終局Final:エピローグ
私は姫里 楓太。イギリスにある私立ブランクスペース大学、通称 空白大の一年生。
この大学は表向きは私立の伝統のある難関大学だが、実際には魔術連合が運営する魔術を教える大学だ。
伊賀崎 優汰の退去は世間では家での後に失踪として扱われた。
姉の絵夢さんは一年かけてリハビリに励み、歩ける様になった。私はその間、家出が終わった後も絵夢さんの身の回りのお世話という形で伊賀崎邸にお邪魔して、魔術を教えてもらった。
その後、絵夢さんは一年早く空白大に入学し、この春私も入学した。表の難関校というイメージは、『魔術師で無いものを大学が片っ端から不合格にしている』からで、私も絵夢さんも何の問題も無く合格した。
萱瀬は魔術から足を洗い、普通の人生を歩んでる。今は私立の月光大学に学費免除で通ってる。
兄の花斗は結婚して家庭を持ってる。なんだかんだで養ってくれたお兄ちゃんだから幸せになって欲しい。
絵夢さんと二人のキャンパスライフも楽しくないわけじゃないけどふとした時に優汰に会いたくなる。
「風花ちゃん?」
「は、はい!」
「ぼーっとしてたけど大丈夫?」
「・・・優汰のこと考えちゃってて。」
「優汰ねぇ、いつまで風花ちゃんを待たせるんだか。」
「優汰・・・」
「はい、辛気臭い顔しないの!次、講義入ってる?」
「いえ、空いてます。」
「じゃ、図書館でちょっと休もう?私、読みたい本があるんだよねえ。風花ちゃんも最近寝不足でしょ?膝貸してあげようか。」
「い、いやいや流石に!」
「大丈夫。もう妹みたいな者だし、将来的には義妹になりそうだし?」
「い、いや、流石に恥ずかしい・・・」
「寝不足はお肌に良くないよ?」
結局、言いくるめられて膝枕されてしまった。しかも、おまけに頭まで撫でられている。
「優汰にも、これぐらいしてあげれば良かったな・・・」
「え?」
「車椅子になった私をずっとお世話してくれて、私は姉らしいことあんまりしてあげられなかったなって。」
少し寂しそうな顔の絵夢さんを下のアングルから見る。
「せっかく歩けるようになったのに・・・」
私達は結局何も出来なかった。全てを青依さんと、何より優汰に任せっきりで、あのワルプルギスの夜を止めるために肝心な部分を全てあの二人に押し付けてしまった。その後悔が2年間、私達の心に重りとなってのしかかっている。
バルリア・アンラ・トシティによって回収された獣魔召喚術式は焼却され、悪魔召喚術式は魔術連合上層部によって秘匿封印された。我欲にまみれた『上層部の管理』と言う不安が残るけど、一応は解決したと見ていいと思う。
死者の国。
「契約完了・・・これで帰れるな、青依。」
「ん・・・おはよう、ございます。
しばらく絵夢さんの膝枕で眠ってしまっていたようだ。
「おはよう風花ちゃん。よく寝れた?」
「はい。眠気取れてあたまさっぱ、ふあぁぁぁ・・・ごめんなさい。」
「あくびぐらい大丈夫だよ。じゃ、戻ろう!今の講義もそろそろ終わるからさ。」
「はい。」
キャンパスまで戻って絵夢さんと別れ、私が次の講義を確認していると、
「だーれだ?」
突然両目を覆われて視界が真っ暗になった。
「きゃっ!だ、誰!男の人?」
「あれ、忘れちゃった?」
その声に聞き覚えがあった。優しくて落ち着いた少しだけ頼り無い声。
「もしかして!」
両目を覆う手から逃れ振り返ると、そこには
「ただいま、風花。」
髪が白くなった優汰が居た。
「あっ、優汰・・・優汰!」
再会の喜びに涙が溢れて、感情のままに優汰に抱き付く。
「お帰り、優汰。ゆうたぁ・・・」
「うん、ただいま。」
優汰は微笑みながら優しく私を抱き締めた。
夜、風呂と絵夢のアパート。
「お帰り、優汰。」
「ただいま、姉さん。」
優汰は絵夢と2年ぶりの再会のハグをする。
「何か食べたい物とかある?久々に私の手料理食べたいでしょ?」
「うん!・・・・・じゃ、オムライス!」
「うん、わかった。風花ちゃんも同じでいい?」
「はい、大丈夫です。」
絵夢が調理にかかると、その後ろ姿を見て優汰は、
「ちゃんと立てるようになったんだね、姉さん。」
そう呟く。
「感傷に浸るのもいいけど、まだお母さん帰ってきてないんだからね?感情が持たないよ?」
「うん・・・」
母との再会も済ませ、夕食をとり、寝る時間になる。
「・・・・・あの、お二人さん。」
「何?優汰。」
「どうしたの?」
「・・・何で二人とも僕と同じベッドで寝てるんですかね!?」
ベッドに横になった優汰は、風花と青依に挟まれている。
「久々の弟と一緒に寝たいから、かな?」
「久々に優汰と一緒に寝たいじゃん!」
まあ、そうですよね・・・。
「わかったよ、もう寝よう。二人とも明日も学校あるんでしょ?』
「「うん、おやすみ、優汰・・・」」
伊賀崎優汰の心象世界。
「良かった。ちゃんと二人が再会出来て・・・風花とお幸せに、優汰。」
「うん。ありがとう、青依。」
少しだけ寂しそうな顔でそう言う青依に、優汰は何かを察した様に聞いてみる。
「お別れ、なの?青依・・・」
「・・・何が?」
「あれ?いや、なんか別れの前みたいな顔してたからてっきり・・・」
「私が居なくなると思った?」
「うん・・・」
「ふふっ、あっはっはっはっは!」
今までに無く感情豊かに笑う青依。
「・・・大丈夫。私の『記憶』と『魂』は優汰の心象世界に匿われてるんだから。夢の中でいつでも会えるよ。」
「そうなんだ・・・よかった。」
それを聞いて優汰は安堵する。
「まったく、優汰は寂しがりやで甘えん坊で、おまけに女垂らしの浮気者だね。」
「何で!?」
「風花に、絵夢に、私。両手に花で眠って夢の中にはもう一つ花を抱えていいご身分ですね。」
「言われてみれば確かに・・・」
「でも、もういいの・・・」
永遠の存在だった青依は現世での友人、家族の全てに先立たれ、死者の国でずっと孤独に生きて来た。40年、いやもっと長い時間、たった一人で過ごしていた青依にとって優汰の心象世界で生きることは救いだった。優汰の歪んだ心を写した世界に閉じ込められても、誰かが居てくれるだけで、それだけで良かった。
「だって・・・もう、私は一人じゃないから。」
117歳の魔法使いは普通の少女のような笑顔で少年にそう言った。地獄の様な景色に似合わないぐらいの眩しい笑顔で。




