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昔の友人.3

明日からは夕方に投稿します!


 朝食を摂り、画家ギルドにいるリーザに会いに行ったマリアドールは、あっけないほど簡単に「ベンに夢を見せてあげて」と言われた。

 拍子抜けしているマリアドールに対し、リーザはさも当然というふうに優雅に紅茶を飲む。


「そもそも、私が画家ギルドを立ち上げたのは、画家の自主性を重んじるため。無理な創作を強いられることなく、自分の描きたい絵を描いて欲しいの。それはマリアドール、貴女も同じよ。一番優先すべきは貴女の描きたいという気持ちなの」


 リーザがなんのために画家ギルドを立ち上げたのかは知っていたけれど、彼女のいう「画家」にマリアドール自身も含まれていたことには気づいていなかった。

 画家としては到底一人前といえないし、才能がないのも分かっているマリアドールがそのことに驚いていると、リーザは呆れたように手にしていたカップをソーサーに戻した。


「貴女のことだから、自分は画家ではないと思っているでしょうけれど、絵を依頼され、売って、報酬を得ているのであればそれは立派な画家よ。その自覚は持つべきね。見栄を張るのはみっともないけれど、自分を認めることは大事。もっと胸を張ればいいわ」

「言われるまで、自分を画家と思っていませんでした。でも、そうですね。依頼してくれる人がいるのですから、たとえ未熟でもプロとしてその期待に答えるべきですよね」


 マリアドールの返答に、リーザは少し意味が違うのだけれどと首を傾げつつ「それも不器用で真面目なマリアドールらしいわね」と頷いた。


「自分を卑下しないでね。貴女は、英雄ジェルフ様の愛する婚約者でもうすぐ妻になるのだから」

「そ、そんな。愛するなんて」

「あら、巷では、あの鬼軍曹をメロメロにした元毒婦と有名よ。ふふ」


 楽しそうに笑うリーザの前でマリアドールはとんでもないと首を振るも、リーザの笑みはさらに深まるばかり。「とにかく」とにんまり口角をあげ言葉を続けた。


「貴女はやりたいようになさって。細かなことは私に任せれば良いのよ」

「ありがとうございます」


 キッパリさっぱり言い切るリーザに頭を下げ、マリアドールは感謝しつつギルドをあとにした。

エイデンと待ち合わせをしているカフェに来ると、当然一緒にいるはずと思っていたベンがいない。聞けば、朝から緊張のあまりお腹の具合が良くないという。


「気持ちは分からなくないけれど、体調が優れないなら別の日にすることもできるのよ」

「そうなれば、ひどく落ち込むのが目に見えている。多少身体に負担がかかっても、今夜してくれたほうがありがたい」


 それならかまわないけれど、とマリアドールはテーブルに置かれているメニューに手を伸ばす。両親の墓があるのは領地の小高い丘の上だから、昼食を摂ってから行くことになっている。


 マリアドールが生クリームたっぷりのったパンケーキを、エイデンがサンドイッチとパスタを頼み、間もなく運ばれてきたそれにマリアドールが「わぁ」と声を上げた。


「リーザ様から薦められたのだけれど、見て。生クリームがこんなにのっているわ」


 子供のように顔を輝かせ、テーブルに頬をつけるようにして横からそれを眺める姿に、エイデンは「この国の人間は、いったいマリアドールのどこを見て毒婦なんて噂を信じたんだ」と呟いた。

 と、同時に高さ二十センチほどの生クリームにうっと胸焼けを感じたのかのように、眉を顰める。


「これ、本当に食べれるのか?」

「リーザ様の話では甘さ控えめでペロリといけるそうよ」

「それ、騙されていないか?」


 マリアドールは、さっそくとフォークとナイフでパンケーキを一口ぶん切り分け、その上に生クリームをたっぷり乗せると大きな口で頬張る。

途端に、トロリと目が細められ頬がほんのりピンク色になった。


「美味しい! パンケーキはふわふわ、しっとり。生クリームはしつくこくなく、たしかにこれならいくらでも食べられるわ。これはジェルフ様にもお薦めしなきゃ」

「いやいや、スタンレー公爵様はパンケーキなんて食べないだろう」

「あら、彼は私より甘いもの好きよ」

「えっ、あの顔で!?」


 思わず出た本音にマリアドールはカラカラと笑う。エイデンはしまったと思いつつもま、いいか、とサンドイッチに手を伸ばした。


「そうそう、あのいかついお顔で美味しそうにケーキを食べるの。大きな手でマカロンを摘むお姿なんて、とても可愛らしいのよ」

「そんなことを話して英雄としてのイメージはいいのか?」

「……内緒よ」


急に真剣な顔で唇に手を当てるマリアドールに、エイデンは呆れつつ頷いた。


「随分、仲がいいんだな。マリアドールが毒婦だという噂は払拭されたと聞いたが、出会った頃は毒婦と言われていたのだろう。それで、どうして婚約なんて話になったんだ」

「一年前、王女殿下との結婚話がジェルフ様に舞い込もうとしていたの。それを諦めてもらうために仮の婚約者になって欲しいと頼まれたのがきっかけよ」

「仮!? ちょっと待て。そんな失礼な話があるのか? 英雄だからって横暴すぎだろう」


 バンッとテーブルを叩くエイデンにマリアドールはシッと言うと、周りを見渡した。。


「ち、ちょっと静かに! 落ち着いて」

「これが落ち着いてなんかいられるか。昨日は仲睦まじい二人の姿を見て安心して、公爵なんて身分の高い人に見染められたのだから俺の出る幕はないと思っていたが、それでは話が違うじゃないか」

「た、たしかに、出だしはそうだったけれど。すぐに噂が嘘だとばれてしまって、それ以降は真摯に向き合ってくれているわ。婚約だって、仮、ではなく本気で申し込み直してくれたもの」


 マリアドールが弁解を重ねるも、エイデンははぁ、と息を吐きグラスの水を飲み干すと、傍を通る店員に声をかけおかわりをもらい、それも全部飲んでしまった。


「……えーと、大丈夫?」

「ちょっと気持ちが落ち着いた」

「心配してくれているのかもしれないけれど、ジェルフ様は私をとっても大事にしてくれているから大丈夫よ」

「だけど、かつては仮の婚約者を頼むような男だったんだろう。で、ほとぼりが冷めたら別れるなんて、まともな話とは思えない」


 まぁ、そうなんだけれど、とマリアドールは言葉を濁す。

当時ジェルフは心に傷を負い誰とも結婚したくなかったから追い詰められて仕方なくの決断だったのだろうけれど、それを話すわけにはいかない。

 勝手にジェルフの心の傷を口にすることができないマリアドールとしては、困ったように笑うしかない。


 それを見たエイデンは不満そうに口を尖らす。


「昨日会ったときは、幸せそうだからと気持ちに折り合いをつけようと思ったけれど、少し様子を見ることにするよ」

「? 折り合い? 様子?」


 なんのことかと不思議そうに繰り返すマリアドールに、エイデンはにこりと笑みを返し食事の続きを促した。

お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

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