第九話 スケジュール通り
艦長篇スタート!
これは哨戒任務に入る前の出来事
なんだこれは?
副長から手渡された哨戒任務中の各船員の任務スケジュール表(電子ファイル)を見て思った感想だ。
もう一度、なんだこれは?
「副長」
「何ですか艦長?」
副長は三十前半の少尉で、幼年学校を卒業後、軍曹に任じられ宇宙軍に入隊し現在に至っている。
まぁこの年で少尉なのだから昇進スピードは普通かな。
退役する頃には少佐がせいぜいだろう。
性格は真面目で誠実だ。
軍に入って初めてまともな部下を持ったなと言う感じだ。
しかし、まともな部下と思っていたのにこの程度の仕事しか出来ないのかと落胆した。
だが、俺が艦長に就任したのだからこの少尉はツいている。
俺の下で仕事の楽しさを教えてやろう。
ふふふ、ふははは、はーはっはははー!
「な、何ですか艦長?」
いかん、つい笑ってしまった。
「副長、このスケジュールでは緩すぎる。艦の士気が保てないと思うのだが?」
俺がそう言うと副長はため息を漏らした。
む、こいつ俺を何も分かっていない素人艦長だと思ったな。
なら次に出てくる言葉はこうだろう。
「良いですか艦長。艦長は」
「艦長は陸軍から来たので分からないでしょうが、宇宙軍には宇宙軍のやり方があるのですよ。そう言いたいのだろう?」
「な!?」
ははは、ふざけるな。
「いや、言い方が悪かった副長。スケジュールは私が組み直す。君は私が組み直したスケジュールを皆に徹底させてくれ」
「いや、ですが」
「これは命令だ副長」
『誰が言い訳をしろと言った。さっさと命令通りに動けこのバカが!』
と罵ってやりたいところだが、我慢してやろう。
俺はこれでも我慢強い方なのだ。
「分かりました」
「スケジュールが出来たら呼び出す。それまで待機しているように」
「は、分かりました!では失礼致します」
はぁ、不満たらたらな態度を表に出すなよ。
だんだんと音を立てて退出するバカがいるか?
そんなだから三十過ぎで少尉なんだよ。
まぁ、少尉は真面目だからな。
すぐに俺のやり方に慣れるだろうさ。
しかし、それにしてもこんな緩いスケジュールで艦が維持出来るのか?
皇帝国の駆逐艦の定員は三十名で少ない。
なぜこの少人数で済むのかは、ロボットやアンドロイドが船内の各所に配置されているからだ。
艦橋スタッフも艦長を含めて五人で済む。
素晴らしいコストカットと言える。
だからだろうか。
艦内スタッフはスペシャリストの集まりであるにも関わらず、ロボットやアンドロイドに依存してしまい、ろくに働いていないのだ。
ロボットやアンドロイドは人間と違ってミスをする事がない。
彼らは命令されたら命令された事をするだけだからだ。
そこに性格や感情が入る事はない。
だが、有事ではロボットやアンドロイドでは対処出来ない場合もある。
ロボットやアンドロイド任せで艦を回すのはリスクがあるのだ。
便利だからこそ、そこに油断が生まれる。
その油断が有事では取り返しの付かない出来事を起こす可能性があるのだ。
それにロボットやアンドロイドは故障する事もあるからな。
全てを機械任せにする事は出来ない。
また、逆もしかりだ。
人間だからこそ出来る事、またロボットやアンドロイドだからこそ出来る事がある。
普段から、それら出来る事出来ない事を理解していれば、いざ有事が起きても冷静に対処出来るだろう。
だと言うのにこのスケジュールだからな。
先が思いやられるぞ。
少尉は私にため息を吐いていたが、ため息を吐きたいのは俺の方だ。
※※※※※※
艦長は何も分かっていない。
このスケジュールは宇宙軍では当たり前、常識、マニュアルなのだ。
それを陸軍から左遷されて来た仕官学校上がりの若造が偉そうに、何が『私がスケジュールを組み直す』だ。
そんな事出来るものか!
どうせ直ぐに泣き付いてくるに決まっている。
『済まなかった。君が正しかった。私が間違っていた。これからは艦の事は君に任せる。君の思う通りにやってくれ』
と言ってくるだろうな。
ふふ、その時はどう返せば良いかな?
少しだけ偉ぶって見せようか。
それとも謙虚に受け止めて見せようか。
少し楽しみに思えて来たな。
こいつを踏み台にして、行く行くは私が艦長に。
その時はこいつを副長にしてやろうか。
ははは、はははは。
と、思っていた自分が居たが、三十分もせずに呼び出された。
そして渡されたスケジュール表に目を通す。
なんだこれは?
「どうした副長?」
もう一度言おう。なんだこれは!!
「か、艦長?」
艦長から手渡された(電子ファイルを送ってます)スケジュール表を見て、思わず艦長とファイルを何度も見返してしまった。
「どうした?何か言いたい事が有るか?」
言いたい事も何も、なんだこれはーー!!
私は艦長のデスクを両手で叩いて、艦長に詰め寄った。
「な、な、何ですかこれはーー!」
「唾を飛ばすな。汚い」
「は、それはすみません。いやそうじゃなくてですね。何ですかこれは!こんなスケジュール表は見た事がありませんよ。なぜ機械がする同じ事を船員にやらせるのですか!こんな事をさせる理由はありませんよ!時間の無駄です!ナンセンスです!」
私が熱弁を振るっていると、艦長はポケットからハンカチを取り出して顔を拭いている。
聞いているのかこの人は!
「そう怒鳴るな。それに言いたい事はそれだけか。それじゃあこの通り進めてくれ。ああそうだ。私は出来るか、出来ないか等聞いていないからな。『ヤれ』と言っているんだ」
な、なんだと!?
「ぐ、軍でも上官の理不尽な命令には」
「ヤれ」
「は、はい」
こ、この人は本気だ。
もし私がこれ以上反対すれば、私は更迭されたかも知れない。
いや、更迭なら良い方かも、最悪は命令不服従で、しゃ、射殺されるかも……
この人は元陸軍で勲章持ちだ。
やる時は殺る人。
背中に冷や汗が、それに額からも汗が……
「す、直ぐに取り掛かります!」
「ではそうしてくれ」
「は、はいーー!」
私は死にたくない一心で艦内スタッフにスケジュール通りに行動するように徹底した。
もし仮に、このスケジュール通りに艦内スタッフが動いていないと艦長に知られたら、わ、私の命が……
皆から文句や陳情を受けたが、私は死にたくないのだ!
私には妻や子供も居る。
家のローンだって組んだばかりなんだ!
ここで部下に無理解な上司に殺されてたまるか!
や、やってやるぞ!チキショーめー!
艦長のバカヤローーーー!!
艦内に副長の雄叫びが木霊していた。
この叫びは艦内の誰もが聞いており、当然艦長のアスカも間を置く事もなく知る事となった。
もちろん、副長は艦長から呼び出されて、彼は土下座して艦長に謝った。
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