
「同然だろう?」
「それって… 」
そう思いながら、ナナは何故か表情が緩んでいた。
リリックの前では、いつも固まるように出来ていたその筋に、自然と笑みが溢れていたのだ。
「… なんだ?」
「ふふ… いえ… でも、あの… ふふ、ごめんなさい… 」
「何がおかしい?」
「殿下は、その… ブッ… ふふ… 不器用なんですか?」
「んなっ、何がだ!?」
ナナはその恐怖が、吹き抜ける風と共に薄くなっていく気がした。
リリックはその溢れる笑みに、嬉しさと恥ずかしさが込み上げてきた。
今まで、恐怖と思っていた存在。
今まで、距離を感じていた存在。
それが今、2人の間から去っていく。
リリックはその手を顔に覆いながら、何かを堪えるように言葉を発した。
「… 明日から解禁だ。休め」
「はい! おやすみなさいませ」
「…… 」
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
(基本歌は歌っていません)
今後、作者が聞きながら執筆した楽曲をその都度、参考までに載せておきます。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




