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ワルプルギスの夜  作者: 崇詞
結成編
6/26

結成Five:永遠の代償

解き放たれよ。


空は黒く、柵が囲い、

暗き草原に小屋が一つ。

蒼炎が舞い、生気は無く、

貴方を逃さぬ死が漂う。


その世界の名は、死の箱庭(デッドリー・ガーデン)


 逆凪 青依(さかなぎ あおい)の詠唱に応じ、黒く暗い世界が顕現した。

()()()()!!!?第一魔法に最も近い魔術、心の在り方を景色として表した『心象世界』を付与した結界術の最終奥義、既存の世界を食いつぶす心の具現・・・・・初めて見た!!!」

「へえ、初めてなんだ。じゃあ・・・ちゃんと見ててね?」

驚く伊賀崎 優汰(いがさき ゆうた)に青依はそう言うと獣魔に視線を向け、再び詠唱する。


安らかに、緩やかに、静やかに、永久に、眠れ。

血は止まり、息は止まり、肉体()から解き放とう。

この死に、恐怖在れども痛みは無く、嘆き在れども苦しみは無い。

(うた)よ、ここに。


即死(death)


 宙を泳いでいた小魚型獣魔は、詠唱以外に一切の前兆がない、突然の絶命に、反応さえできずに地面に落ちて消滅していった。

 即死魔術。本来は致命傷を負った怪我人や死病に侵された病人を苦しめずに殺すためのものであり、その効果範囲が絶望的に短い。

 他にも詠唱が長い、対魔力礼装などで簡単に防げるなどの欠点もあり、戦闘に用いるにはかなりの工夫を必要とする。

 死の箱庭(デッドリー・ガーデン)は即死魔術の効果範囲を最大で結界内全域に広げることができる。

 拍手しながら犯人が現れ、優汰は身構えた。

「いやー、まさか心象結界が使えるとは。でも、あんな文字通りの雑魚共に心象結界を使うなんて、魔術師としての才能はあっても魔術戦は不得意と見た。君たちに僕を止めることはできない。」

高笑いしながら犯人は

「じゃあね・・・。」

転移の魔術で姿を消した。

「待て!・・・逃げられた。」

「優汰・・・」

青依が倒れる。

「青依!?」




「結界術は既存の世界の法則(ルール)から外れた空間を魔力で展開する魔術。普通の結界は新しい世界として成立していないから、世界からの妨害は受けないんだけど。心象結界は心象世界を付与した結界だから、新しい世界として成立する。だから世界が妨害して来る。それを維持するためにたくさん魔力を使っちゃうんだ。」

 青依に魔力を補給しながら説明を受ける優汰だが、初めて見た心象結界の興奮が冷め冷静さを取り戻すと、同時に青依の心象世界に青依の心を心配してしまう。

「ねえ・・・あんな暗い世界が青依の心なの?」

青依は黙って何も答えない。

「心象世界は心の在り方を風景として表した心の中の世界。それがあんな暗い世界なら、その、」

「・・・私が病んでるって?」

優汰は言葉に詰まる。

「そ、その、あんまりこういう言い方は良くないと思うんだけど精神科の病院に行ったほうが・・・」

「ふふっ、私が病院、ね・・・・・あの心象世界は死と孤独に触れ続けた私の心。絵夢には話したけど、優汰にはまだ言ってなかったね?私のこと。」

青依はナイフを構築し、

「え?ちょっと!」

躊躇いなく手首を切る。

「・・・え?」

「ふふっ、びっくりした?」

切った手首から出血は無く、()()()()()()()()()()()。そして、次第に傷が治っていく。

「ど、どういうこと?君は、」

「わかってると思うけど、治癒の魔術じゃないよ?私の体質・・・と言うより生態かな?」

 

青依は自分のことを語り始めた。

「私のこの体は、1()0()0()()()()()()()()()()()の。」




「・・・117年前私は逆凪家に生まれた。お父さんは権能接続者だった。生まれつき魔法が使えるお父さんは自分が使ってる魔法の術式を解明して、そこから魔法を使って色んな実験をしたの。そのうちの一つが『人が生と死を繰り返すとどうなるのか』。その実験台が私。」

青依の表情がどんどん暗くなっていく。

「魔力能力が高めのお父さんでも第五魔法と即死魔術を交互に行使し続けるのは無理だから、何百体もの魔術式人造人間(ホムンクルス)と自動行使の術式を使って。」

「ホムンクルス・・・」

優汰はどこか悲しそうにそう呟く。気にせず青依は自分の過去を話し続ける。

「私は0.1秒ごとにで死んで生き返ってを繰り返した。本来あり得ない現象に身体(からだ)が悲鳴をあげて、激痛に似た苦しみを感じ続けて、私の心が壊れてもそれが続いて・・・それが8週間続いた。」

