未完One:空白大
4/18日萱瀬 蓮人が学校で起こした事件から一週間が経った頃。
逆凪 青依はまだ伊賀崎家に居候していた。
「いつになったら退去するんだろう?」
「もういっそのこと、ここに住んじゃう?元々二人暮らしには大き過ぎる家だし。」
青依の疑問に伊賀崎 優汰が荷物を確認しながら冗談半分で提案する。
青依が霊長の抑止力によって派遣された『守護者の代わり』である以上、その事件の『人の身に余る部分』が解決すれば、青依は退去するはずだ。蓮人の背後関係を調べ、事後処理をするのは、人の身でも十分に行える。
言ってしまえばこれ以上青依は必要ないはずなのだ。
「よし、大丈夫なはず!じゃあ行ってくるよ。」
「うん、お母さんに私は大丈夫って伝えておいてね!」
「一緒に行けたら良かったんだけど・・・」
「お客様二人を残して家主が二人とも海外旅行はできないでしょ?」
「どちらかと言えば海外出張だと思うけど。じゃ、行って来ます。行くよ、萱瀬。」
「ああ。」
優汰はこれからブランクスペース大学、通称空白大にある魔術連合に今回の一件を事後報告に行く。
ついでに蓮人を連合に引き渡し、空白大で教授をしている母の伊賀崎 さおりに会う。
ブランクスペース大学はイギリスにあるため、イギリスに向かう飛行機に乗るために空港向かう。
「待って、優汰。」
「ん?青依、何?」
「私が退去ってことはまだ事件が終わってないってことかもしれないから・・・これ付けて行って。」
優汰の右の中指に青依は指輪をはめる。
「転移魔術を応用した、優汰が居る場所に私を呼び出す術式を埋め込んでる。何かあればこれで私を呼んで。」
「うん、わかった。今度こそ行って来ます。」
十二時間ちょっとのフライトを経て優汰と蓮人はイギリスの首都ロンドンに降り立つ。
ここから約一時間半かけて空白大のあるグラストンベリーに向かう訳だが、
「萱瀬、お腹空いてない?」
「これから空白大で取り調べを受けるってのに腹が減るかよ・・・それに昼飯なら機内食食っただろ?」
「確かにイギリス時間だとお昼だけど、時差があるから!日本時間だと今は夜の八時だよ?夜ご飯食べに行こう!」
某ハンバーガー店に立ち寄り、店内で食事を取る。
「なんでマクド○ルドなんだよ!!!」
「イギリスの料理ってあんまり美味しくないんだよねー。」
「ああ、なんか良く聞くよな。イギリスの料理はまずいって。」
「まあ別に、いいレストランに入れば美味しい料理も出るんだけど、高いからね。旅行じゃないからマ○クでいいかなって。」
二度目の昼食を終え、グラストンベリーの空白大に向かう。
グラストンベリー。アーサー王の墓があるこの地は、イギリス、旧ブリテンに置いて神話と歴史を隔てた『アーサー王物語』の終着の地だ。
「なんか、慣れてるな伊賀崎。イギリス、よく来るのか?」
「母さんに会いにね。空白大で魔術の先生してるから。普段は姉さんも一緒なんだけど・・・萱瀬は?」
「俺は初めてだ。うちみたいなたった五代の魔術師の家系じゃ、お呼ばれもしないからな。空白大に会いに行く様な知り合いも居ないし、魔術連合に用がある様な事も家督を継いでからは無かった。」
空白大に当着する。魔術連合統括部に報告し、萱瀬を執行部に引き渡す。
統括部は読んで字の如く魔術連合を統括する部署。通称、魔術連合上層部だ。
執行部は一般的な企業や組織のものとは少し異なり、魔術による犯罪や魔術連合規定に違反した魔術師の取り締まりと、統括部が決定した刑罰を執行する部署。良く言えば魔術師達にとっての警察、悪く言えば上層部の犬だ。
「バルリアさん、よろしくお願いします。」
「承りました。さあこっちへ来るんだ!」
「引っ張るな!一人で歩けるわ!」
拘束魔術で上半身だけ拘束された蓮人が取り調べ室に連れて行かれる。
バルリア・アンラ・トシティ。ゾロアスター系の魔術の大家、アンラ家の長女。弟が家督を継いだために魔術連合の執行部に入り、わずか一年半で一級執行官まで登り詰めたエリートだ。個人的に優汰と仲がいい。
