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 家を出たツノは、シッポとともに、早足で村を歩いた。少年組が遊ぶために通る道は、だいたい決まっている。村の東へ伸びる道を少し歩き、家々や畑を越えてから、北の木立に入っていく。村の北には山があり、そちらへ向かえば地形は険しくなって、小さな丘や岩が現れ、起伏に富んだものになる。さらに森の奥に行けば、穏やかな川の作る深い淵があった。少年組はどこででも遊ぶが、そちらのほうが、とくに人気の場所だった。


 そう当て推量してツノが歩くと、村から出るまでもなく、後輩たちの一団が見つかった。まだ歩くのに十分には慣れていない幼い子どもが四人に、シッポやイワくらいの年頃の少年が六人、それからツノよりもいくらか年下の、それでも年長の少年がふたりだった。


 どうやら、ツノが来るのを待って、ゆっくりと歩いていたらしかった。ツノが加わると、一行はすぐに足を速めた。笑い、ふざけながら、半ば駆けるようにして歩いていく。跳ねるような足取りで村を出て、畑を通り越し、道を駆け抜けていくと、やがて木立へと飛び込んでいった。


 少年たちが森に入ると、それまで静かだった場所が、いきなり騒がしくなった。少年たちは暗がりで騒ぎながら遊びはじめた。森は薄暗かったが、十分にものが見分けられるだけの明るさはあった。


 だいたいにおいて、遊ぶときには幼い子どもと年上の少年とで自然と分かれ、少年たちの中でも、いくつかの組に分かれる。年上の少年たちは、イワが中心となって、枝を拾って剣闘の真似事をする集まりと、思い思いに木によじ登ったり、枝や草や蔦で小屋を作る集まりとに分かれていた。そして、幼い子どもらは気の赴くままに、小石や木の実や朽ちた枝を拾い集めたり、熱心に木の皮を剥ごうと試みたり、先輩たちをぼうっと眺めたりしていた。


 年長の少年たちは、後輩と遊びながら、危険がないようにと気を配っていた。そしてこの場の最年長のひとりであるツノも、囲んで打ちかかってくる後輩たちを、額に汗して退けながら、しばしば息をついては、仲間たちの様子を見渡すのだった。


 しばらく遊んでから、そうして全体を眺めてみると、シッポが幼い子どもといっしょにいて、同輩たちとは遊んでいないことに気がついた。年上の仲間たちは、みな子守りをシッポに押しつけて、遊びにかまけているようだった。


 ツノはシッポのそばに行った。後輩は、幼い子どもと並んで、木の根元に屈んでいた。シッポは少し顔を上げてこちらを見たが、すぐに視線を下ろした。小柄な少年の目は幼子に向けられていた。その子は、地面から出た太い木の根を掘り出そうと、熱心に地面を引っ掻いていた。


 他の子どもも近くにいた。ひとりは木の周りを歩きながら、黙々と手にした枝で幹を打っている。別のひとりは地面を一心に見つめ、他のひとりはにこりともせず、先輩たちの騒ぐさまを鑑賞していた。


「こいつら、なにをやってるんだ。」


 ツノはシッポに訊ねた。後輩はまた顔を上げ、首をかしげた。


「さあ。知らない。」


 シッポがそう言うと、木の根を掘り返していた子どもが顔を上げ、まずはシッポに顔を向け、それからツノを見た。そして、興奮した声で何事かをまくし立てたが、いったい何を言っているのか、ツノにはわからなかった。


「楽しそうにしてるなあ、ちびさん。」


 ツノはそう言った。すると、子どもは答えも返さずくるりと背を向け、今度は地面を凝視している別の子どものそばに行って、並んで地面を睨みはじめた。虫の類でもいるのか、それとも花でも見つけたのだろうか。


 シッポは腰を浮かせると、地面を見つめるふたりの子どもに近づこうとした。それを、ツノが声をかけて止めた。


「待てよ。こいつらはおれが見てるから。」


 シッポは振り返ると、小首をかしげた。意図を図りかねているらしい。ツノは続けて言った。


「みんな遊んでるだろ。ずっとちびさんを見てたんだから、そろそろ向こうで遊んでこいよ。」


 ツノはそう言って、手にしていた枝を差し出した。さっきまで剣闘遊びに使っていたものである。ツノとしては、あまりにおとなしい後輩に、少しくらい勇敢さを身につけて欲しかった。


 だが、シッポは少し困ったようにはにかんだ。


「いいよ。おれ、ちびさんのことみてるの、すきだから。」


 そう言って、小柄な少年は幼い後輩らのそばに行った。ツノはもう少し粘ろうかと思ったが、そのとき、イワの大声が響いた。


「ツノ。先輩。もう休憩かよ。」


 大柄な少年は、片手に枝を持っていた。顔は赤く、額には汗が浮かび、短衣の胸元ははだけていた。ツノに向けた顔には勝ち気な笑顔が浮かんでいたが、その目がシッポに移ると、面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「そいつは放っておけよ。来いよ、ツノ。一発喰らわせてやるから。逃げるなよ。」


「逃げてるんじゃねえよ。お前、泣いても知らないからな。」


 ツノは言いながら、さして背の変わらぬ後輩に足を踏み出した。イワは笑いながら、ぴょんぴょんと大股に木の根をまたぎ越して、森の奥へ逃げた。


 ツノはいちど小柄な後輩を振り返った。シッポは幼い後輩のそばに屈んで、何事かを熱心に語る声に、頷きながら耳を傾けているところだった。


 ――まあ、いいや。


 どうせ同じ家で暮らしているのだから、遊ぶのはまた今度でもいいだろう。そう思って、ツノは生意気な後輩を一発ぶってやろうと、逃げ去った方向に進んでいった。

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