第7話 皇族様
戦略学科主席の皇族様。
名を『ミツル スメラギ』
なんて平凡な名前なんだ。
平凡な名前に反してこの皇族様の才能はピカ一であった。
勉学、スポーツ、訓練、どれを取っても一番。
真の天才と言う者を俺は初めて見た。
このミツル スメラギと言う皇族は皇帝国皇帝の3番目の皇子だ。
この皇帝国では子供は簡単に産まれる。
それは母体を使わずに機械に因って卵子と精子を合わせると、後は医療用ポッドを使ってある程度まで育てるからだ。
これなら男性は精子を提供するだけで済むし、女性も体調を気にせずに安全に子供を産めると言う事だ。
そしてそれは高貴なお貴族様もやっている。
だから、後継者を産む事について悩む必要が一切ない。
ただ子供が簡単に産まれるので、数多くの子供が産まれて相続とかで問題が起きている。
皇帝国で貴族の反乱が日常のように起きているのは、そのせいでもある。
そして、このように簡単に子供が産まれるシステムが作られた皇帝国皇帝の後継者は、どのようにして決めているのか?
それはもちろん正室の子から選ばれる。
だが、正室の子以外の子が皇帝に成ることもある。
それはごく稀に産まれてくる大変優秀な者が居た場合だ。
因みに皇帝国では遺伝子操作は御法度だ。
子供を産むのは簡単になったが、遺伝子を操作して優秀な子を人為的に造るのは法律で禁じられている。
これは破った者は例え皇族、いや皇帝であっても許されない。
実際に法を破った皇帝や皇族が処罰された事もある。
これは皇国の頃から、人は自然に産まれるが一番であると言われて来たからだ。
現在もそれは尊重されて、法律まで作られて遵守されている。
とても素晴らしい法律だ。
それに、何かしらの疾患や先天的病気を持っていたとしても、優秀なナノマシンが治してくれる。
何とも素晴らしい世界、いや銀河だな。
そして、ミツルは正室から産まれた子供だから、皇帝に成れるかもしれない皇子なのだ。
その皇族と知り合いに成れば、貴族への道が容易に成るのではないのかと思ったが、そうはならなかった。
ミツル スメラギは凡人には感心がない。
全てにおいて何でも出来てしまう人間は、他人に対して興味を失うものらしい。
表面上はいつもニコニコと笑顔を絶やさず、その場を華やかにする存在だが、時折見せる苦笑に彼の本性が見える。
『何故、こんな簡単な問題が分からない』
『何故、この訓練をこなせない』
『何故、この戦略、戦術を理解出来ない』
『何故、何故、何故、………』
自分が簡単に理解出来る事が、何故他人には出来ないのか分からないらしい。
仕官学校でミツル スメラギの友人だと名乗る者は居る。
だが、当の本人に本当の友人は誰もいないだろう。
そして、俺は彼の友人になれなかった。
俺は凡人だ。
どんなに勉学をしても、どんなに訓練をこなしても、どんなに戦略、戦術を研究しても、彼には届かなかった。
彼の興味を引く人間ではなかった。
悔しくはあったが、追い付けないのであればどうしようもない。
人間、諦めも肝心だ。
彼の興味を引けないなら自分の研鑽に努めるしかない。
まぁ、他人の感心を買う事等これまでした事がなかったから、本当はどうしたら良いのか分からなかったと言うのが本音だ。
まぁ、とりあえず卒業まで上位をキープするかな。
※※※※※※
ミツル スメラギはある人物をじっと見ていた。
名をアスカ タチバナ
ミツルが何処に居ても、目につく存在。
それがタチバナだった。
彼はミツルに比べると全てにおいて劣る存在ではあったが、他の有象無象に比べれば彼は遥かにましな存在だった。
『自分よりは劣るが、自分に近しい実力の持ち主』
それがミツルのアスカに対する評価だった。
ミツルにとってアスカは平民だからと言って、無視するには大きな存在であったのだ。
だからミツルは彼に興味を持った。
しかし、自分から話し掛ける事はしなかった。
