鋼鉄戦隊ナインペタンク [第3話 交差点大爆破]
吐息が冷え切った大気と触れて、口元で白く煙る。
毎朝散歩に来る早起き老人も出発準備の最中だろう。
フランス発祥の球技、「ペタンク」用のボール(ブールと呼ばれる、金属製だ)が入ったバッグを片手に、アタシは日課の朝練へ近所の公園へ向かう交差点を曲がった……
早朝の公園は人もまばら。
バッグから蛍光黄色のビュットを取り出して軽く投じたアタシは、狙いどおりに9m程度の距離に落ちたことを確認してから、7センチほどのブールを手にした。ミスは許されない。
『あのビュットへギリギリ寄せる!』
祈るような気持ちで投じた1球目。
金属球が朝陽を浴びて輝きながら美しい放物線を描く。
ドフッ!
良い位置へ落下、イメージ通り右へ曲がって少し進む。
ビュットからブール1つ分ほど手前だ、寄せきれない。
『全然ダメ~』
試合なら相手チームの投球になるけど、自主練。
腕の振りを確認して、そのまま2投目を投げる。
ドフッ!
これは、上手くいった。
気負い過ぎていたのか。
「っふふ。気負う、とか」
ペタンクなんて日本じゃマイナー競技、真剣にやってる人は極々僅かでボッチャとの違いを説明するたびに周りから変人扱いされてることも知ってる。
でも、アタシはペタンクの虜になった。
やるんだ。
3球目を手にすると一段と冷たい感触。
今のアタシに必要なのは、鋼の意思だ。
交差点に人影。
「朝練か? ……へッ、ご苦労なこった」
「元カノ付け回してんの?! ……最悪」
「こっちゃ~ボッチェの朝練なんだよ!」
「どっか別の公園でやって」
そう、コイツはボッチェにハマってる。
これもボッチャと違う、大元の球技だ。
コイツも周りからは変人扱いされてた。
ドフッ!
ドゴッ!
「我々は 鋼 鉄 戦 隊 ナインペターンクッ!!」
「そのペタンク、世界平和に役立ててみないか?」
「ん な な――っ!」
「なんなんですか?!」
交差点に2つの人影。
戦隊ヒーローだ。
戦隊ヒーローが朝の公園に?
珍妙な決めポーズ。
こ れ な に ?
「初耳戦隊、ナイン? ……2人だし」
「全国に9ブロックある連盟から選りすぐりの強豪選手で組織する、ひみつ戦隊。それが鋼鉄戦隊ナインペタンク」
「僕らと共に闘う3人目は、キミだ!」
「闘う、なにと?」
「なんの目的で?」
手渡されたのは、8センチ弱の銀色の金属球。
ペタンク用のブールに見える、メーカー不明。
「爆裂ブールで攻撃だ!」
「時限爆弾になっている」
「 危 な ッ !! 」
「 正 気 か !? 」
「「 そこのボッチェ好きを攻撃だ 」」
「標的まさかのオレなのかよ~ッ!!」
「アタシ一体どうして選ばれたの?!」
奇妙なフルフェイスが揃って胸元を見た。
「「 ナ イ ン ペ タ ン !! 」」
ヒュッ
カチ
カチ
カチ
ズッ ゴ ォ オ ―― ン !!
「あ? ……ペタンクに転向すりゃダブルスの試合できた?」
「それさぁ、爆弾投げる前に言ってよ」
「ヨシッ、公衆便所でスーツに着替えて、変身だ!」
「大活躍を期待してるぞ、ナインペタンイエロー!」
「うわぁ!こいつら生きてたぞ~?!」
「いいえ、この格好だけは遠慮します」
【 挿絵:©ひだまりのねこさま ありがとうございます! 】