攻略Four:周期機構、起動
昨晩。
RKは伊賀崎 優汰の携帯を拾っていた。
偽・神を食らう魔狼との戦闘中、優汰のポケットから落ちてきたものだ。
「返してやる義理はないんだが。やる義理はないんだが・・・」
RKが携帯を元の場所に戻そうとすると、
「ありがとう。⬛︎⬛︎は優しいのね。」
「っ!やめろ!!!・・・っ、・・・」
RKは幻聴に悩まされている。過去の記憶が実際の聴覚に現れている。
「はあ、クソだ、最近回数が増えてやがる・・・」
RKはため息をして、
「しかたねぇ。」
携帯を持って伊賀崎家に向った。
時間を現在まで戻し、昼休み。
姫里 風花は自席でSNSを見ていた。
普段なら優汰と喋ってるところだが、優汰が欠席しているため一人だからだ。まあ、優汰が欠席しているのもなかなか久しぶりなわけだが。
「ん?」
クラスの皆が窓から校門のほうを見ている。
「誰だ?あの人。」
「え?どれどれ?」
「うおおお!めっちゃ美人じゃん!」
「ほんとだ!きれいな人!」
「制服じゃないし、生徒じゃなくない?」
「確かに見たことない!」
誰かが来たのかな?と思い風花も窓の外を見る。すると、
「青依さん!!!?」
クラスメイト達が見ていたのは逆凪 青依だった。
風花は教室を飛び出す。
「ちょっと青依さん!何でここに居るんですか!?いや、何でここに来たんですか?はあ、っはあ。」
3階から校門まで走った風花は、肩で呼吸しながら学校に来た理由を問う。
「風花、萱瀬 蓮人はどこ?確認したいことがあるんだけど。」
「え?萱瀬?・・・教室にいたけど・・・・・え!?」
風花が青依と話していると空が赤く染まり始める。
「結界!!!?まさか!」
青依は青ざめている。
「青依、さん?」
「走って!閉じ込められる!!!」
校門に向かって走り出す青依にを見て風花も走り出すが、
「だめだ、間に合わない!」
あと少しというところで、結界が閉じる。
「これ、魔術?」
「結界。色が付いてるけど、いつも私が使ってるやつと同じもの。独自の術式やルールを付与した空間を作る魔術。」
青依が結界の説明をする。
「出れないんですか?」
「複合結界だね。いろんな効果が付いてる。遮音、遮光、それと一方通行。結界に入るのは自由だけど、出るには結界を壊すか術者を倒して結界を閉じさせる。後は・・・催眠かな?」
権能接続者で第五魔法に至っただけで、逆凪家は結界術の家系だ。
青依は結界の効果をすぐに特定する。
「でも誰が?・・・」
「俺さ!!!」
風花の疑問にRKが答える。
優汰は血液不足で寝込んでいた。
「あ?なんだ、あれ!・・・空が、赤く?」
ベッドから起き上がり、制服のブラザーを羽織る。
「優汰!?安静にしてなきゃだめだよ!」
姉の絵夢が止めに入る。
「ごめん、無理しない様に善処するから!」
「ちょっと!!!」
「行ってきます!」
玄関を飛び出して学校へ走る。
「善処って絶対無理するじゃん・・・。」
RKが青依と風花に現れる。
「R、K!・・・何でここにいるの?」
「・・・・・何で?えーっと、何でかー?・・・考えてなかった!なんでだろう。」
風花の質問にRKはおどおどする。
「学生だからでしょう?」
青依がRKを鋭く見据える。
「・・・・・。」
RKは不敵に笑うと・・・
「なななななななな何言いてるんだ!そそそそそそそそそんなわけないだろう!!!?」
「図星じゃん・・・。」
RKの図星の態度に風花は呆れる。
「う、うるさい!来いっ!偽・神を喰らう魔狼2号!!」
「ガルルァアアアアアアアアアアア!!!」
「げっ。」
「どうだ?伊賀崎は今日休みだったぞ、魔法使い?」
