2話
”腕輪”ーーー。
片手の手首に装着する、薄く細長い筒状の機器。
それ自体に力はなく、不思議な力ーーー超能力とでも言うべきモノを扱う人間が手にして初めて、意味を持つ。
腕輪は能力の扱いを補助し、また、能力を制限する。
人類にとって危険な超能力も、腕輪という枷の登場で、ようやくまともに研究出来るようになったのだとか。
ちなみに、学院で生徒に交付される腕輪はICチップを内蔵しており、学生証としての面も持つ。
その腕輪があれば、能力には有効距離、継続時間、運動量など、あらゆる面に上限が掛けられる。
これは、上手く制御できない人間が、暴発させたり、止められなくなったりする事も考慮しているらしい。
…ありがたい限りだ。
一週間ほど前、入学した日。
1年生は3クラスあり、俺は1組に振り分けられた。
一クラスは10数名程度で、このクラスは14人。
そして最初の授業として、先生の監督の元、一人ずつ能力を使用させられた。
自己紹介も兼ねて、だそうで。
まるで手足のように風を操る優秀な奴から、マッチ程度の火を起こす奴…本当に、ランダムに振り分けられたクラスのようだった。
そしてそのクラスの中で、俺を含めた3人が、能力を使えなかった。
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「…で、心当たりは、あるかな?」
改めて、個人面談の時間を作られ、担任と2人きりにさせられていた。
「…いいえ。全く。これっぽっちも。」
「…過去に体験した時は、どんな感じだったか…覚えてる?」
「いいえ。」
「…はぁ…そんな訳ないでしょ。自分が使かえる事を知ってなきゃ、この学校には来ないでしょ?」
そりゃそうだ。
「…で、どうなの?」
「…。」
「…だんまりか…じゃ、質問を変えよう。君の能力は、物理的な危険性があるかな?」
「…いえ、それはありません。」
今の所は。
「そう。今はそれだけ分かればいいや。それじゃ、今日の面談はここまで!」
「…『今日の』って、次があるんですか?」
「そりゃもちろん。君が話してくれるまで続けるよ。」
げぇ…。
「私も仕事だからね。」
…そりゃそうか。
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次の日。
「じゃあ今日から、能力の扱い方の授業を始めます。」
教室で、担任が講義を始める。
「まず能力は、人によって違います。
似たような能力の人も居るようですが…まぁそれは置いといて。
…はい教科書開いて。」
配られていた、教科書を開く。
「人によって違うのに、こんな物が役に立つのか、と思うかもしれませんが、逆です。
個人で能力が違えど、所詮は人間のやる事。
やり方さえ押さえれば、誰でも扱えるようになります。」
…本当かねぇ…。
「…と、いう教科書の売り文句ですが、正直なところ…能力について、まだ完全にメカニズムが分かっている訳ではないので…。」
早速不安になる事言いだしやがったぞ?
「…ま、とりあえずやってみましょう。
教科書10ページの図を見て下さい。」
再び教科書に目を落とす。
「…えー、このように、腕輪を通じて能力を使う事をイメージします。
そうする事によって、腕輪は単なるリミッターではなく、介助装置として機能します。」
ふーん…。
右手首に付けた、腕輪を見る。
「はいじゃあ皆さん、腕輪を見て下さい。
それから、腕輪に自分の…全身の気が流れて行くような想像をして下さい。」
…なんだそれ、と言いたくなるが…実際、感覚による部分が多過ぎて、そうとしか説明できないのかもな…。
「…はい、では今度は、その腕輪から自分の能力が吹き出るような想像をしてください。」
周りの席から、様々な音と、おぉという感嘆の声が聞こえる。
周りの人間は、成功しているみたいだ。
自分の腕輪に目をもどし、集中する。
…自分の能力、か。
それを考えた瞬間、自分の腕輪にそっと手が添えられる。
白く、か細い少女の手。
「…うっ…オェェッ!」
反射的に吐いていた。
「大丈夫ですかっ!?」
心配して飛んで来る担任と。
「ハハハッ!だっせー!」
この様子を笑うクラスメイト。
しかし、そんなものはどうでも良かった。
「…はぁ、はぁ、はぁ…。」
未だに激しい呼吸を、震える手で押さえつける。
「…保健室に行きましょう。立てますか?」
「っ!?」
目の前に伸びて来た手に驚き、後退る。
「…大丈夫ですか?」
再度心配される。
「…大丈夫です。」
もう大丈夫だ。
腕輪を付けて、能力を使おうとしない限り、大丈夫だ。
腕輪がある限り、あれは出て来ない。
そう自分に言い聞かせ、よろよろと立ち上がり、担任に連れられて行くのだった。