灰色の大人たち
時間泥棒を知っていますか?
子どもの頃、読んだ本の中に「時間泥棒」というものが出てきた。
人から「無駄な時間」を言葉巧みに取り上げてしまう、幽霊のような宇宙人のような不気味な「灰色の男たち」。
子供心に気持ちが悪いなぁと思った事を覚えている。
そしてそんな不気味な相手にありえない事を言われ、時間を預けてしまう大人は馬鹿だなぁと思っていた。
だが大人になった今、ふと思うのだ。
私はあの時、「馬鹿だなぁ」と思った大人になっていないだろうかと。
仕事の効率化。
無駄をなくす。
生産性の向上。
別に悪い事ではないし、むしろいい事だ。
多分。
でも、それを目指してどうなっただろう?
灰色の日々。
毎日を振り返って、たまに思うのだ。
私はあの時、「馬鹿だなぁ」と思った大人になっていないだろうかと。
人の遺伝子は長い。
ヒトゲノムは約30億塩基対からなる。
でも使われているのはたった2.2%。
その他は「ジャンクDNA」と呼ばれている。
機能する為の配列がついてなかったりと、無駄で無意味な配列。
ジャンク、つまりガラクタだ。
何で人間のDNAはそんな「無駄」をたくさん持っているのだろう?
私達はある意味、97%の「無駄」でできているのだ。
「無駄」は「無意味」なのだろうか?
そうではないと、ゲノム研究者たちの多くは考えている。
それが無駄ではない理論もたくさんある。
そしてジャンクの中に無駄ではない部分というのも見つかっている。
「無駄」は「無意味」なのだろうか?
効率化をはかり生産性を上げ、「無駄」をなくしたそこにできたはずの「何か」はどこに行ったのだろう?
効率化した事でひとりひとりの生産性が上がって、何が起きただろう?
「ゆとり」?
いや違う。
「コストカット」と「人件費削減」だ。
灰色の日々。
毎日を振り返ってたまに思うのだ。
私はあの時、「馬鹿だなぁ」と思った大人になっていないだろうかと。
私は誰に、何を盗まれているのだろう?
それすらわからないのだから「馬鹿だなぁ」と思った物語の中の大人たちより、私は馬鹿なのかもしれない。