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ワルプルギスの夜  作者: 崇詞
解明編
16/26

解明Two:成り代わる者

「お前が『伊賀崎優汰(いがさきゆうた)』では無いからだ。」

 伊賀崎 正嗣(まさつぐ)の発言にその場の空気が凍り付く。

「どう、言う、こと?」

 逆凪 青依(さかなぎ あおい)がかろうじて言葉を紡ぐ。

「お前は、『伊賀崎優汰』と言う人間を材料にして作られた魔術的人造人間、ホムンクルスだ・・・成り代わる者(プリテンダー)、それこそがお前の真名だ。」

「材料?材料って何?」

 姫里 風花(ひめさと ふうか)はその言葉に引っかかりを覚える。

 萱瀬 蓮人(かやせ れんと)は無言を貫く。

「『伊賀崎優汰(本物の優汰)』を解剖して材料にした、と言うことよ。」

「・・・え!?」

 青依の解説に風花は絶句する。

「何で?何でそんなことを!!!?優汰のお父さん!本当ですか!?本当に優汰を解剖したんですか!!!」

「ああ、魔法使いの解釈は正しい。」

 平然と答える正嗣に風花は冷静さを失っていく。

「どうして!どうしてそんなことを!!!あなたは自分の息子を殺したんですか!!!」

「そうだ・・・どうして、と聞いたな。それは『優汰』には黒魔術師としての適性が無いからだ。」

 正嗣は冷たく、どこまでも無感情に言い放つ。

絵夢(えむ)が事故で魔術師として再起不能になった。だから(スペア)が我が家の魔術を受け継ぐ。これは魔術の家系として当然のことだ。先祖代々受け継いで来た魔術の研究成果を途絶えさせないために。」

 そのことは風花も否定しない。

 先祖代々受け継いで来たものがある家系は珍しくない・・・伊賀崎家は、たまたまそれが魔術だっただけだ。

「だが、『優汰』は黒魔術を受け継げる『精神』を持ち合わせていなかった。この場合の『精神』は性格や記憶、価値観などを含む魔術理論における『精神』のことだ。」

風花は理論を理解しようと、一旦落ち着いて正嗣の話を聞く。

「『優汰』は魔力能力や、術式にたいする理解力などよりももっと根本的な部分で黒魔術師に向かない。だからと言って少子化が進む現代日本では黒魔術に適正を持つ子供を見つけて養子にすると言う手段は現実的では無い。」

 魔術師としての適正に加えて、黒魔術特有の命に対する価値観を持ち合わせる子供は、そもそもの母数が減少した少子化社会ではそうそう居るものでは無い。

「だから『優汰』を材料に黒魔術に適正のある()()を作ろうとした・・・それがお前だ。」

「偽物・・・」

 優汰を『優汰』の偽物と呼ぶ正嗣に、風花は憤りを感じるが懸命に抑える。

「だが、結果は失敗だった。『優汰』の人格と黒魔術師としての人格を、魔力器官の起動に合わせて切り替えれるように設計した筈だったが、黒魔術師としての人格が表面化することは無かった・・・」

 正嗣の声は話が続くごとに悲しみを纏っていく。

「『優汰』を殺したまで生み出した偽物が、失敗作と言わざるを得なかった。だから、せめて偽物であるお前の記憶を改竄し、『優汰』の記憶と連続した記憶にすることで、お前が『優汰』として生きられるようにしたんだ・・・」

