4話
「はーい、じゃあ出席を取りまーす。」
朝、担任の教師が言う。
そこで、ふと思い出したが、出席を取るのは今日が初めてな気がする。
初日は俺たちに自己紹介をさせてたし、2日目は…どうしたっけ?
そもそも、担任の名前、聞いたっけ?
次々と疑問が浮かんでくる。
…いや、色々あったし、きっと俺が覚えていないだけだろう。
「じゃあ田中!」
担任の声に、教室内が静まり返る。
「佐藤!」
「…。」
「鈴木!」
「先生、居そうな名前呼ぶの止めて、名簿見てください。」
…前言撤回、絶対コイツのせいだわ。
「はっはっは。
みんな元気そうだな。
じゃあもう出欠確認はいいな。」
良くはねぇよ。
「では今日は、連絡事項があります。」
急に真面目な顔になる。
授業中と用事がある時だけは、ちゃんとした教師なんだなぁ…。
「皆さん新入生を歓迎する会が、近々開催されます。
なので、準備をしてください。
以上。」
「…いやもうちょっと説明しろよ!」
教室内から、抗議の声が上がる。
「先生、それはいつですか?」
「えー…あと15分後です。」
「…ん?」
「は?
今何て?」
「あと14分後です。」
「カウントしなくていいクソ教師!
何でもっと早く言わねぇんだよ!?」
「忘れていたからです。」
堂々と言いやがった。
「今日の職員会議で言われて思い出しました。」
駄目だコイツ。
「先生、準備って、何が必要なんですか?」
一人、前向きな奴が質問する。
「えー…体操服と…あと何だっけ?」
なるほど、道理で学校指定のジャージ姿で登校する奴が多かった訳だな。
そして、ウチのクラスは全員制服で、体操服など普段邪魔になるものは持ってきていない。
「…よし、帰ろうぜ!」
色々諦めたので、そう言って立ち上がる。
そうだな、やってらんねぇなと、教室内がざわつく。
「まぁ待て。
一応、帰るには理由が必要だ。」
「帰る事自体はいいんですね。」
「あぁ。
ぶっちゃけどうでもいいし、先生も帰りたいからです。
と言う訳で皆さん、あと10分で早退する理由を考えてください。」
「はい!」
一人が元気よく手を挙げる。
「はい伊藤!」
「伊藤ではないです。
体調が悪いので帰ります!」
「ふむ、10点!」
「なんの点数だよ。」
「安直過ぎる。
それに、朝一番でそんな事言ったら『じゃあ何で来たんだ』ってなるだろう?」
「何でそういうところはしっかりしてんだよ。」
「はい先生!」
次の奴が挙手する。
「はい上田。」
「上田じゃないです。
イジメに遭って辛いので帰ります!」
「なるほど…30点!」
「だから何の点だよ!」
「信じてもらえる可能性と、後々面倒になるかどうかを考慮した点数です。
ちなみにこの場合は、後々面倒なので減点です。」
「知らねぇよ!」
「あと5分!」
「クソっ!何か良い案は無いか!?」
今、クラスの全員が、一体となって、間違った方向に全力を出している。
「諦めて制服のまま出ればよくない?」
「馬っ鹿野郎!
そんなのコイツの思うツボだろうが!」
教室内が再びざわつく。
ふむ、仕方がない…。
「先生!」
今度は自分が挙手する。
「はい渡辺!」
「渡辺ではないですが…。
『お化けが出た』、何てのはどうですか?」
「0点だな。超能力が当たり前のここで、怪奇現象何か言ってどうする?」
「ははっ…これでも?」
そう言って腕輪を外す。
その瞬間、『何言ってんだ』と失笑していた教室が、凍りつくのが分かる。
「…ほう、中々面白いじゃないか。」
今まで無表情だった担任が、ニッと笑う。
「100点、とまでは言えないが…今回はそれでいこう。」
「…なぁ、1組の連中、遅くね?」
「帰ったらしいよ。」
「…は?なんで?」
「…さぁ?でも…。」
「…でも?」
「1組の担任も帰ったみたいだし、教頭先生がなんか頭抱えてたよ。」