episode32〜前座〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
そうして、あっという間に時は過ぎ、3ヶ月程が経っていた。
側から見れば変わり映えのない日常。
変わってないと言われれば、変わっていない。
しかし、変わったと言えば、変わった事も多少なりともあった。
それは見た目と心境の変化だ。
あれから前髪を伸ばす事もしなくなった。
しかし、ナナの中の心境はあの日から動き始めていた。
それを誰に伝える事も出来ない。
墓場まで持っていく。
それがここで生きていく為には、大切な事だと思っていたからだ。
自分でも信じられなかった。
まさか自身の心が、
リリックへと向けられるそれが、ここに来てそうなるとは思ってもみなかったからだ。
しかし、初めて抱くその気持ちは、何だか心地の良いものだった。
そして、更に大きな大舞台へと立つことも知らずに、ナナは今夜もその音色を彼の為に奏でる。
ナナは懐かしいその日の淡い気持ちをふと、この場で思い出していた。
3ヶ月前のあの日が、まるでお遊戯会のように小さく感じる。
そう、あのひと言からナナの心臓は、再度淡い拍動を余儀なくされたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それからナナの中の刻は過ぎ… ある大舞台へと立とうとしていた。
それは数年に一度。
この上ない名誉を受けれる特別な日。
その場には、大きなピアノと更に大きな打楽器が2つ用意されていた。
(和太鼓じゃないのが残念だ)
ナナは余裕の無いその心に、少しだけそんな欲を垣間見せた。
しかし、身体は正直だ。
手の震えがすこぶる止まらない。
足も唇もだ。
意思のない歯が、ガクガクと上下に音を立てる。
その進む姿は、手足が揃っていて何とも滑稽であった。
その姿に会場中から、くすくすと笑い声が起こり騒めきを起こす。
ある国の者は言う。
「あれは?」
「秘密兵器だそうで」
「こんな序盤に、秘密兵器なんてもう出しちゃうの?」
更に隣国の者も言う。
「パルティシオン国の番だよな? 大丈夫なのか?」
「… 秘密兵器だそうで」
そう、その秘密兵器と噂されていた者が、今登場中のナナ本人であったのだ。
(なぜこいつがこの位置にいる)
そう思う者もいた。
それもそうだ。
この国の者であれば、そう思うのも仕方がない。
この場には高貴な一族しか、入れないはずなのだから。
リリックの少し離れた所で、こちらをチラリと見る女。
(笑える… 本当にその気になってるつもりなのか… まぁ、それもあと数日で終わる)
そう思いながら、リリックはナナの方へと目線を戻した。
「ナナ… 大丈夫かな?」
そう言葉を漏らすのは、出場者席にいたセダリアだった。
(僕があの場に一緒にいられたら、良かったんだけど… )
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それは、今から約3ヶ月程前の事だった。
「ナナ? 聞いているのか?」
開いた口と目が塞がらない。
もちろん思考も絶賛停止中である。
それもそのはずであった。
ナナはこの日、本国の以外の者の前で、ある演奏をする事を命じられたのだ。
言わば世界デビューのようなものである。
しかも、ソロと来たもんだから、ナナの身体中の細胞は拒絶していた。
ナナは、朝からいつも通り日課の演奏をしている最中に、リリックの側近がその部屋へと来たのだ。
そして、主人の部屋へと行くと、3ヶ月後に執り行われるという国対抗の武術大会での前座を命じられたのだ。
(固まってますね)
側近はそう思いながら、ナナの目の前に手をチラチラとかざした。
我に返るナナの第一声はこうだった。
「何も… 聞こえませんでした」
その両手は耳を塞いでいた。
その様子を見て、リリックは表情を曇らせた。
「…… そうか」
そう言いながら、今度はリリック自らナナに近づいた。
逃さないというように、リリックはナナの両手を押さえ、ナナの左耳に自身の唇を当てた。
「前座で演奏だ」
「ひっ… 」
少し触れた唇と、囁く言葉にナナは鳥肌が立った。
それと同時に、心臓も飛び上がる。
「返事は?」
「ひゃいっ… !」
「ん?」
「はい… 謹んで御受け致し… ます」
「よろしい」
こうして決まった武術大会の前座演奏。
この大会は、数年に一度開かれるという武術大会だそうで、様々な国から精鋭された者達が集まるという。
更には100%の確率で各国の王族も参加する。
開会の儀の最後に、選手達の士気を上げるための前座が行われるのだ。
各国代表は、何かしらの芸を披露する。
剣舞や舞い等その種は様々であった。
そしてナナは今、その前座として演奏する命を下されたのだ。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回冒頭の方で、ナナが弾いた曲は
とあさんの【ステンドノクターン】です。
頭に残るような素敵な音なので、合わせて聴いてみて下さい。
実際昨夜から頭の中で、ずっと離れずに眠った作者です。
今回は、ナナが自分の気持ちに気が付きながら弾いているので、少しウキウキ感が出ながら弾いているのをイメージしました。
(基本歌は歌っていません)
今後、作者が聞きながら執筆した楽曲をその都度、参考までに載せておきます。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。
 




