未完Final:伊賀崎正嗣
「二人とも、下がってて。こいつは私が倒す。」
伊賀崎 優汰と萱瀬 蓮人の元に呼び出された逆凪 青依は悪魔と対峙する。
「お前が魔法使いか!?もっとババアを想像してたが、意外に若いな!結構な美少女だ!」
「・・・悪魔も人間に欲情するの?」
明らかにテンションが上がった悪魔に優汰は質問する。
「そいつを人間って言っていいかは疑問だが、質問に答えるならNOだ。元人間の悪魔ならまた別だが、悪魔になる悪霊ってのは人間並みの知性を持ってるだけで人間の感性を持ってるわけじゃねえ!人間で言うブッサイクな犬とかわいい犬が区別できるみたいなもんだ!かわいい犬だとしても人間の雄は欲情しねえだろ?」
「狼型悪魔。一般人を襲ってたみたいだけどご主人様に神秘の秘匿とか言いつけられなかったの?」
青依はいつもの口調で喋っているがその声には明らかな怒りがある。
「言いつけ?俺はただ魔力量の多い人間を攫って来いって言われただけだぜ?」
「そうじゃない人間は?」
「好きにしろって言われた!だから殺してる!俺の趣味だからな!俺はガルル!狼の悪魔!好きなことは人間を殺すことだ!ハーハッハッハッハ!」
周期機構、起動
青依の髪が白くなる。剣を構築、ありったけの魔力で剣と足を強化し、
「もう終わったよ。」
目にも止まらぬ一瞬の動きでガルルの首を落とす。
「な!い、いつの間に!」
周期機構を解除した青依の髪色が濃い紫色に戻る。
「ぐわあああああああああああああ!!!」
「やっぱり悪霊はどこまで行っても悪霊ね。」
「じゃ私帰るから。」
転移
バスを逃した二人をロンドンまで運び、青依は転移で日本に帰る。
「どうする、萱瀬?飛行機まで二時間ぐらいあるけど。」
「・・・・・・・お前に話したいことがある。」
「うん、何?・・・なんでも聞くよ?」
二人は客が全くいないのカフェに入り、コーヒーを頼む。
「・・・・・それで話って何?」
「・・・・・・・今から話すことが中途半端な自覚はある。でも、事前情報なしに突きつけられたら必ずショックを受けると思って、その・・・すー、はー。」
蓮人は深呼吸して話し始める。
「日本に戻ったら近いうちに必ず伊賀崎正嗣がお前の前に現れる。これはその時に奴の口から聞くべきだ。だが覚悟を決める準備ぐらいは必要だと思って言っておく。」
「うん。」
「お前はお前じゃない。俺から言えるのはそれだけだ。」
「本当に中途半端だね。言葉の意味は父さんから聞けってこと?」
「ああ。」
「・・・・・気になってたんだけど。萱瀬、飛行機乗ってから一度も魔術使ってないよね?」
「ああ、それか。うちの魔術は地脈を基盤に置いて術式を組み上げるから日本本土を離れると機能しないんだよ。その代わりに地脈と繋がっていると普通よりも早く術式が組める。まあ装飾魔術を使う魔法使いと比べたらあっちの方がまだ早いけどな。」
「聞いておいてあれだけど、それ僕に言って良かったの?」
「それだけで萱瀬家の術式を解明できないだろ?」
「まあ、そうだけど。」
「・・・そうでもあるまい。」
「!!!」
背後に黒いローブの男が立っている。
「どうかな?蓮人。味がする食事は?」
低い声でローブの男は食事の感想を求める。
「ああ、これもあんたの仕業か。」
「仕業、か・・・まあ私が治した事は確かだが、余り良い印象を受けない言い回しを受けている辺り、余計なことだったかな?」
「いや、感謝してるよ。まさに名医の仕事だ。だが、こんな公衆の場に出てきて良かったのか?伊賀崎正嗣?」
このローブの男こそ伊賀崎正嗣だ。正嗣は萱瀬の質問に答える。
「このローブには、暗示の魔術を応用した術式が刻まれている。周囲からの認識を歪め、記憶に残りづらくなる。君と言う例外を除いてね。」
「父、さん・・・?」
「ふむ、お前には効き目が薄いな。改良の余地はあるが、まあ後回しだ。いや、最早その必要も無いか。」
正嗣が指を振る。たったそれだけで催眠の魔術を行使し、優汰を眠らせる。
