episode21〜彼の為の曲〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
ナナは未だ、会場に馴染めずにその場に佇んでいた。
楽しむ余裕なんてない。
この場も雰囲気も苦手だ。
顔を横に向けると、更にご令嬢達に囲まれたセダリアの姿がかろうじて見えていた。
(立場上、疎かにできないんだろうな)
そう思いながら再度上方を見ると、目が合っているのかいないのかわからないほど、つまらなさそうなリリックの姿が見えた。
(早く終わらせて部屋に戻りたい… )
すると、会場の中心寄りの方から、視線を感じたナナ。
綺麗な女性がこちらを見ていた。
(あの人… さっきからずっとこっち見てるな… )
自意識過剰かと、思い込んだナナは会場の端に大きく積まれたある物が目に入った。
ゆっくりと近づき、それを確認する。
「うわぁ… 」
それを見て、ナナは自身の物を思い浮かべた。
(これは… 私なんかのと比べ物にならないな… )
それはリリックへと贈られていた、大量のプレゼントだった。
そして、心地良い曲と共に贅沢な演奏が聴こえてきた。
ダンスの曲が止まったのだ。
この国随一の演奏は、脳にも心にも心地良い。
素敵な曲から耳が離れない。
ふと、ナナは思い出した。
(はっ! 私の出番っ!)
そう思いながら、ピアノのある方に振り返る。
見知った奏者達が、ナナの方に合図を送っていた。
ピアノに向かって、歩みを進めるナナ。
(ヤバい… 緊張してきた… )
そして、ナナの為に空席となったその椅子へと腰を下ろす。
「ふぅ… 」
ナナは深呼吸をして、ゆっくりとその音を奏で始めた。
リリックの為の演奏が今、始まる。
一音一音を大切に、彼を思って選んだ曲は、先程とはまた違った心地良い音として会場中に流れる。
一曲目が終わると同時に、その足が動き出した。
二曲目の始まる音と共に一段、また一段と降りるその姿は会場中をざわつかせた。
ナナには知る由もなかった。
その身を、あの椅子から切り離すことの大きさを。
国王も、驚きを静かな反応として目で追っていた。
ファーストダンスも決して踊らないリリックが。
今まで一度もフロアへと降りることのなかったその足が。
今、ナナの音色に惹きつけられるかのように。
皆が驚く中、ナナはその姿が降りて来た事も気が付かなかった。
しかし側にある椅子に座り、足を組んだその時に、彼がこの音を聴きに来たのだと分かった。
ナナはふっと、自然に笑みが溢れた。
(そうよね、せっかくリリック様のために弾いてるんだもの。近くで聴いてもらわないと)
そういう感覚でしか思っていなかった。
リリックはその姿を横から近くでじっと見つめながら、心地良い音を身体中に感じていた。
最終曲へと入る。
しかし、ここでナナは気を緩ませてしまった。
予定にはない声を途中で発してしまったのだ。
そう… 思わず、数フレーズ歌ってしまったのだ。
その声に、更に心を奪われるリリックは、静かな笑みを浮かべていた。
もう堪えられない。
抑えることもできない。
その表情も気持ちも。
この時のためにあったのではないかとさえ思ってしまうほどだった。
(は! まずい! つい、調子乗って歌ってしまった)
ナナは、少し気まずそうにしながらも、最後の一音まで指を走らせた。
こうして、リリックへの曲を全て弾き終えたナナ。
盛大な歓声と拍手。
ナナはそれをリリックに向けてのものだと受け取り、その場に対しての一礼をすると、横にいる彼に拍手を送った。
その笑顔は達成感と安堵感。
そして、心からのお祝いの意を込めてだった。
リリックの表情も態度も通常通り、無に近かった。
しかし、今回ばかりは様子が違う。
それもそうだ。
間近で、それも自分の為に向けられたその演奏を目の当たりにしたばかりだったのだから。
彼の視界は、ナナを捉えていた。
かろうじてピアノの存在もわかる程度だ。
「?」
(怖い怖い… 今日くらい笑おうよ)
ナナはその視線を浴びながら、段々と笑顔が引き攣りそうになる。
鋭い目線が離れると、ナナもその身体の縛りから解放された気分になった。
リリックはそのまま、自席へと戻ってしまった。
(夜の演奏の時は、もっと柔らかい態度なのになぁ… 緊張してるのかしら?)
そう思いながら、ナナはその場から捌けるようにして会場を後にした。
(もう… 良いわよね)
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回、リリックの誕生パーティーで弾いた曲です。
一曲目は、MIMIさんの【Lilly】
二曲目は、MIMIさんの【いっせーのーで】
三曲目の最終曲は、ロクデナシさんの【星寂夜】
です。
誰も本当に素敵な曲です!
ちなみに、三曲目でナナがつい歌ってしまったフレーズは、1:38当たりのから、1:50ほどのところで約12秒ほどですね。
是非併せて聞いてみて下さい!
*あくまでも、作者の主観ですので、ご了承願います。
今後、作者が聞きながら執筆した楽曲をその都度、参考までに載せておきます。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。
 




