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episode31〜母〜

たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。

ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。

暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。



気が付いた頃には、部屋に入る光りが少し柔らかくなっていた。


思わず勢いよくその身を起き上がらせるナナ。


(しまった! 寝ちゃった!)


しかし、その場にいるはずの姿がない。


(あれ? リリック様?)


そう思いながら、先程までいたであろう場所を温もりを確かめるかのように触れた。


「殿下なら急用にて、先程出られました」


その声にびくりと身体を弾ませるナナ。


「そっ、そうですか!」


その目つきは、何かを訝しむようにこちらを見ている。


「え、えと、では私は仕事に戻りますので… 」


そう言うと、ナナはその部屋から出ようとした。


リリックの側近が何故ここにいるのかは、この時はまだわからないでいた。


すれ違い様に言葉を与えられる。


「今晩も待っている… と、殿下からの言伝です」


「え? あ、はい! もちろん」


そう言って、ナナは急ぎ庭の方へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(大遅刻っ! いや、遅刻ってもんじゃ済まされないって! 無断欠勤に近い! いや、無断早退か!? それにしてもこりゃまずいっ!)


そう思いながら、ナナはこの上なくその左右の足を走らせた


「ハァハァハァハァ… ッハァァア! セダさん! す、すみませんっ! 仕事に遅れてしまい! あ、いや、抜け出したのかっ」


「ナナ? 落ち着いて! 大丈夫だから、ね?」


そう言いながら、冷や水をナナに差し出した。

それを勢いよく飲み干す。


「… ップハァ… っは! すいません! ついっ」


「ふふふ、大丈夫だよ? またリリィに捕まったんでしょ?」


「え? あ、はい… それはそうなんですけど… でも勝手に、しかも無断で仕事を放棄したのには、変わりないですから! 本当にすみませんでした!」


そう言ってナナは勢いよく、腰を最大限に折り曲げた。


「… それより、リリィは何の用だったの?」


「え? え、えぇとぉ… 私の手を労ってくれたり… ピアノの演奏をしたり… 」


「ピアノ? 昼間っから?」


「はい… 何故かそうなり… 」


「そう… それで? その後は?」


「その… 後?」


「ん?だって随分長かったし、それだけじゃないでしょ?


「その後の… っぐ… 」


(とてもじゃないけど… 言えない… バックハグされながら、そのまま眠りについてしまったなんて… 言えやしないよ… )


ナナが俯きながら、目線を泳がせていると、目の前に影ができた。


「ナナ… ひとつ良いかな?」


「はい? 何でしょう?」


するりと長い指がナナの頬をつたう。


「これだけは覚えといて? 君は僕にとって、とても稀有な存在なんだ」


「けう? 稀有… えっ!? あ! それって… え? どういう… 」


ナナは頭は悪くない。

その意味ももちろん頭に入っている。

辞書として。


しかし、自身に向けられたその意味を理解できなかったのだ。


(僕は君の事を… ナナ。どうかこの気持ちを… )


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれからまだ日が経っていない。


たまにその香りと景色を見たくなる。


今夜も皆が眠りにつく頃、ナナはその場所へと赴いていた。


(っはぁ… いつ見ても本当綺麗。あれから1週間程しか経ってないのに、色んな事があり過ぎて長く感じるわ)


そう思いながら、自身がロディーと共に咲かせた百合の花が咲き誇る庭へと来ていた。


そこにひとつの影が重なる。


ナナは咄嗟に身を隠した。


長い髪が靡く。


微かに鼻歌が聞こえた気がした。

その横顔が月明かりに照らされる。


2階のバルコニーから見えるその姿に、見覚えがあった。


(えっ!? はっ! お、王妃様!?)


ナナは更に息を顰めた。


しかし、それはすぐに意味がないことに気が付く。


「ふふ… 隠れているつもりかしら?」


その美しくも儚い声が、ナナへと向けられているのはすぐにわかった。


手すりに頬杖をつきながら、視線だけはナナを捉えていた。


「王妃様っ! ご、機嫌よう。あ、いえ、こんばんは。突然の無礼をお許し下さい」


「何も無礼なことはないわ。むしろ、お礼を言いたいくらい」


「へ?」


「あなたなんでしょ? この庭をこんなにも美しく彩ってくれたのは… 」


「あ、は、はい。私だけの力ではありませんが… 」


「ありがとう。そして、私の ‘リリィ’ をもね」


「え? えと、それは… 」


「あら? 自覚がなくて? あの子があんなにも楽しそうにしているのは… ふふ」


「あの子… ? リリック殿下の事でしょうか?」


「ふふ… ねぇ? あなたの音が聴きたいわ」


「え!? 音? でございましょうか?」


「えぇ。夜中だから1曲だけ。お願いできる?」


「も、もちろんでございます! あ、しかし、ピアノが… 」


「それならここにあるわ… 来て?」


そう言われ、ナナは急いで王妃の部屋へと足を向けた。


部屋に入ると、月明かりの照らすソファにゆったりと座る王妃の姿があった。


ナナに気が付くと、王妃はその場から微笑むように迎えてくれた。


ナナは一礼し、その美しい真っ白なピアノの前に座る。


(き、緊張するな)


そして、ナナは静かに鍵盤を走らせた。


ゆったりと静かな音色が走り出す。

そして、風に揺られた花の香りと共に、新たな想いがここに残る。


「はぁ… 素敵。あの子ったら本当に贅沢ね… この音を毎晩聴けるなんて」


(ん?)


ナナはその言葉が少し気になったが、今はこの演奏に集中する事にした。


突然の緊張の中で、やり切った安堵感を確かめるナナ。


(あの時の演奏よりはマシか)


そう思いながら、初めてリリックの前で演奏したあの生きた心地のしない時を思い出していた。



最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


今回、王妃の前でナナが演奏したのは、

n-bunaさんの【夜明けと蛍】をピアノカバーしたPiano Echoさんの曲です。


(基本歌は歌っていません)

今後、作者が聞きながら執筆した楽曲をその都度、参考までに載せておきます。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。

あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)

文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。

また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。


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