結成Two:夢は覚めて、
伊賀崎 優汰は朝日に照らされて目を覚ました。
「ん?」
明らかな異常事態のに脳がこの状況を理解しようと思考を加速させる。
異常事態と言うのは朝日に照らされて起きたことではない。
確かに優汰は普段、魔術の練習のために5時に起きている。夏至でも日の出まで10分前後の余裕がある時間だ。
だが、問題はそれよりも、
「おはよう、優汰くん。」
見知らぬ同年代ぐらいの女の子がベットの隣に椅子を置いて座っていることだ。
「え、何?だ、誰?今どうゆう状況?」
「私は逆凪 青依。昨日、君を助けた第五魔法の魔法使い。」
なんか凄く厨二病ぽい発言だが、魔術師の優汰はその発言だけは理解した。
魔法使いとは魔術の源流である7つの権能を再現した魔術である7つの『魔法』の内のどれかを使いこなす魔術師のことだ。
魔術師は魔法使いを目指して日々魔術を研究する。
第五魔法と言うことは、死者蘇生だったはずだ。
無論、優汰は本物の魔法使いに会ったのは初めてのことだ。というか、当たり前だが、その発言を信じてはいないが。
「おはよう、優汰。生きてる?」
謎の質問と共に入室してくる伊賀崎 絵夢。
「う、うん、いや、生きてるけど、これどうゆう状況?」
「まあ、そうだよね!昨日、優汰は青依ちゃんに背負われて帰ってきたんだよ?」
「は?」
全く記憶にないことを言われて理解が追いつかない。
「しかも気持ちよさそうに寝ながらね。」
「なんで!?」
なんでそうなったのかはわからないが、少し合点がいくこともある。
昨日、帰宅した記憶が無いのだ。昨日の記憶は風花と彼女の家の前で別れたとこで終わっている。
「はいこれ。」
絵夢が優汰のブレザーを渡してくる。ブレザーの胸と背中には淵が血で赤く染まった穴が開いていた。
「私は今、ある異常事態を解決するために、獣魔を狩ってるの。」
客室に移動し、青依が説明を始める。
「獣魔って言うのは、魔力で出来た肉体を依代に知性の無い悪霊が現界したものね。」
獣魔・・・聞いたことのないワードだ。
「その獣魔が、2ヶ月前からこの夜見川市に毎晩出現してる。この事態を受けて一ヶ月とちょっと前、『霊長の抑止力』は私を派遣した。本来だったら『ガーディアン』が現界する所だけど、私すごく暇だったから立候補したんだ。」
『ガーディアン』とは人理の守護者のことである。
具体的に言えばいま説明された『獣魔』の『知性の無い悪霊』の代わりに『英霊』と呼ばれる、人類史に連なるの英雄の魂が現界したものだ。
と、言うよりガーディアンの原理を応用したのが獣魔なのだろう。
そして『霊長の抑止力』とは、現在の地球における霊長類である人類種の滅亡を防ぐために世界に備え付けられた『終末回避機構』のことだ。
「昨日も獣魔を狩ってたんだけど、君が心臓を貫かれて死んでたから、第五魔法で蘇生したの。その時はまだ君が魔術師だって知らなっかったから顔を見られたかもしれないと思って眠らせたんだ。」
心臓を貫かれる。優汰はその言葉に昨日見ていた夢だと思っているものを思い出す。その夢に出てきた少女は青依なのか?
だとすれば、あれは夢じゃなく昨日実際に起きたことなのか?
「私が泊めてもらった一つ目の理由は余命宣告。第五魔法で蘇生するということは一から寿命を装填するということ。あの時可能な限り寿命の装填に使ったけど、ざっと20年分といったところだから。優汰くんは事故も病気もなく生きたとしてもあと20年しか生きられない。」
20年、つまり37歳までしか生きられないということだ。
「そして二つ目、今回の異常事態に解決のため、黒魔術の名門、伊賀崎家に協力を要請します。」
黒魔術の名門?いつの話をしているのだろうか。
「あのー、今は伊ケ崎家、全然名門じゃないけど大丈夫?」
と絵夢が答える。
「え!?そうなの!?」
「4年前、姉さんは交通事故に巻き込まれた。その時に左目が潰れて、脚が動かなくなって、そして魔力器官がダメになって魔術が使えなくなくなった。」
魔力器官は魔術の動力源である魔力を生み出す臓器だ。
誰でも持ってる物ではなく、魔術師の家系でも持って生まれないこともあるし、一般の家系でも持って生まれて来ることもある。
魔術師の家系の方が持って生まれる確率は高いが、まあ運だ。
「そして父さんはスペアの後継者の僕に魔術を教え始めたんだけど、姉さんの事故から半年後に自殺した。」
「今は私が優汰に魔術を教えてるんだけど、階段しかないから車いすじゃ地下の工房に行けないし、優汰は生贄殺せないし、すっかり廃れちゃったってわけ。」
「ごめんなさい、私40年ぐらい現世にいなかったから。」
『現世にいない』や『40年』など、気になるワードが出てきたが、話が進まないので優汰はスルーした。
「おまけに優汰は被虐体質だから。」
「そうなんですね。ちなみに被虐体質というのは?」
青依には聞きなじみのない言葉だ。
「僕に向けられた攻撃的な感情を増幅させる『特異体質』で、昔姉さんが作ってくれたこの眼鏡で押さえてるけど、外したら僕の気配だけで近所の飼い犬がもれなく吠えだしちゃう・・・」
「それだ!」
優汰の説明を遮り青依が思い付く。
「眼鏡をはずした優汰くんを守りながら私が獣魔を狩る。どう?」
「えぇ・・・」
協力すること前提なうえに、完全に囮役となっている作戦に優汰はいやそうな反応が出てしまう。
だが、絵夢はむしろ乗り気で、
「いいじゃんやりなよ。獣魔なんて誰かがやらないと自然発生するはずない。獣魔を町に放ってる犯人は神秘の秘匿を無視してる。魔術師として見過ごせないでしょ?」
「いや仮にもその獣魔に一回殺されたんでしょ?僕。」
「まあ、そうだね・・・じゃあ成功報酬、寿命80年でどう?合わせて100年、これなら元通りと言っても差し支えないと思うけど。」
じゃあ最初から100年にしてくれよと優汰は思ったが、それは強欲だ。
そもそも青依には僕を蘇生させる義務は無いのだから。
「・・・・・・・・・・わかった。」
背に腹は代えられない・・・怖いし嫌だが渋々優汰は協力を了承する。
「そう、交渉成立。じゃあ夜10時にまた来るから。一晩泊めてくれてありがとう。」
青依は立ち上がり、右手の指輪を付け替えて詠唱する。
転移
青依は一瞬でいなくなった。
"転移の魔術"。ショートワープを可能にする魔術で、移動距離が延びれば伸びるほど肉体に負荷がかかる。
夜10時、青依に連れ出され夜の住宅街。
「じゃあ、はじめるよ。」
そう言い、青依は詠唱する。
人払いの結界よ
結界を張り終えたところで、優汰は眼鏡を外す。
「ウゥゥワオオォォォ!!!」
狼型の獣魔が雄叫びをあげる。
それを聞いた青依は何もないところから大鎌を作り出す。
魔力で物を作る"構築の魔術"だ。そして、
「自衛だけ考えてて。」
物凄い勢いで獣魔の群れを狩っていく。
鎌を振るい獣魔を両断し、"強化"した足で蹴り飛ばし、ナイフを投擲し獣魔を貫く。
いつ来るかわからない獣魔の群れから優汰を守りながら。
それはまるで死神のように。