「なら、なぜその話を優汰に話したんですか?・・・・・そのまま優汰を『伊賀崎優汰』として扱えばいいじゃないですか!」

「この話は風花、君が魔術の世界に足を踏み入れたから、話さなければならないと判断した。」

「私?」

「君が魔術師としての伊賀崎家を知った以上、プリテンダーが偽物だと必ず気付く・・・君は賢いからね。それに魔術師として、二人を同一の人物として扱うことはできない。」

「なぜです?」

「人間と言う生命体を構成する三要素、『肉体』、『精神』、そして『魂』。魔術理論ではその三つの要素が揃って初めて『同一の人物』として扱われる。」

「肉体、精神、魂・・・」

「優汰の肉体はホムンクルスの物、精神は人格を切り替える為に改造が施されている。魂は複製品、それも『被虐体質』が発現するほどの根底までは再現出来なかった。」

 正嗣は間違いなく天才だ。だが肝心の場面で理想に届かない。

「魔術師として、同一の人物と扱うことはできない。プリテンダー、お前は・・・


お前は『優汰』ではない。」


「そっ、か・・・」

 優汰の声が震え、目には涙が溜まっていた。

「優汰・・・」

 蓮人は心配そうにその名を呼ぶ。

「最後に、警告しておく・・・私は『優汰』及びプリテンダーを後継者にする方針を諦めて、絵夢を魔術師に戻す計画を進めている。」

「それが『ワルプルギスの夜』?」

「察しが良いな、魔法使い。」

「・・・・・これ以上、邪魔をするな。プリテンダーが大事ならな。」

 そう言い残し正嗣は転移して消えた。




 帰宅後。

 優汰と風花はそれぞれの自室に篭り、青依は伊賀崎 絵夢(えむ)に先程のことを話す。

「・・・・・・そっか、お父さんがそんな事を。」

「あんまり驚かないのね・・・」

 少し引きつった笑顔で絵夢は話す。

「一緒に暮らしてたら、やっぱりわかる、じゃん・・・・・具体的に優汰がどうなってるかは、わかってなかったけど、それでもなんか違うって・・・成長とはまた別の変化が。」

「そう・・・それで、絵夢はどうするの?優汰・・・プリテンダーの優汰のこと。」

「どうするって・・・?」

「皆んなと違って私は抑止力の介入者だから、事件が終われば死者の国に戻るだけ。第五魔法Resurrectionの魔法使いとしての仕事が終わるからね。だから優汰がどんな存在だろうと私には関係ない・・・」

 冷たいが、だからこそプリテンダー、優汰をそのまま受け入れられる。

「でも、あなた達は違う。事件の後も優汰がいる人生は続く。だから『優汰をどう扱うか』その問いに対する答えを、一応117年生きた人間として聴こうかなって思って。」

 まあ、青依は100年前に人間を卒業しているのだが、精神は人間のままだ。

「伊賀崎正嗣は親である前に魔術師である為にオリジナルの『優汰』とプリテンダーの優汰を別の存在として扱った・・・絵夢は、どうするの?」

「私は・・・」




 優汰は自室で正嗣の言葉を思い返す。

「・・・・・これ以上邪魔するな。プリテンダーが大事ならな。」

 そう言い残し正嗣は転移して消えた。まるで、自分を人質に取ったような警告だ。

「まあ青依がいればなんとかなる・・・よね?」

 悪魔も獣魔もそれが人を襲うなら優汰はそれを見過ごせない。

「偽物も本物も無い、オレは・・・オレだ。」

 正嗣が優汰の正体を話した事により、認識阻害魔術が切れている。優汰は無意識に一人称が変化したことに気づく。

「オレはオレ・・・だよ、ね。」




 風花は自室で正嗣の言葉を思い返す。

「優汰は死んでて、今まで優汰だと思ってたのは偽物のホムンクルス・・・」

 暗い部屋のベッドの上で体育座りする風花。

「私は・・・」

 コンコンと部屋のドアがノックされる。

「風花・・・ちゃん?その、学校から連絡があって、『最近頻発する怪人騒動に対して生徒の安全を守る為、事態が終息するまで学校は休校にする』って。」

「わかり、ました。」

 風花は弱々しい声で返答する。

「ご飯できたけど・・・」

「ごめん、なさい・・・食欲が無くて。私・・・もう寝ますね、おやすみ、なさい・・・。」




 正嗣が語ったプリテンダー( 優汰 )の真実に対してそれぞれの答えを出さなければならない。

 プリテンダーをどう扱うか、正嗣が出した答えは優汰とは別の人物として扱うこと。

 魔術師として魔術の理論に従った結果だ。

「俺の答えは・・・」

 蓮人の答えは考え無いことだ。

絵夢や風花は『優汰』との日々から連続してプリテンダー( 優汰 )と過ごしている。だが、蓮人にそれは無い。

「俺が優汰に知り会った時、既に優汰はプリテンダーだった。だからこれまで通り接するだけだ・・・・・」

 蓮人はベッドに横になる。

「『優汰』にはちょっとだけ同情するな・・・境遇も事の顛末も全然違うのに自分に重ねてるのかもな、俺は。」

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