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夜会.1

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遅くなりました、すみません。


 肩が開いた真っ赤な夜会のドレスに身を包んだマリアドールをジェルフが迎えに来たのは、コルタウスの港に着いた翌日の夜。

 

 てっきり翌日にはジェルフと王弟デニスの対談が開かれるのかと思っていたが、あったのは王太子レオニダスとメルフィーの初顔合わせだった。


 よく考えてみれば、それこそこの来訪の一番の目的なのだから当たり前なのだけれど、心配と緊張をしていたマリアドールとしては拍子抜けしたところもある。


(でも、夜会ではデニス殿下と顔を合わせるのよね)


 長話をする時間はそれほどないとはいえ、元敵だった国の英雄ジェルフとコルタウス国軍の最前線で指揮を取っていたデニスの対面なのだから、注目が集まるのは必須だろう。

 さらに、ジェルフのことを憎んでいるものは多い。


 夜会は苦手なマリアドールだけれど、今回ばかりはそんなこと言っていられないと、人知れず気合いを入れる。

 でも、そんなマリアドールにジェルフはお見通しとばかりの苦笑いを浮かべた。


「マリアドール、肩の力を抜いてくれ。戦場に行くわけではないのだから」

「でも」

「こんなに綺麗な貴女をエスコートするのだ。できる限り楽しみたい」

「……分かりました。ダンブルガス国ではやはり噂が気になってほとんど夜会に出なかったですものね。すみません」

「謝る必要はない。俺も着飾ったマリアドールを他の男の目に晒したくないからな」


 さらりとこういうことを言うのがずるいとマリアドールは思う。

 それでなくても整いすぎた顔にいつまで経っても慣れないのに、甘い言葉を囁かれるとすぐに鼓動が速くなってしまう。


「さあ、いこう。申し訳ないが今夜の夜会はダンブルガスのそれより注目を浴びるだろう。無理だと思ったらマリアドールは途中で退席してもいいからな」

「そんなことしませんわ。今宵はブレスレットを着けていないのですから、しっかりと隣で見張りませんと」

「俺はいつでも喜んで鍵付きのブレスレットを受け取るよ」


 ジェルフが腕をツイと出すと、マリアドールはそこに手をかけた。


 二人がいるのはメルフィーに用意された離宮。側妃が使うこともあるらしく、離宮といっても城の次に大きく内装も絢爛だ。


 ジェルフが護衛騎士という名目で来ていることはコルタウス国側も理解している。メルフィーと本来の護衛騎士は先に夜会の会場へ向かっていた。といっても同じ敷地内だし、夜会が開かれる建物は歩いて行けるほど近いのだけれど。


 当初、ジェルフは出席予定ではなかったのだけれど、昼間に行われたレオニダスとメルフィーの初顔合わせのさいに、なにかの拍子と会話の流れからジェルフも正式に招待されることになった。

 念のためにとドレスを持ってきていたマリアドールも、必然的にジェルフの婚約者として参加することになり、メルフィーに遅れること三十分、歩いて夜会の広間に向かうこととなった。


 到着したときには、すでにほとんどの参加者が広間に集まっていて、ジェルフの登場にいたるところから厳しい視線が飛んできた。


(これは毒婦に向けられる以上のものね)


 想像していたけれど、これほどの憎悪を肌で感じたことはない。会場にいる貴族、騎士の中には三年前の戦いで身内、知り合いを亡くしたり、自身が負傷した者も多くいる。


 マリアドールは胸を張ると、口角をあげ周りをぐるりと見回した。

 勝利国の英雄だからといって傲慢にふるまうのは間違っているし、ジェルフもそんなことをするつもりはない。でも、ここでしょんぼりと俯いては、ジェルフに非があるように映るかもしれない。

 ジェルフは国のために戦ったのだから、それもまた対応としては違っている。


 だから、マリアドールは穏やかな表情を浮かべたまま、その場で丁寧にカーテシーをした。

 最大の敬意を示すその振る舞いは、誠意をもってこの夜会に出席するという表れでもある。

 ジェルフもマリアドールの意を汲んだように、片足を引き胸に手を当てた。


 二人はニコリと微笑みを交わすと、そのまま会場をまっすぐに横断しメルフィーのもとへ行く。


「遅くなりました」

「いえ、話の流れとはいえ無理を言ってごめんなさい。マリアドール、突然のことで驚いたでしょう」

「はい。ですが、ジェルフ様に着いてこの国に来たときから、想定外のことがおきてもびっくりしないでおこうと決めていましたから」


 メルフィーの隣には濃紺の髪を後ろに撫でつけ、青い瞳を穏やかに細めるレオニダスがいた。病気で臥せっている国王陛下に変わって、公の場に出るようになってまだ一年だけれど、その振る舞いは板についている。


(コルタウス国は好戦的で有名だけれど、レオニダス王太子殿下が表に出るようになってからかなり平和的になったのよね)


 エイデンの話では十八歳で成人し国王陛下の代理として表に出てすぐに、戦で国力をあげるのはもうやめると宣言したというから、たいしたものだ。

 その宣言通り、自ら敵国の王女と結婚しようというのだから、有言実行。行動力もある。

 

 その後ろにもう一人。レオニダス王太子と同じ濃紺の髪を首の後ろで括り、紫色の切れ長の瞳をマリアドール達に向ける整った顔の男がいる。身長は体格も大柄なジェルフに劣ることなく、堂々としたたたずまいにマリアドールはゴクンと喉をならした。


(きっとあの方がデニス殿下。いきなりのご対面ね)


 ちらりとジェルフを見ると、こちらも威風堂々と構えている。

 二人の対談は明日だから、これが初対面。そのことを知ってか知らずか、周りの視線が二人の動向に注目した。

最初に口を開いたのはホスト国であるデニス殿下。


「ジェルフ・スタンレー公爵。会うのは初めてだな。今宵はゆっくり話す時間はないが楽しんでくれ」

「デニス殿下。招待していただきありがとうございます。こちら、婚約者のマリアドール。メルフィー王女殿下の侍女としてきたのですが、一緒に参加させてもらいました」

「初めまして、マリアドール・ジーランドと申します」


 挨拶しながら、いったい自分はどうしてここで隣国の王族に囲まれているのかと混乱してくる。

 それでもジェルフに恥をかかせないようにと微笑むと、デニスは「ゆっくりしていくといい」と言ったあと、挨拶がまだの貴族がいるからと立ち去っていった。


(レオニダス王太子殿下もそうだけれど、デニス殿下もこちらに敵意はないようね。友好関係を築きたいというのは本心なのでしょう)


 そのことにほっとしていると音楽が鳴り始め、メルフィーとレオニダスがダンスを始めた。


「せっかくだから私達も踊りませんか?」

「そうだな。デニス殿下からは楽しむように言われたしそうしよう。相変わらず下手だが我慢してくれ」


 二人も広間の中央に踊り出たのだけれど、マリアドールはそれがすぐに間違いだったことに気がつく。

 ダンスの途中にすれ違う貴族がジェルフに向ける視線には、明らかに悪意が籠っていた。


久しぶりの投稿はなんだか緊張します。楽しんでくださってれば嬉しいです。

お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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