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3、月夜の魂葬花

やっと2話が書き終わりました…。


小説て大変ですね。目指せ週一投稿!!

 ―――sideフィア ―――


 ズシンッと言う衝撃が私の足に返ってくる。目の前の壁のような扉はビクともしない。


 天窓から洩れた光が私を映し出すが、痛みで彫刻の様に固まって動けない。


 暫しの静寂。


「ィッ…。」


 凄まじい硬さに足が痺れてしまった。さすがに無謀だったか。足を軽く振りながら、幸先が悪いな…など下らないことを考えてしまう。

 改めて扉もとい壁を見る。どう見ても人の力では破壊出来そうにない。本来ならば扉の開け方を探すべきなのだろう。しかしそれを煩わしく感じた私は徐に己の腰に差している抜き身の双剣に視線を落とす。


 その内の一本を軽く握り引き抜く。


 引き抜いた剣を両手で胸の前で天に突き立てる。まるで芸術品のように美しかった。陳腐な意味なき言葉が思わず口から洩れるが構わなかった。


「ぁぁ…何ていうのかな…。」


 これは本当に剣なのだろうか?どこかで見たことがある気がする。私はそんな馬鹿なことを考えながら視線を外し目の前の壁に走らせる。


 軽く腰を落とし両手のまま弓なりに剣を顔の横まで引き絞り構える。きっと不格好な構えだろう。何処となく違和感を感じる。深呼吸を繰り返して心を落ち着ける。


 馬鹿げた考えだろう…。


 私は今からこの扉を斬る。


 集中する。瞳を閉じてゆっくりと息を吸って止める。

 両手に握った剣を強く握る。極限まで神経を研ぎ澄ませた。


 そして視界が紫に染まった。私の中の何かが渦巻き力が体からあふれ出した。

 あふれ出した力の一部が刀身に吸われていく感覚があった。徐々に刀身の模様が毒々しい紫色に怪しく揺れ始める。鮮血の様な真っ赤な紫色と氷の様な冷たい紫色が混ざり合い禍々しい半透明の何かが刀身全体に揺蕩いながらドロリと纏わりつく。


 不気味な何かが…おそらく魔力なのだ。私は本能的にそう思った。体に纏わりついている赤紫の魔力は湯気の様に上に上にとゆらゆらと。青紫の魔力は渦を巻くように下に下にとしんしんと。


 刀身に纏わり付いた何処か不気味で鮮やかな色の魔力が徐々に刀身を切っ先まで染めてゆく。程なくして刀身は魔力で満たされ、刀身に留まることなく、溢れ出した魔力は体から洩れ出ている魔力と混ざり合い渦巻く。境界線が無くなり絡み合う。荒ぶる魔力の渦。


 そんな光景を眺めながら少しずつ力が抜けて行く感覚があった。

 あまり長時間の維持は危険な気がする。。


 力強く振り抜こうしていた私は何となく…。本当に何となく、


 そっと壁に剣を押し付けた。


 音もなく刀身は壁に沈み込みこむ。

 そのままとゆっくりと押していく。バチバチと小さく火花が飛ぶ。そして刀身を中程まで埋まる。何かを断ち切る確かな手応えを感じた。直観に従って、ゆっくりと刀身を引き抜く。穿った小さな剣の跡にビシリと不穏な音を立てて罅が入る。


 私は少し階段を降りて安全を確保して成り行きを見守った。程なくして限界を迎えた壁が、天井が頭上から降り注ぎ、瓦礫がガラガラと音を立て階段を激しく転がってくる。


 差し込む木漏れ日。階段を包みこむ埃の壁。喧噪が周囲を支配する。


 徐々に晴れる視界。私は瞳を窄め視界が晴れるのを待つ。そこで見たものは…。


「…外だ。」


 埃が晴れた先は暗く酷く明るい夜だった。4つの月(・・・・)が優しく私を照らし映す。月光りはゆっくり階段に忍びこむ。


 まるで外に誘われているようで、私は誘われるままに優しく階段を昇る。


 階段を昇り外に出て周囲を見渡した。

 そこは朽ちて荒廃した遺跡の…その中心だった。

 国が…文明が滅び、風雨にさらされ悠久にも思える幾星霜の時が過ぎたのだろう…。むしろ原型が残っていることが奇跡だろう。そんな場所だった。


 ―――ここは何処だろう?―――


 私の感じた必然的な疑問。


 しかし思わぬ所から答えが返ってくる。


 ―――あぁ…そうだここは教会だった…。―――


 唐突に…漠然と思い出した記憶の欠片。なぜ思い出したのか。どうして思い出せたのか…。答えるものは誰もいない。


 沈黙が応える。


 答えの出ない不安が私を苦しめる。


 その中で感じる懐かしい気持ち。この趣のある風景が私には感慨深かった。涙が零れて止まらなかった。寂しさと切なさと…が止まらない。ずっと逆手で持って居た右手の剣を思わず胸の前で抱きしめる。


