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episode3〜吉兆〜

たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。

ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。

暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。




訳が分からない。


場違いな風貌のナナが倒れ込んだのを、怪訝な顔達が鋭い眼差しで見ている。


会場の潤しい騒めきとは違う。


ナナはこの視線を知っていた。


すぐにその身を起こすと、一礼したナナは、壁の端に佇んだ。


その視線達はすぐに離れたが、ナナは会場から出ようとはしなかった。

扉の向こうには、こちら側の様子を伺っている彼女達がいる事がわかっていたからだ。


(参ったな… 早くこの場から出たいんだけど)


暫しの間、その存在を消す事に徹した。


(そういえば、あいつら押し入れる前に何か言っていたな)


その悪魔の囁き言葉を思い出していた。



『一発芸でもしたら?』



(何だよあれ… 私に芸ができるとでも?)


そう思いながら、時が解決してくれる事を願った。


会場には、煌びやかな雰囲気と美しい音楽。

それを堪能するかのように、高貴な人々が各々の装いをこれでもかってほどに、見せつけていた。


(眩しい… )


そう思いながら、ゆったりとそして丁寧な音色をナナは耳に入れていた。


(素敵な音楽… 意外と知ってる楽器があるわね)


その中でもナナはその中心的存在の楽器が目に入った。


(ピアノか… 私も本物触ってみたいな… ん?)


ふと、転移前の日常を思い返していた。


習った事はないが、電子的なマット上のピアノを良く机の上に広げていたあの頃を。


(ピアノ… そうか! ピアノ!)


そうひとつだけ。

たった一つだけ心の支えとして、自我を保つ為に前世でしてきた事があった。


ピアノだ。


しかし、特に習った事もないので、独自の方法と耳だけの趣味だ。


あの世界では、ボーカロイドという音楽にハマっていた日々があった。


いろんな曲を聴き、真似事のように弾いていた。

その結果もの凄い上達ぶりを発揮してしまっていた。


あの時だけは楽しかった。


誰に聴かせるわけでもなく、ただただ色んな曲を弾き続けていた。


没頭できる何かがあるのはとても素晴らしい。


再び意識を会場内に戻す。

会場には豪華な音色が流れている。


目の前には、本物のピアノがある。


やるしかない。


いろんな楽器の演奏者達がいる中、今のナナにはピアノしか目に入らなかった。


専属であろうか、伴奏者が腰を下ろしている。


そんなものは見えなかった。


ナナは先程、空気になるの事に成功していたはずだった。

しかし、その消した存在を自らの足で再び現したのだ。


彼女達を黙らせたかったのか?

この状況を変えたかったのか?

ただ単に本物のピアノが弾きたかっただけなのか…


何を思ったのか自分でもわからない。


そうしなければ奴らは満足しない。

そう思っただけかもしれない。


ならば満足させてやろう。


その気持ちは、勢いを増す為なのか。


とにかくナナはその踏み出した一歩を、次の一歩に繋げた。


進み始めた足は止まる事はなかった。


本当は怖い。


変な汗を掻きつつも、久々にナナの細胞は躍った。

心も腕もだ。


真っ直ぐにその身を鍵盤の前に座らせる。


(わかったわ… やるしかないのね)


そう思いながら、両手を規律ある鍵盤に置く。


周りが自身の演奏を、どう思おうが関係なかった。


目の前には、白と黒の細長い鍵盤しか見えなかったのだから。


しかし、緊張と震えが離れてくれない。


(あーもうっどうにでもなれ!)


そして左右の指先を動かした。


そして、あの時1番好きだった曲を奏でる。


(… っ! 何これ)


本物の鍵盤は違う。


そのずっしりと来る鍵盤は、とてもじゃないがコントロールしきれなかった。


それでも自分なりに鍵盤を走らせる。


周りにいる者達は、その聞いたこともないメロディーと鍵盤の速さに驚きを隠せないでいた。


一瞬にして会場中の会話が止まる。

目線がピアノの方へと一斉に集まる。


その音色は、この世界には存在しないらしい。


今こそ、その音を鳴り轟かせる。


その音に注目が集まる中、一心不乱に鍵盤を叩くナナ。


そして何よりナナは、ある感情を爆発させていた。


(た、楽しいっ!!)


中盤あたりまで弾いたところで、何かが落ちる音がした。


気にせず引き続けるナナ。

しかし、すぐにそれは新しい色として参加し始める事となる。


弦楽器の演奏者の1人が、その手を動かしたのだ。


それに釣られ、周りの演奏者達も奏で始める。


ナナの音に合わせて、それぞれの音色を奏で始めたのだ。


それは今まで感じたことのない、また別の楽しさ。


思わず口角が上がっていたのにも気が付かず、一心不乱に鍵盤を叩き続けた。


そして、最後の一音を奏で終わると、辺りは喝采で溢れた。


その音でナナは我に返り、その場を後にしようと逃げるように扉を開いた。


その後ろで、何かが聞こえた気がした。


しかし、その声を振り切りナナは会場を一目散に後にした。


先程とは違う、地に落ちたような気分だ。


頬に生ぬるい感覚が流れる。


(やって… しまった… いや、やってやったんだ… でも、これが正解だったとは到底思えない… けど)


その涙は焦りからなのか、はたまた嬉しさからなのか。


今のナナには感情の理解が、追いつかないでいた。


なんとも言えぬ感覚と、目立った後の後遺症がきっと来る。


そう思いながら、必死に走った。


とにかく走る。


誰かが追ってくる気もした。


しかし、その足は止まることはなかった。

進み始めたその運命も。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

今回、ナナが晩餐会で激奏した曲は、

MIMIさんの【マシュマリー】と言う楽曲を聴きながら、執筆しました。(作中は基本歌は歌ってません)

ピアノの音が、会場を圧倒させるのをイメージしながら、読んで頂けると雰囲気を感じれるかもしれないです。

とても素敵な曲です。

今後も作者がイメージしながら聞いていた音楽をその都度、参考までに載せておきます。もちろんお好きな曲を聴きながら、読んで頂けると楽しいと思います。

あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)

文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。

また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。

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