攻略Three:車椅子の姉と甘えん坊の弟
「ただいま」
気を失った伊賀崎 優汰を抱えて逆凪 青依と姫里 風花が家に帰るとそこには萱瀬 蓮人がいた。
「あっれれ~?姫里さんじゃ~ん!!!なんでいるの~?」
「別に?ただの家出。あんたこそなんでいるの?」
風花の質問に萱瀬が答える。
「伊賀崎が携帯を落としてたから届けに来てやったんだよ!まったく気を付けろよー!あれ伊賀崎は?って誰だお前!」
「誰だか知らないけど何も聞かないで?気を失ってるだけだから。」
青依は萱瀬にそう答えると優汰の部屋に向かう。強化の魔術を切り忘れていることに青依は気付いていない。
「まあ、いいや今度落としても拾ってやんねえからな~って言っといてくれ、じゃあな!」
萱瀬は伊賀崎家を後にした。
「しまった・・・。一般人の前だったのに・・・」
青依は優汰をベッドに寝かせてから強化の魔術を切り忘れていたことに気付いた。
「まあ、私が誰かってことに意識がいってたみたいだし気付いてない、かな?」
青依は治癒の魔術で優汰を治療する。
「ん、姉さん?」
「違う!」
優汰が目を覚ました。
「おはよう、夜だけど。動かないで、今治療してるから。」
「青依・・・大丈夫?」
「こっちのセリフ。風花と絵夢が心配してたよ?」
「あー、うん・・・・・青依、なんかお母さんみたい。」
「年齢的にはおばあちゃんでも足りないと思うけどね?100歳差だと曽祖母?」
「まあそう、かな?・・・二人、怒ってた?」
「風花は怒ってたかな?絵夢は・・・」
「青依ちゃん、とりあえず飲みもの持って来たよ。」
絵夢が部屋に入ってくる。膝にお盆を乗せている。
「あっ気がついた?良かった・・・もう、萱瀬くんが帰ったと思ったら優汰が全身血だらけで帰って来たからびっくりしたんだよ?」
「うん、ごめん・・・」
青依の治癒が完了し、絵夢が持って来た飲み物を飲んで、
「とりあえず、傷口は塞いだから。私は部屋に戻るね。血が足りてないし、体力も削れてるから明日は学校休んで安静ににしてて。・・・おやすみ。」
そう言って青依は部屋を出る。
「なんか久しぶりだね。優汰の看病なんて。小さい頃は月一ぐらいのペースで風邪引いてたのに最近は風邪とか一切無かったからなんだか懐かしい。」
「あの頃の姉さん、色々から回ってお母さんに迷惑かけてたよね。あの頃はまだお母さんが家にいて・・・」
「私の事故から、色々変わっちゃったんだよね・・・私は車椅子になって、お父さんに死んじゃって、お母さんが前の仕事に戻って、二人暮らしになって・・・・・優汰。」
「ん、何?」
「ごめんね・・・私、優汰に伊賀崎の魔術を背負わせたくなかった。優汰には普通の男の子として生きて欲しかった。黒魔術、優汰にはきついよね?昔から優しい子だったから。」
絵夢は涙目になっていた。
「私、優汰が自分の血で黒魔術の練習するために自分の指を切るの見て、毎日罪悪感で押し潰されそうだった。私のせいで優汰に黒魔術をさせてるって。鳩の首を切る感触、私好きじゃなかった。それを優汰にやられたくなかった。」
絵夢の頬を涙が流れる。
「青依ちゃんみたいに第六魔法の魔法使い、どこかにいないかな?魔力器官を治してくれないかな?こんなに願ってるのに!」
「姉さん・・・」
絵夢は深呼吸して気持ちを落ち着ける。
「ごめん、無いものねだりだったね・・・ふあ〜」
絵夢があくびする。泣き疲れたこともあるだろうが元々もう良い時間だ。
「もう寝ようかな。おやすみ、姉さん。」
「優汰、今日はここにいさせて?優汰の側に、ね。」
「うん、じゃあ、おやすみ。」
絵夢は優汰が寝るのを待ってから明かりを消し、車椅子を少しだけリクライニングして、
「それと、車椅子の姉さんでごめんね・・・頼ってばかりで。」