 啞然とする優汰に笑いかけながら青依は話を続ける。

「記録で8週間たったころ、ようやく私は繰り返される生と死に慣れて身体から感じてた激痛も徐々に無くなった。その時にはもうこの体になってた。生と死の境目が無くなって生きながら死んでる私。傷も青く燃えながら立ち所に癒え、老いることも無く、食事も必要ない。不老不死とはちょっと違うけど永遠の存在。だから病院には行けない、たとえ精神科でも私の身体(からだ)は神秘そのものだからね・・・」

 暗い顔をしていた青依の顔が明るくなる。

「この体になってからいい事もあったんだよ?病気とか無いし痛みも無い。無痛症と違って骨とか折れても自動修復。生理も来ないし、さっきも言ったけど食事も必要ない。まあ必要なくても取るけどね?食べるの好きだし。」

青依は再び暗い顔になり俯く。

「でも、それだけじゃなかった。お父さんは私が殺したけど、お母さんも、妹も、好きになった人も、皆私を置いて死んじゃってさ。事故とかならともかく運命にたどり着いて死んだ皆を我欲で生き返らせるのも良くないし、それで一人になって・・・ちょうど40年前、世界と契約して『死者の国』の管理人になった。でも、死者の国って暇だし寂しいし、ちょっと嫌になって今回の事を解決する間だけ現世に帰って来たの。」

 青依が優汰の手を握る。

「話し相手がいるってだけで、来てよかったって、そう思える。40年間ずっと独りぼっちだったからさ。」

 そう言って笑いかける青依に優汰は複雑な気持ちになっていた。

「ねえ、青依。」

「ん?」

「青依も一緒に住まない?」




 優汰たちが少し遅めの昼食を取って家に帰ると、姫里 風花(ひめざと ふうか)が伊賀崎 絵夢(えむ)に魔術を教わっていた。

 どうやら権能と魔術と魔法について習っているようだ。

「ただいま・・・姉さん、ちょっといい?」

 青依に部屋を選ばせてる間に、青依のことと青依を住ませること、そしてパーカーの男のことを絵夢に話す。

「へえ、なんだかおもしろくなってきたねぇ?青依ちゃんの体の状態とか特に。」

「姉さんってこういう時、デリカシーないよね。」

不謹慎な絵夢の発言を指摘する優汰に対して、

「デリカシーなんて気にしてたら魔術師なんてやってらんないよ?」

と開き直る。

「それで?風花の進捗は?」

「うん、今は基礎知識。魔術の成り立ちや魔術師達の目的とか。それが終わったら魔術の原理と実践を並行してやろうかな。」

「そう、わかった。」

優汰と絵夢がリビングに戻ると風花と青依が話している。

「青依、部屋決まった?」

「うん、3階の一番奥がいいかな?」

 三階の一番奥、一番夕日の光が入る部屋だ。

「わかった。」

「一応きれいにはしてるつもりだけど汚いって思ったら言ってね青依ちゃん。」

絵夢の言葉に青依は頷くと自分の荷物を持って部屋に向かう。

「後で布団一式持っていくか。」

「優汰・・・・・。」

風花が優汰の袖を引っ張る。

「ん?何?」

風花がこんな弱々しく優汰を呼ぶことが珍しっかったので優汰も少し戸惑う。

「優汰、優汰と青依・・・さんから教えてもらってないこと絵夢さんから色々聞いたんだけど。」

 優汰と青依は風花に昨日起きたことしか教えていない。

 これからこの事態が解決するまで獣魔と戦うこと、青依がこれまで何をしてたのか、これから優汰が何をするのか、これから優汰にどんな危険があるのか、青依が話したとなると色々思うことがあるだろう。

「ねぇ・・・どうして優汰なの?それ、優汰がやらないといけないことなの?他に、優汰以外にそれをやれる人いないの?絵夢さんが言ってた魔術連合?の人とか、その人達に任せればいいじゃん!」

「魔術連合だって人員不足なんだよ。一応、お願いしに行くつもりだけど、いつ対応してもらえるかわかない。連合一つで世界中の魔術に関わる事件を扱ってるんだから。」

風花は優汰を心配してくれている、それがわからないほど優汰も鈍感じゃない。でも、

「今動けるのが()()だけならオレが動かないと。そこで逃げて後悔しない為に!」

 日が沈み、獣魔の時間が迫っている。

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