解明Four:魔法使いとして
翌朝、伊賀崎 優汰が部屋に入って来る。伊賀崎 絵夢は優汰に話しかける。
「優汰、おはよう。」
「姉、さん・・・や、絵夢、さん。」
「こっちおいで・・・優汰は優汰だよ。人間だろうとホムンクルスだろうと、どっちも優汰、どっちも本物・・・・・可愛い私の、弟だよ」
「姉さん・・・・・」
絵夢は泣き出す優汰を抱きしめ、頭を撫でる。
「二つの意味でご馳走様、絵夢・・・・・・・まあ、そのなんって言うか。」
「シスコンブラコン姉弟だな・・・」
そう言う二人の表情は引いた感じでは無く穏やかな笑顔を浮かべていた。
「魔法使い、『ワルプルギスの夜』について調べる、手伝え。」
「いいけど、なんで上から目線なの?」
青依と萱瀬 蓮人はダイニングを後にする。
「優汰。」
「青依、どうしたの?」
「街に獣魔が出てる。悪魔は居ないみたいだから、優汰と風花で倒してきてくれない?」
青依は蓮人のスマホを見せて来る。動画サイトのライブ配信で街の映像が映される。
「青依は?」
「蓮人と一緒にワルプルギスの夜を調べてるんだ。だから、」
「わかった。」
「死者が出ないうちによろしくね。」
優汰と風花が獣魔が暴れる街に駆けつける。
「逃げて!逃げて下さい!・・・え、ちょっと風花!」
風花は獣魔を見ると真っ先に襲いかかる。
「はあああああっ!」
強化した足で風花は狼型獣魔の側頭部を蹴り飛ばす。吹き飛ばされ、風花は取り出したナイフで横たわる獣魔を刺す。
「はっ!」
風花は刺したナイフを抜き、また刺し、獣魔を滅多刺しにする。
「死んでっ!死んでっ!死んでっ!死んでっ!死んでーーーーー」
「風花!後ろ!」
獣魔を滅多刺しにする風花を後ろから蝙蝠型獣魔が襲う。
呪撃
「荒ぶってるな、風花。」
「正嗣さん・・・」
「そう睨むな。気持ちはわかるが、私を睨んでも『優汰』は戻って来ない。」
「伊賀崎正嗣、何しに来たんだ?」
「プリテンダー・・・もう、父さんとは呼ばないのか。」
「質問に答えろ。」
「脱走した獣魔を処分しに来ただけだ。」
優汰が周りを見ると他の獣魔が消滅しかけている。
「そうか、じゃあオレは帰るよ。」
「魔法使いは来てないのか?」
「来てないよ、お前の計画を突き止める為に調べ物だ。」
「そうか、警告したのだがな・・・まあいい。さっきも言ったが、今回は脱走した獣魔を処分しに来ただけだ。」
「そうか・・・」
優汰と正嗣は去り、風花はその場に取り残される。
一人で帰宅した優汰に絵夢は話しかける。
「お帰り・・・あれ優汰、風花ちゃんは?」
「そ、その、話すの気まずくて。今まで通り接していいのか・・・・・どう接していいのか分からなくて。」
「青依ちゃんが言ってたことってこう言う・・・・・」
「え、青依?」
「う、うんうん!なんでもないよ?」
「『深淵の果て、ユミルの加護を受けるもの。その強大な躯体で地を鳴らせ』・・・読んでて恥ずかしくなるな。」
青依と蓮人は『ワルプルギスの夜』の手がかりを探して、正嗣の拠点で回収した書物やノート類を読み漁る。
「そう?魔術の詠唱なんてそんなものじゃない?」
「萱瀬家の魔術はあんまり詠唱使わないからな。なんか、厨二病みたいだ。」
「魔術師じゃない普通の人が言ってたら、確かに厨二病だろうけど、私達は魔術師なんだから気にする必要ないわ。神秘の秘匿のために人前で詠唱することもないわけだし。」
「まあ、そうか。」
「ねえ、これ・・・」
「ああ?・・・・・これは!!!」
そのノートには『生贄の脳共有による絵夢のif人生シュミレーションについて』と書いてあった。
青依と蓮人はさっきのノートを伊賀崎姉弟に見せる。
「えーっと・・・・・青依、これどう言うこと?」
「まず、100人の脳を繋げて一つの大きな演算装置にする。その演算装置で絵夢の『事故が起きなかったもしもの人生』をシュミレーションする。そして加速の魔術で脳の加速させて四年半のシュミレーションを僅か一時間で終わらせる。」