 刃が私を犯すが構わず、力強く。


 この涙が刃の痛みだと誤魔化すように。知らない誰かの知らない記憶を誤魔化す為に…。その記憶の人々の横顔がたとえ優しかったとしても…。掠れた記憶の中の誰かが泣いていても。


 もう戻れないのだと振り切る為に。


 静かな涙を流し終わると遺跡の外が気になった。元は入口だったのだろうか?朽ち果てた正門がある。そこから遺跡の外を眺めると、夜空に光る何かが、ふわりふわりと天に昇っていく。その美しさに自然と足が動きだす。歩きながら剣を腰に差し直す。その歩みは何故か驚くほど軽かった。


 夜空を彩り踊るように舞う光の残光。それを丘の上から見下ろす。


 まるで星々の誕生の瞬間を見ているようだった。まるで遍く(あまねく)星々が夜空のキャンバスで遊んでいる様だった。


 この世のものとは思えない。


 ”絶景”


 この言葉で十分だった。

 これ以上の言葉はいらなかった。

 青・緑・白・黄色と色とりどりの光が天へと昇っていく。私は誘虫灯に魅かれる虫の様にふらふらとそれらに誘われる。


 ―――クシャ…―――


 正門を出る直前に何かを踏んだ。


「これは…」


 思わず手に取った。それは背筋が震える程に美しい花だった。幾重にも重なった淡く光る半透明の花弁とスラリとした品格のある葉と茎。全体的ガラスの様な質感のそれは改めてこの世の物とは思えない姿だった。花から光が零れ落ちて空に舞っていく。それと共に脆く崩れ去って行く姿が神秘性に拍車をかけていた。

 先ほどまで目の前の光景に釘付けだった。私は今度は己の手で砕けた花に見惚れていた。


 ポケットからデバイスが零れ落ちる。


 ―――ピコン―――


 聞こえて来た電子音で私は我に返った。未だに己の手の内にあった花の感傷に後ろ髪を引かれる。足元に落ちたデバイスを億劫な気持ちになりながら拾い表示された画面を確認をする。


 《魂葬花:花そのものが高純度の魔力で構成されている半透明の花。魔除けの効果がある。朝は姿が見えず夜になると一人でにひっそりと咲く。華々しく煌めく神秘の花。花から吐き出された空を漂う光子は魔力に包まれたこの花の種子なのだが、まるで魂が空に昇っていく様が魂葬花の名付けの元になった。この花には、この名称の他に沢山の別称があり、彗星草、蛍花、星誕花、結晶草などこの他にもたくさんの呼び方がある。また、この花を摘むとその構成を維持出来なくなり瞬く間に枯れて砕けてしまうのも特徴の一つ。そのままの保存には専門の設備と専用の技術が必要。また枯れないだけならそれほど難しくなく、一定の処理で問題無いが透明の姿からカラフルな純白の花になる。その生態の多くは謎に包まれており、発芽方法と生育方法は、未だに確立されていない。自生場所は、魔素濃度が高く、尚且つ嘗て戦場だった場所や古い廃墟や墓場で自生している。とても希少な花。蔑称として、死地に咲く花と言う意味で死帯花や滅び草など同じくらい沢山の別称がある。その美しい見た目に反して縁起が良くない。一般的に葬儀の際の献花に使われることが多い。この花に対する感情はその国の風習や種族によって異なる。》


 魂葬花…何処かで聞いたことのある響きだった。でも…。


「一体どこで…?」


 私は思考の海に耽ながら、また…ゆっくりと歩き出した。今度はゆっくりと…。


 正門を潜り抜け遺跡の外を歩き出た私は廃墟から少し離れた場所で立ち止まる。草原の真ん中。なだらかな丘の中腹。見渡す限りの魂葬花と時折散在する廃墟。辺りをゆるりと見渡し徐に振り返ろうとした。