「てっきりあんたとの接触は日本に戻ってからだと思ってたが。」
「公衆の面前であれば、君は地『脈を基盤にしていない魔術』も使えない。協力者ではなくなった今の君と一番安全に接触する方法だと判断しただけだよ。」
「そうかよ・・・」
「では、本題に移ろう。君の家の借金は全額返済した。これで契約満了だ。オマケとして君が失っていた味覚を元にもどしておた。オマケなので多少は不出来でも文句は言わんでくれよ?」
「一週間この味覚で過ごして文句のしようが無かったよ・・・クソ!獣魔や悪魔とは別の意味で化け物だ。」
「それは何よりだ。契約が満了した以上、君との協力関係もここまでだ。」
「で、用済みの俺を殺すのか?」
「まさか、『ワルプルギスの夜』を成功させるためとはいえ、手塩にかけて育てた弟子だ。使い捨てにする事はしない。『 』に誓おう。」
「冗談だよ・・・・・・・正嗣、今までありがとうな。こいつには悪いが、俺はあんたのことを父親みたいに思ってた。」
「少し早い巣立ちだな・・・」
「ああ。」
正嗣が店を出ようとすると、
「ではな。せいぜい無罪になれる様に、次に会う時には全力で来ることだ。・・・ああそれと、『プリテンダー』を起こしておいた方がいい。催眠魔術が効き過ぎたのでな。起きるのを待っていたら飛行機を逃すぞ。」
「成り代わる者、か。萱瀬家も人のことを言ってられないが・・・必死だな、伊賀崎家も。」
飛行機のフライト時間は十二時間。長く退屈な空の旅を優汰は過ごす。正嗣のローブの効果によって父と会った事は夢だったかの様に感じている。
「父さんが夢に出てきたんだ。なんだか難しい話をしてくれたんだけど・・・」
「お前、ちょっとシスコン入ってるって思ってたけど、マザコンとファザコンも入ってるな。」
「まあ、母さんはたまにしか会えないし、姉さんとは二人暮らしだからあんまり険悪になりたくないからね。」
「父親は?」
「・・・・・父さんはあんまり構ってくれなかった、かな。今思えば魔術を姉さんに教えるためだったんだろうけど。まあ、たまに二人だけで映画を見に行ったりしたし。姉さんが事故ってから父さんが居た半年は僕にも魔術を教えてくれたし・・・」
「魔術師は一般人と感性や価値観がズレるものだが、その中でも黒魔術師は命の価値が他の魔術師以上に軽くなる。小学生に教えるのは、確かに教育に悪そうだ。」
「僕は父さんの期待に応えられなかったから、父さんはもしかしたら僕が黒魔術師としてダメダメだから、こんなことしてるのかな。」
「まあ半分はそうだな。」
「半分?・・・」
「これは別に正嗣から聴いた訳じゃないが、単純に優しく育ったお前に黒魔術なんてやらせたくなかったんだと思うぞ?聴かなくても様子を見てたらわかる。それがもう半分。羨ましいぐらい魔術師の父親としては完璧な男だ。地獄の俺の父親にも見習わせたいぐらいだ。」
「萱瀬のお父さん?」
「婿養子のくせに家の金使い果たして、借金までするクソ野郎だ。・・・・・ふあぁぁ、寝る。着いたら起こしてくれ。」
飛行機は無事に日本に到着し、二人は夜見川に帰ってくる。
四月二十日の夜。
蓮人は正嗣がロンドンで言っていた『ワルプルギスの夜』について調べ始めた。
「『ワルプルギスの夜』って正嗣は言った。それが正嗣が目論む儀式の名前。ワルプルギスの夜ってのは四月と五月の境目の夜のことだ。具体的にどうやって絵夢を魔術師に戻すのかは知らないが、この夜に何かするのは間違いない・・・」
「『ワルプルギスの夜』?」
青依が背後から話しかける。
「うおお!!!魔法使い!びっくりさせるな!」
「あっ、ごめん。驚かせる気は無かったんだけど。何してるの?」
「『伊賀崎正嗣を捕獲すれば無罪にしてやる』って魔術連合のお偉いさんに交渉して釈放されたからな。まずは色々調べてる。正嗣がやろうとしてる儀式の名前は『ワルプルギスの夜』、今はそれしかわからない。」
「そう、じゃ頑張らなきゃだね。」
『ワルプルギスの夜』まであと十日。




