異世界コタツ王子譚
イアン王国の王子、ディーツェはその日、領内の警邏中に奇妙なモンスターに遭遇した。大きさは6m程あるゾウで、その頭頂部には時計の様な文様が刻まれていた。
初めて見る魔物にディーツェは警戒するがゾウの額が輝くと同時に周囲の空間が歪み、一瞬にして意識が途絶えた。
ディーツェが気づくと深い山の中に居た。ゾウの姿は周りに見当たらない。周囲の木々を見るとこれまで彼が見たことのない種類のものであった。そしてやたらと寒い。彼は皮の鎧という軽装だった。
こんな所に居ても仕方がない。そう考え彼は山を下ることにした。
間もなく一軒の小さな小屋が見つかった。小屋のつくりも自分が知っているものと違う雰囲気であった。これはもしやあのゾウの特殊能力で異国の地へ飛ばされてしまったのかもしれない。
そう考えていると小屋から一人の老婆が出てきた。老婆の纏う衣類もイアン王国のものとは違うようだ。そして尚且つ、顔が平たい。老婆はディーツェに気づくと目を丸くして駆け寄ってきた。
「あれまぁ、どうしたんだい外人さん。こんな時期にそんな恰好でいて凍えちまうじゃあないかい。」
どういうわけか彼は老婆の言葉を理解することが出来た。もしかしたらイアン王国の属国なのだろうか。だが王国がこんな寒い地域を領土にしていたとは初耳だった。それに「ガイジン」というのがよくわからない。
「ほれ、とりあえず中に入りなさい。」
老婆は強引に彼の腕を取ると小屋へと招き入れた。
「今、温かいうどんでも作っちゃる。それまでコタツに入ってなさいな。」
そう言うと老婆は小さな部屋へ彼を案内しどこかへ消えていった。
本来ならば無礼者と切り捨てられても文句のない行動だがディーツェは年配者を敬うというという精神に重きを置いていた、何より老婆が親切心から自分に良くしてくれるのが雰囲気で理解できた。
「コー・ターツ?」
見れば部屋の中央には奇妙なものが置かれていた。こんもりと盛り上がった布の上に木の板が置かれている。
これは何であろうか?コー・ターツに入れとはどういう事だろうか?
彼はコー・ターツなるものの布をめくってみる。どうやらテーブルの様なものの間に分厚い布を挟んだ造りの様だ。そして中は温かな空気で満たされている。
ディーツェは考えた。老婆はこれに入れと言った。よくはわからないがもしかしたらこの地方では客は招かれたらコー・ターツに入るという儀式を行う必要があるのかもしれない。なるほど、暖かな空気で身を清めるという事なのだろう。
そしてさらに考える。ではどのように入るのか?答えはすぐに出た。身を清めるという事ならばそれは湯あみと同じに違いない。
得心したディーツェは纏っていた鎧などを脱ぎ裸になるとコー・ターツの布をめくり中に入り込んだ。中々に暑い。
次にどうすればいいのだろうか。ディーツェは4本の足、すなわち柱に注目した。彼は4つの柱に順に口づけすると最後に入ったのとは逆の方向から外へ出た。
「うむ、完璧である。」
言ったと同時に周囲の空間が歪み、ディーツェの意識は途絶えた。
次に気づいた時、彼は裸でイアン王国の領内、ゾウのモンスターと出会った場所に立っていた。
「あれは……何だったのだろうか?」
ただコー・ターツの暖かさは確かに残っていた。
その後、彼は全裸で城へと戻りこの出来事について父王に話をした。
聞くところによるとそういった風習のある属国は無かったそうだ。
それから100年。彼が伝えたコー・ターツは本来の目的とは違った形で民衆に広まっていったのだ。
「はいはい、お兄さん。コー・ターツが楽しめるお店だよ。今なら40分1万と3000。きれいな子がたくさんいてしかも安いよー。」
そう、コー・ターツは何故か大人の娯楽店の定番メニューになっていた……
コタツ、それは甘美なる響き。
でも我が家にはコタツが無い!!