仕事を片付けて、優汰は母さおりに会いに行く。
「母さん!」
「おー、優くん久しぶり!」
優汰は邂逅早々に抱擁を受ける。お正月以来の母のハグは短い様で長い。
伊賀崎 さおり。空白大で魔術を教える講師をしており伊賀崎 正嗣と結婚し、一時は退職したが、正嗣の自殺を受けて復帰した。
外見は三十代前半といった感じだが、その実45歳。外見維持の為に結構必死だったりする。
魔術師としては中の上といった感じだが、術式の理解力が突出しており、講師は天職である。
優汰はさおりに絵夢のことや風花のこと、青依と蓮人のこと、学校での新しいクラスのことを話す。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
「もう時間だ・・・ごめん、母さんもう行かなきゃ。」
「えーもういっちゃうの?一泊ぐらいしていけばいいのに!」
「そう何日も学校休めないからね・・・。」
「そっかー・・・優くん、寂しくない?」
「大丈夫!!!」
「うん!じゃまたね。夏休みにはまた帰るから。」
最後にもう一度ハグする。
「うん、じゃあね。」
別れの挨拶を終え、優汰が帰ろうとすると、
「あ!そうそう!言い忘れてたんだけど、お父さん生きてたよ!」
「・・・・・・・はあああああああああ!!!?」
その頃、蓮人はバルリアの取り調べを受けていた。
「答えろ。この獣魔召喚術式、誰から受け取ったものだ?これはお前の様な二流魔術師が組み上げたものではないはずだ。」
「・・・」
「答えろ!」
「今から言うことを信じるか?・・・その術式を作ったのは、伊賀崎正嗣だ。」
「何!!!?あの男が生きていたのか!!!」
「うちはクソ親父が遺した多額の借金を背負ってた。その返済に困ってた時、伊賀崎正嗣が話を持ちかけて来たんだ。伊賀崎正嗣の言う通りに術式を使ってそのデータを取り、それを奴に渡す。一日につき5万、それを奴が十分と判断するまで繰り返せばうちの借金を全額返済するって約束だったんだ。それだけだ。」
蓮人が取り調べを終え、一時釈放される。
「あっ、萱瀬!・・・もういいの?」
「俺の罪状は神秘の秘匿を脅かしたことだからな。魔法使いと連合が完璧な隠蔽工作をしたのと、未成年ってことで大目に見てもらった。伊賀崎正嗣を捕縛すれば無罪にしてやるってよ。」
「本当に父さんが・・・でもどうして?何のために?」
優汰が正嗣の動機や目的を考えていると、
「ワオオオォォォォォ!」
「!?」
「この雄たけびは!!!」
狼型獣魔の雄叫びだ。
「萱瀬?」
「俺の仕業だったら、とっくに魔法使いの即死魔術で死んでるわ!!!」
「そっか!そう言う契約だったね・・・どうしよう、青依呼ぼうか?」
「大型じゃないならお前だけでも倒せるだろ?」
「・・・・・頑張る。」
二人が現場に到着すると、一般人が二足歩行の狼型獣魔に襲われている。
「なっ、なんだ!?こいつ。」
一般人が獣魔に首を絞められている。
「やめろ!」
「ん?お前が萱瀬蓮人か?」
「しゃべった!!!?」
驚く優汰を他所に蓮人が答える。
「そうだ!俺が萱瀬蓮人だ!俺になんの用だ!」
「えーっと、なんだったかな?・・・・・・・忘れた。」
悠長に喋る獣魔を前に優汰は唖然とする。
「気をつけろ!!!こいつは『悪魔』だ!獣魔は知性の無い悪霊を魔力の肉体を依代に現界させたものだが、悪魔は人間レベルの知性が有る悪霊が現界したもの、つまり知性の有る獣魔だ!そして悪魔は・・・」
拘束
「うわ!!!?」
悪魔の詠唱に従い、魔術が二人の上半身の身動きを封じる。
「こいつらは魔術が使えるんだ。使わない個体もいるけどな。魔法使いを呼べ!こいつはお前じゃ勝てない!」
「わ、わかった。」
来い、青依!
詠唱に応じ青依が呼び出される。
「二人とも、下がってて。こいつは私が倒す。」