 それは唐突の事だった。


 臓腑を震わす轟音。轟く衝撃。乱れ舞う髪が、その光景を見せまいと視界を塞ぎ隠す。


「?!」


 私は驚き思わず後ろを振り帰る。


 乱れた髪を整えながら、その光景をただ呆然と眺めることしか出来ない。


 ゆっくりと崩れて行くかつて教会だったそれは。今、この瞬間に瓦礫に変わっていく。先ほどまでの佇まいが嘘のようだった。


 まるで役目を終えたとでも言うかの様だった。音を立ててゆっくりと、今度は私に見せつけるかのようだった。


 倒壊していく教会…。何故かジクジクと痛む心。


 そこには初めから何もなかったとでも言うかの様で。

 初めからそれが正しいかったのだとでも言うかの様だった。


 一陣の風が駆け抜ける。


 それは…子共を見送るかのようで何処か優しくて…でも何処か寂しげだった…。


 それに応える様に体を翻し踵を返す。廃墟に背を向けてこの場を後にする為に歩き出す。


 風が私を運ぶ。もう振り返るなとでも言うように…。

 私は告別する。もう振り返えらないと。


 そう誰かに告げる様に。


 風が止む。


 旅立ちに涙は不吉だ。


 眦に滲んだ露はきっと気のせいなのだ。


 螽斯が奏でる鎮魂歌に耳を傾けながら当てもなく歩き出す。


 改めて視線を前に向けると遠くに森がある。その中に一際大きな巨木が見える。


 とりあえず…あそこを目指そうかな。


 揺れ移ろう感情が落ちついて来て、ふとした感情が口から淡く溢れる。


「あっぶなぁ!」


 その場に似つかわしくない軽い言葉だった。空に向けて零れた言葉が言霊になって溶ける。理由もなく、クスリと思わず笑みを浮かべてしまう。あと少し遅ければ私は瓦礫の山に埋まっていただろう。危なかった。これからは扉を開けるときは無理やりぶち破るのはやめておこう…と頓珍漢なことを心に誓いながら朗らかに。



 そんなことを思いながら軽やかに。



 ―――sideフィア end―――



 ―――side??? ――― 


 綺麗な空だ。空を見上げそんなことを考えていた。


 あのお方たちが姿を隠されてからどれ程立ったのだろう。

 しかし忘れもしない。忘れる筈がない。忘れれる訳がない。


 己を焦がし続ける妄執にも近いこの思いはあの日から続く苦しみ故か、それともあの日誓った己の本能が故か。

 わかりきった答えのこの問答は、あの日から幾度となく繰り返し答えを求め続けている。


 今日はあのお方たちの命日にふさわしい夜だ。…気に入らない。


 己から洩れ出る(いずる)夜より暗い闇が蠢き、空を乱雑に汚す。この幾度となく繰り返してきた己の所業に歓喜を感じる。しかし今日は、今日だけは特別なのだ。


 この歓喜は空を汚した歓喜ではない。

 お目覚めなのだ。あのお方たちのお目覚めなのだ!!


 己から湧き上がる歓喜が抑えられない。先ほど感じた魔力は忘れもしない。生きていた。生きておられた。心の奥底にある繋がりから生きているとわかっていた。しかし確証の持てないこの直観は己を何度も苦しめ、時がどれほど過ぎようとも癒える事がなく、何度となく己の心を折ったことか。


 しかし諦めなかった。諦められなかった。


 だからこそ今日があるのだ!!

 苦難の日々は今日このためにあったのだ!!


 己の天運を今日ほど感謝したことが無い。主人に一番近いのは自分だ。本来ならば自身が一番最初にご尊顔を拝するなど不敬であろう。しかし幸運にも主人の近くには己しかいない。


 ならば仲間にこのことを知らせよう。いや同胞たちももう気付いているはずだ。

 ならば歓喜の咆哮を上げよう。


 ―――さぁ!!殺し合おう!!我らが父達よ!!一つになろう!!元ある姿になる為に!!―――


 本能に従って歩き出す。体を引きずるように重々しく。


 ―――side??? end ―――

どうだったかな?


誤字報告してくれる人がいつか来てくれますように…。



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