解明Final:一緒に死んで?
「一緒に死のう?」
「・・・は?」
姫里 風花が何て言ったのか、伊賀崎 優汰は一瞬理解出来なかった。
「一緒に死のうよ、ゆ〜た!」
風花は護身用のナイフを取り出す。
「私、ずっとゆーたのことが好きだった。大好きだったんだよ?でもこのままじゃ、ゆーたはお父さんに殺されちゃうでしょ?」
「うん、まあ・・・」
「だから二人で一緒に死のう?ね?私以外に殺されないでゆーた!」
風花の心は壊れていた。瞳は狂気に染まりながらも涙を溜めている。
「ゆーた、わかる?私の気持ち。」
「風花の気持ち?」
「ゆーたのことこんなに好きだったのに、その『ゆーた』死んじゃってて偽物に成り代わられてた。しかも、こんなに好きだったのにその事に全く気付かなかった・・・」
溜めていた涙が出て、風花は泣き始める。
「自分も嫌いになるし、今のゆーたとどう接したらいいかもわからなくなる。次は残された偽物すら死ぬって、もう嫌だよ・・・だから
一緒に死んで?ゆーた!」
「・・・・・それは出来ない。」
「なんで?」
「それは・・・」
「なんで?なんで?なんで?ねえ、私と一緒に死ぬよりお父さんに殺されたいの!?」
「風花・・・」
「嫌だよ!嫌だ!!!ゆーた、私以外に殺されないでゆーた!!!」
「風花!!!」
部屋が一瞬静まり、その後優汰が話し始める。
「・・・・・風花が、僕のことを好きでいてくれたのはわかった。それはすごく嬉しい。でも、残された人はどうなるの?花斗さんは?姉さんは?蓮人は?事前に決まっていた僕の死より、風花が死んだ方がよっぽど悲しまれるでしょ?」
「優汰・・・」
風花は少し正気に戻り、深呼吸する。
「僕は風花と心中する気は無い。残された時間を精一杯生きるよ。『奪ったからには生きろ、それが黒魔術師としての責任だ。』オレが姉さんから、魔術師として最初に教わったことだ。」
「だって・・・だって!優汰が約束してくれたじゃん!『ずっと一緒にいる』って!」
11年前。姫里 花斗、風花の母は病死した。二人の父は風花が生まれる前に事故死し、母は病気の体に鞭を打って二人を育てた。
極度のツンデレシスコンお兄ちゃんの花斗は本心では風花を心配するが、実際には風花と接すると冷たい態度を取ってしまっていたために兄妹仲は険悪であり、兄を遠ざける様になった。
風花と幼馴染みだった優汰は花斗の代わりに風花を慰めた。
「風花、ずっと一緒にいる。僕がずっと一緒にいるから。」
その言葉に支えられて風花は立ち直るが、支えはやがて依存に変わった。
成長した風花は兄との仲と両親の居ない家庭環境からコミュニケーションが苦手になり、優汰以外に友達が出来ず、より優汰に依存する様になる。優汰の姉、絵夢には心を許すが、依然として優汰に依存する風花の精神状態は、簡単に言えばメンヘラだ。風花の孤独を埋められる存在である優汰に依存しているがために、優汰がいなくなる事が怖いという恐怖に飲まれてしまった。
「ねえ、あの言葉はウソだったの!?何勝手に一人で死のうとしてるの!?私をひとりにしないでよ!!!」
部屋中に響く声で泣く風花を、優汰が強く抱き締める。
「風花、ずっと一緒にいる。偽物の僕でも良いなら、一緒に居させて欲しい。」
「ウソつき!ウソつき!死んじゃうくせに!」
「オレは・・・・・」
優汰は風花が泣き止むの待つと一階に降りる。
「優汰?なんか風花、泣いてたみたいだけど?」
「オレが死ぬのが受け入れられないみたいでな。」
「そう・・・」
「青依、俺に・・・・・周期機構を使ってくれないか?」
「無理。」
「無理なの!?」
「いや、無理じゃないけど。システムで私みたいになるのは無理。」
「なんで・・・・・」
青依が説明する。
「システムの魔力は霊長の抑止力との契約で、抑止力に肩代わりしてもらってるけど、抑止力だって私にばっかり魔力を割いていられないからシステムは45秒の制限時間があるの。」
「45秒・・・」
「生と死の境目を無くすには、私で8週間かかった。個人差はあるだろうけど、さすがに45秒じゃ無理。」
「・・・・・そっか。」
晩御飯の時間になるが、食卓は暗く重い空気に包まれ、皆も箸が進んでいない。青依はそもそも食べなくても問題ないからか、今日の食卓にはいない。
「ごちそうさま・・・・・」
風花が半分以上残して食卓を後にする。普段なら残したら怒る絵夢も何も、言わずに見送る。
「怒らないのか?絵夢。残したぞ、あいつ。」
風花がいなくなってから、蓮人が口を開く。
「普段なら、怒るけど・・・・・その、今は食べてくれただけでも良しとした方が、ね?それに私もあんまり食欲、湧かなくて。」
「そうだな、すまん。」
「うんうん。蓮人君だけでもちゃんと食べてくれるのは嬉しいよ!」
「最初は食欲無かったんだが、食べ始めると、な。」
この状況でも、味のする食事を少し楽しんでいる自分の不謹慎さに蓮人は若干の自己嫌悪を抱く。
「ごちそうさま、姉さん。」
「優汰、これ。」
絵夢がもう一人前の料理をお盆に乗せて渡してくる。
「えっと、これは?」
「青依ちゃんに持っていってあげて。」
「わかった。」
優汰は青依の分の料理を持って食卓を後にする。
「青依、一応食事を持って来たよ・・・・・何これ!?」
床一面にばら撒かれた大量の紙。その紙一つ一つに魔術の術式がびっしりと書かれている。
「何って、君を救う為の魔術だよ?優汰。」
各々がそれぞれの気持ちを整理できないまま、四月二十二日が終わる。
ワルプルギスの夜まであと八日。