昨晩の青依特攻の獣魔、フェイク・フェンリルに少し怖じ気付く。
「・・・・・風花、下がってて。」
「でも・・・」
心配そうな顔をする風花に青依は笑って言う。
「大丈夫!」
「ふっはっはっはっは!強がるなよ、魔法使い。昨日も言ったが、こいつはお前に対する特攻として作ったんだぞ?」
青依の言葉にRKは小馬鹿ににする様に笑う。
「行け、フェンリル。」
「ガルルルルル、ガァアアアアア」
フェンリルは素早い動きで青依の腕に噛みつく。
「これは!」
青依には痛覚がない。傷付いた箇所に血は流れず、体を修復するために青く発火する。だが、
「痛っ!」
痛覚を失ったはずの青依が噛みつかれた腕を痛がり、さらに食い込んだフェンリルの牙から、青依の腕にひびが入っている。
「これがフェイク・フェンリルの神性特攻だ。」
フェンリルは噛みついたまま青依の胸に爪を突き立てる。
「あああっ!!!」
青依はナイフを構築し、フェンリルを切りつけ、フェンリルの牙が離れた瞬間に強化した足で蹴り飛ばす。
「はあ、はあ、はあ。なるほど、確かに私特攻だ・・・」
青依は呼吸を整え、
「もう逃がさないよ?RK。」
そう、気丈に言い放つ。
「ああ?今の状況わかってんのか?逃げられないのはお前の方だろ?転移しないならフェンリルは俺の治癒魔術の射程圏内だぜ?」
RKの治癒魔術によって切り付けられたフェンリルの傷を治癒する。即座に傷が治るフェンリルに対して青依は、
「・・・傷がいえるのが遅い。これはまずいね・・・奥の手、使うしかないか。」
青依は深呼吸して、詠唱する。
周期機構、起動
詠唱に応じ、青依の髪は色が抜け落ちる様に、濃い紫の髪は白く変化する。
「な、なんだ!!!?何が起きている!!!?今、何をした!!!?」
「私は死にながら生きてる。うんうん、死にながら生きてた。」
RKが困惑している。
「私の体は、100年前に第五魔法と即死魔術を0.1秒周期で繰り返し行使され続けた。その結果、『生きてる状態と死んだ状態が混ざり合った』肉体になった。」
青依は説明し始めた。
「生者の『魔力器官で魔力を作る』力、死者の『死者の国から魔力を受け取る力』、私はその両方を持ってる。でも普段の私は、生と死が混ざり合って、二つの力がお互いに弱め合ってる。普段の私の魔力能力は6。そこに死者の国から受け取る魔力が加わるんだけど、この周期機構術式が行使されてる間は混ざり合っていた私の生と死が再びはっきりと別れる。魔力能力は本来の18に戻って、死者の国から受け取れる魔力も本来の量の魔力を受け取れる。つまり・・・」
青依の説明を遮り、風花が反応する。
「つまり、青依さんが普段の3倍強くなるってこと!?」
「だいたいそんな感じ!死者の国から貰える魔力は魔力能力6相当だから・・・だいたい24ぐらいだね!」
その数字にRKからは先程までの余裕そうな態度が無くなる。顔は見えないが、青ざめているのがわかる。
「24!!!?なんだその魔力能力!獣魔召喚100回してもお釣りが来るぞ!?だいたい即死魔術と第五魔法を繰り返せる程の魔力をどこから持って来た!?」
「昔は実家のホムンクルス100体で賄ってたけど、今は契約で抑止力にもらってる。」
青依の回答にRKは納得する。
「抑止力との契約・・・」
「そう、タダで死者の国の管理者になんてなるわけないでしょ?・・・・・さ、そろそろ始めよう?君の自慢のフェンリルと、どっちが強いか・・・ね?萱瀬 蓮人君?」
優汰は貧血でふらつきながら赤い空に覆われた学校まで走っている。
「はあ、はあ、はあ、何が起きてるんだ・・・・・風花、青依、皆!」
貧血のせいか学校までの道のりが普段より長く感じる。