自分に興味を持つ者は、彼らから先に自分に話し掛けてくるからだ。
それに帝王学を学んでいる彼は、それを基準に行動している。
その為、自分からアクションを起こす事は出来なかったのだ。
ミツルはアスカ タチバナに興味を持っている。
だが、自分からは話し掛けられない。
そんなもどかしさにミツルは何とか耐えていた。
そして、ミツルの取り巻き達は彼の視線の先に居る人物に嫉妬していた。
ミツルが自分達にはそんな視線を向けてくれた事はないからだ。
明らかにミツルがアスカに興味を持っているの事が取り巻き連中には分かっていた。
しかし、取り巻き達は貴族である。
そして、アスカは平民だ。
貴族が平民に声を掛けるのは命令する時くらいだ。
だから、ある貴族が覚悟を決めてアスカに声を掛けた。
「おい、そこの平民」
「何ですか?」
声を掛けられたアスカは無難な返事を返した。
ここは仕官学校、ここでは貴族も平民も同じように扱われる。
それは表向きの事ではある。
本当は貴族と平民が平等である訳がないのだ。
しかしアスカはそんな事は知らない。
(なんだコイツは?俺は伯爵家の三男だぞ。そんな口を聞き方をして、この先生きて行けると思っているのか?」
「何ですか?用がなければもう行きますけど?」
そんな三男の考え等知るよしもないアスカは、普段通りに振る舞う。
「お、お前、俺にそんな口の聞き方をして」
「用がないんですね。じゃあ、もう行きますよ」
三男の言葉を遮って、アスカはスタスタとその場を去っていった。
アスカの予想外の行動にしばし呆然とした三男であったが、自分がアスカから相手にされない存在だと気付くと頭に血が上った。
「き、貴様ー!」
逆上した三男は悔しさから大きな声を出してしまい、アスカを追い掛けようとしたが誰かに肩を捕まれた。
「何をする離せ!俺を誰……」
三男は肩を掴んだ相手を恫喝しようとして振り返り、その相手を見て絶句した。
「で、殿下。見て居られたのですか?あの、その、これは、ですね。その~」
三男の肩を掴んでいたのはミツルだった。
そして三男は肩を掴んでいたミツルの力の入れ具合で、彼の感情を理解してしまい顔色を悪くした。
ミツルは少し離れた場所で、事の成り行きを見守っていたのだ。
自分が話かれない相手に話し掛けた者が居る。
この人物を利用すれば、アスカと話をする機会が有るのではないかと考えたのだ。
しかし、ミツルの思惑通りには行かなかった。
アスカは三男に話し掛けられたが、まったく相手にする事なくそうそうに去って行ってしまったのだ。
そして残された三男が自分から話し掛けたのにも関わらず、アスカの無礼な態度に腹を立てて彼を追い掛けようしている。
このままだと貴族の権威を傷つけられたと思った三男が、アスカに報復するかも知れない状況だ。
だからミツルは三男を止める事にした。
アスカが三男の報復行為をどのように対処するのか気にはなったが、こんな些細な事でアスカが傷つくかも知れないとも思ったミツルは思わず三男の肩を掴んでしまった。
「彼はどうやら忙しいみたいだ。放っておきたまえ」
「いや、ですが……」
「放っておきたまえ」
ミツルの二度の警告に三男は何も言えなかった。
そんな三男の態度に満足したミツルは笑顔を浮かべると、三男に優しく声を掛ける。
「さぁ、向こうで皆が待っている。行こうか」
「は、はい!」
三男はミツルから優しい声を掛けられたので、自分は見放されないと内心安堵して、ミツルの指示に従った。
だが、ミツルの顔は笑っていたが目は笑っていなかった。
そしてその後しばらくすると三男は仕官学校から姿を消していた。
この一連の出来事は貴族間の中で瞬く間に広がると、貴族達は誰もアスカに話し掛ける事はなかった。
それはアスカが卒業するまで続いた。
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