そう囁いて、寝たふりした優汰の側で眠りにつく。
翌朝、優汰は安静にするため学校を休み、風花だけで登校する。
「じゃ、行って来ます。」
「うん、行ってらっしゃい!気を付けてね!」
絵夢が風花を見送り、優汰の朝ごはんを作る。
「はい、どうぞ。」
「いただきます!」
朝食はほうれん草と牛肉のパスタ。昨夜の戦闘で大量出血して血が足りていない優汰に合わせて鉄分多めの献立だ。
「お粥とかじゃないんだね。」
「別に体調が悪いわけじゃ無いでしょ?傷自体は治してもらったんだから。」
ほうれん草は鉄分が多く含まれている。牛肉も豚や鶏と比べれば鉄分が多く、ピルを飲むほど生理が酷い絵夢ならではの対貧血レシピだ。
「食材買って来なきゃだから手っ取り早く鉄分錠剤も買って来た方が良いかな?」
「そんなのでいいの?てっきり輸血でもするのかと思ったけど。」
絵夢が少し笑った。
「そこまでは無いよ。大袈裟だなぁ!じゃ、買い物に行ってくるから!」
「それなら僕が・・・」
「大丈夫!こんな時ぐらい姉さんに甘えてよ。せっかく、姉弟なんだからさ!」
絵夢が部屋を出る。
「こんな時ぐらいって・・・いつも姉さんの強さに甘えてばっかりだよ、僕は・・・」
自己嫌悪の様な暗い表情で優汰はそう言った。
絵夢が帰宅すると、
「絵夢、ちょっといい?」
青依が話しかけて来た。
「青依ちゃん?どうしたの?」
「昨日優汰が言ってたんだけど、絵夢の眼帯の下には人造魔眼があるんでしょ?それも伊賀崎 正嗣が作ったって言ってたけど。」
「ああ、これ?」
絵夢が眼帯を取る。そこには義眼とすら言えないぱっと見、ただの青いガラス玉が埋まっていた。
「装飾魔術みたいに半球状の義眼に術式が埋め込んであって、優汰に魔力補給してもらうことで一回だけ拘束魔術が使える拘束の人造魔眼。人造魔眼は普通の魔眼と違って魔眼の持ち主が魔力補給しないと使えないんだけど、私の魔力器官はもう潰れてるから優汰に魔力補給してもらってるんだ。・・・でもその代わり効果はすごいでしょ?」
青依は身動きが取れなくなっている。
「・・・なんで私に魔眼を使うの?」
「ごめんごめん。人造魔眼の発動は装飾魔術と同じように術者が魔力を込めたタイミングなんだけど、私の場合だとそのままじゃ魔力補給してもらった瞬間に発動しちゃうから。魔眼封じの眼帯で抑えて、魔眼が必要な時に眼帯を外すようにしてるの。だから誰かに見せようとすると相手に魔眼使っちゃうんだよね!まあ見せたいものでも無いんだけど・・・」
絵夢が眼帯をすると青依の拘束が解ける。
「で、私の魔眼がどうしたの?」
「うんうん。・・・魔眼に魔力補給してあげる。まあ、そこまで敏感になるほど優汰の容体悪い訳じゃ無いけど、念のため、ね。」
「ふーん。あ、眼帯の上からでいいよ。」
青依は絵夢の眼帯に触れその奥の義眼に魔力を流し込む。
「それで、伊賀崎 正嗣ってどんな人だったの?主に内面的な部分。」
「内面かー・・・空白大での評判は良くも悪くも『完成した黒魔術師』。どれだけ大事な物でも目的の為には使い、かと言って残虐過ぎない。類稀なる才覚を持ちながら努力を惜しまず、ゴールまでに不足した知識、技術は正確に習得する。『伊賀崎の魔術を5代分進めた』って、この辺の魔術の家系の人も言うくらい優秀な魔術師って感じかなぁ。」
「え?待って。この辺りに他の魔術師の家系があるの?」
「うん、宇賀家と、萱瀬家。まあ萱瀬家は婿として迎えられた優汰のクラスメイトのお父さんが家の資産使い込んだ上に多額の借金まで遺した糞野郎だったらしくて、魔術の家系として機能してるかは分からないけど。」
絵夢の口から糞野郎と言う言葉が出たことも青依にとっては衝撃だが、それよりも・・・
「他にも魔術の家系があったんだ。見落としてた・・・」