「加速の魔術は体の動きを早くする第三系統の魔術だが、脳に使う発想は無かったな。」
「蓮人、感心してる場合じゃないよ。姉さんのif人生をシュミレーションしてどうするんだろ?」
「見知らぬ人に私の人生をシュミレーションさせられるの、普通に嫌なんだけど・・・」
青依は風花の部屋のドアを叩く。
「風花、今から伊賀崎正嗣のところに行くんだけど、来る?嫌なら無理強いはしない。」
「・・・・・いく。」
出てきた風花は、普段とは比べ物にならないほどやつれていた。
「風花、大丈夫?」
「青依、さん・・・」
昨日の夜から何も食べていないからか、風花はフラフラしている。
「風花、先にご飯食べよう。このままじゃ倒れるわ。」
「食欲、ない。」
「絵夢にスープを作ってもらおう。それなら食欲無くても大丈夫でしょ?」
「・・・・・うん。」
四人は再び正嗣の拠点を訪れる。
「伊賀崎正嗣!出てこい!」
「一応私は死んだことになっているのだがな。あまり大きな声で呼ばれるとご近所にも私にも迷惑と言うものだ、プリテンダー。なんなら鍵もかけていない、勝手に入って来ればいいだろう・・・」
「魔術師の工房に侵入者として入るのは命知らずが過ぎると思うけど?」
「死にながら生きている君が、命知らずとは。なかなかに皮肉だな、魔法使い。だか、確かに侵入者として魔術師の工房に入るのは命知らずだ。魔術によるトラップダンジョンだからな。」
正嗣が人払いの結界を張る。
「それで、一体何の用かな?」
「伊賀崎正嗣、あなたは絵夢を魔術師に戻すんでしょ?どうするつもり?」
「ストレートだな、私にとって君たちは敵対関係だと思っていたのだが、私の認識違いか?」
「少なくとも私は抑止力の介入者として獣魔や悪魔を召喚する貴方を止めるだけ。でも、これには獣魔や悪魔のことなんて書かれてなかった。」
そう言うと、青依はあのノートを正嗣に見せる。
「これは『ワルプルギスの夜』に関係ないの?」
「いや、関係あるとも。『ワルプルギスの夜』の根幹を担う物だ。」
正嗣は咳払いをして語り始める。
「シュミレーションの目的は事故が起きなかったifの絵夢の肉体情報を手に入れることだ。」
「肉体情報を手に入れてどうする?」
優汰が正嗣に疑問を投げかける。
「変化の魔術を使い今の絵夢をifの肉体情報で上書きする。そうすることで魔力器官も足も元に戻る。」
「なるほど、人体に変化の魔術を使うことは被術者に負担をかける、それを二つの肉体情報の差異部分にだけ行使する事で負担を下げる。」
「そう言うことだ。」
「だが、それなら獣魔も悪魔も要らなくないか?俺は何の為に獣魔の召喚実験してたんだ?」
蓮人の質問に正嗣が答える。
「簡単だ。単純に四年半、1652日間のシュミレーションを一時間以内に終わらせる情報処理は、人間の脳には耐えられない。シュミレーションに使った100人の人間は死ぬか、廃人になるだろう。」
それは正嗣も望む所ではない。
「だからこそ悪魔を使う。奴らなら死のうと退去するだけだ。」
「悪魔達、頭悪そうだったが?」
「わかっていないな、蓮人。悪魔も人間も脳のフルスペックに差異は無い。頭の良し悪しはフルスペックの何%を引き出せるかで決まる。私が強制的にフルスペックを引き出せば、問題は無い。」
「・・・・・なぁそれ、お前の魔力で足りるのか?シュミレーションに加速の魔術、悪魔の脳のフルスペックを引き出した上に肉体情報の上書き・・・いくらお前でも魔力足りないだろ?」
「ああ、足りない。だから15人の生贄を使う予定だ。」
「それがワルプルギスの夜の全貌か?正嗣。」
蓮人が正嗣に確認する。
「そうだ!これで絵夢は魔術師に戻り、伊賀崎の魔術を受け継ぐ!そのあとであるなら、煮るなり焼くやら好きにしろ。絵夢ならば私が居なくとも家の書物だけで十分だろうからな。」
それを聞いた青依は覚悟を決めた顔で宣言する。
「・・・・・そっか。じゃ、やっぱり潰さなきゃだね。抑止力の介入者の前に、
第五魔法Resurrectionの魔法使いとして。」




