悲哀
友達が自殺した。 そんな素振りは全くなかった。
毎日のように一緒に休み時間を潰したり、お昼ご飯を食べたりもした。
でも、死んだ。
輪の中にぽっかりと、穴が空いた。
休み時間も、空いた椅子を使う人は誰もいなかった。「呪われる」なんて言っている人もいた。
数日後、机と椅子が回収されていった。存在自体が消されたようで悲しくなった。
日付が経つにつれて、その話をする人は少なくなっていった。
話をしているのを耳にしても、「自分は加害者じゃない」と、動機不明の自殺の原因を否定しあっていた。
友達が自殺をした日、大粒の雨が降っていた。
友達と別れ、僕は1人で歩いていた。
小さい傘に、1枚の葉っぱが落ちてきた。
その緑の葉っぱを手に取り、少し寂しい気持ちになった。その気持ちを捨てるように、道へ落として家に帰った。
次の日の朝、行き道から葉っぱは無くなっていた。
友達が亡くなったことを聞いたのは学校に着いてからだった。その日も雨は降り続けた。
雨による薄暗さが、教室の空気を更に重くした。
チャイムが鳴った。時計の針は2つとも右側に向いている。
窓から外を眺めると、沢山の傘が色とりどりに咲いていた。楽しそうに話をしながら帰っている人もいた。友達の話をしているのかもしれない。だが何を話しているかは全く聞こえなかったし、聞こえていても、傘で彩られた光景は綺麗だった。
気持ち悪い、と思った。
1人で家に帰った。傘は刺さなかった。「濡れてもいい」と思えた。
帰り道にふと周りを見た。人影は見当たらなかった。
右側を見上げると、近所の家の庭に木が生えていた。そこには沢山の葉が付いていた。
それを見ていると、何だか僕まで葉っぱになったような気分になった。
「僕は絶対に、木から落ちないぞ。」と、思った。
そして僕はその家の前に、長い時間立ち尽くしていた。1本の木を眺め続けていた。
見上げ続けていると、大粒の雨に濡らされ、少し肌寒くなった。軽く震える僕の足元には、やっぱり葉っぱは落ちていなかった。