第4話 たらい回し
『俺はなんてついているんだ!』と当初は思った。
初任地で、一年と待たずに反乱が勃発!
あれよ、あれよと言う間に戦地に直行し、部隊を指揮して反乱鎮圧。
これほど都合の良い展開はないだろうと、内心ほくそ笑みながら、この反乱の戦いを楽しんだのは内緒だ。
しかし、反乱した者達も準備不足だったのか、規模はそれほど大きくなかった。
反乱期間は半年と持たず、惑星ルスターの一大陸のみの反乱で、惑星全体に広がる反乱ならもっと時間が掛かって、功名を立てる機会がいくらでも有ったのにと、ちと残念に思った。
反乱者の拠点を幾つか落としただけで、それほど大きな手柄を立てた訳ではない。
それに任官して直ぐの事で有るから、昇進は見送られる事になった。
俺に軍から送られたのは幾つかの勲章と、任地変更の辞令だった。
さらば惑星ルスター、お前は良い惑星だったが、俺には狭すぎたようだ。
……なんてな。
まぁ、何だかんだで武勲は立てたのだ。
武勲持ちとそうでないのでは、これから軍の俺の扱い方が違ってくる。
余所に行っても、そうそう邪険に扱われる事もないだろう。
……そう思っていた時期も有りました。
次の赴任先はど田舎の辺境惑星で、その基地司令の命令で、俺は退屈な後方勤務の事務処理をさせられた。
いや、最前線でドンパチが殺りたかった訳ではなかったが、反乱鎮圧の功労者に対してあまりな仕打ちではなかろうか?
だが、俺は軍では下から数えた方が早い立場。
案外間違った扱いではないな。
と言う訳で、事務処理に専念する。
ところ変われば仕事内容も変わってくる。
しかし、事務処理と言う仕事は基本同じ事の繰り返しだ。
単純に何度も、何度も、何度も同じ内容の書類に同じ内容を書き込んでいく。
端から見たらバカみたいな作業だが、やっている本人達は真面目に仕事をしているのだ。
だから俺も真面目に処理した。
それから3ヶ月ほどすると、基地司令に呼び出されて、辞令を渡された。
すわ、昇進の辞令かと思ったが、転任の辞令であった。
まぁ、言われた仕事はきっちりこなしてきたし、何なら他の人の仕事を受け持ってもいた。
それから一月もせずに仕事に慣れると、今度は自分がやる仕事が無くなっていた。
しょうがないので上司に上申して『何か仕事を下さい』と周りくどい説明書きをして送ったら、大量の書類仕事を送られた。
それから仕事が無くなる度に上申していたのだが、最近は『仕事はほどほどにして休め』と言われていた。
だが、生前とは違って今世の体はやたら丈夫に出来ている。
何せ勝手に体調を整えてくれるナノマシンが体に埋め込まれているからだ。
このナノマシンは、幼年学校を出て正式に軍人と成ってから体に埋め込まれた物だ。
そしてこのナノマシンが、人類から病魔を取り除いた原因でもあり、人類の寿命を飛躍的に伸ばしたのである。
さらに言えば戦闘における身体的強化を行ってくれる優れもの。
先の反乱鎮圧でも役に立ってくれたのだが、身体的強化はいささか制御が難しく、色々と問題も有ったりした。
それは捨て置き。
そうして仕事をこなしてきた結果が、これであったのだ。
基地司令からは『ここでの君の仕事ぶりを評価しての事だ。次の任地で頑張るように』と言われた。
仕事にも慣れて、この職場も案外悪くないと思っていたのだが、辞令が出たのではしょうがない。
俺は命令に従い、辞令先の惑星に向かった。
今度の任地はまたまた辺境惑星であった。
そして同じく後方勤務を言い渡される。
これは左遷の左遷ではなかろうか?
疑念に思っても顔には出さない。
不満に思っても仕事では手を抜かない。
やる気が無くても頭や体は勝手に動いてくれる。
これが俺が選んだ仕事なのだから!
そして、先の惑星と同じように仕事をしていた。
さらに3ヶ月が過ぎると、また基地司令に呼び出された。
今度は何処の部署かと楽しみにしていたら、また転任の辞令を渡された。
俺が何をしたと言うのだ!
俺は真面目に軍務に制令していたのに、この仕打ちはあんまりではないか!
と言ってやりたかったが、我慢して辞令を受け取った。
基地司令からは『次の赴任先でも頑張るように』と激励の言葉を頂いた。
なんか先の基地司令と同じような事を言われたなと思ったが、まぁ気にするだけ無駄か。
そう思って次の赴任先に向かった。
それから一年後、俺はようやく中尉に昇進した。
因みにこの一年で4度赴任先が変わっていた。
そして、今の赴任先はと言うと……
「中隊長殿!撤退しましょう!我らは敵に囲まれています!」
「このままでは全滅するだけです!今すぐ撤退すべきです!」
俺に付けられた少尉と曹長が大きな声を出して進言していた。
現在の俺は、皇国に反乱を起こした貴族が立て籠る惑星に降り立ち、最前線にて中隊(百人規模)を率いて敵中で孤立しております。
いやはや皇国反乱起きすぎでしょ!?
それにしても、いや、おかしいな~
さっきまで味方と一緒に前線を押し上げていたんだけどな~
気付けば敵のど真ん中で孤立とか笑えない状況だよな?
「ははは」
「何を笑ってるんですかー!」
いや、そんなに怒るなよ曹長。おっと、ビームがかすったな。
でも大丈夫、俺が着ているのは対ビーム兵装用の装備だ。
簡単に説明すると、ビームを真正面から受けたら跳ね返せないけど、それ以外ならビームを反らす事が出来る代物だ。
まぁ、真正面から受けても大丈夫と言えば大丈夫なんだけど長時間は耐えられない仕様に成っているけどな。
「よし、とりあえず前進しよう!」
「人の話聞いてました!撤退しましょうと言ったんですよ!」
いや、聞いてましたよ。でもね。周りを見てみなさいよ。
「敵中に孤立と言っても、左右の敵は多くても、前線の敵は少ない。これを突破するのは難しくはない。さぁ、行くぞ!」
「ちょっと待って下さいよ!その先に敵が待ち構えていたらどうするんですかー!」
う~ん、そうね~
「その時はその時で」
「あんた頭イカれてるぞ!我が隊は付いていけない。おい、撤退するぞ!」
そう言って少尉は自分の小隊を率いて下がって行った。
何で孤立した隊で、さらに孤立して動くかな。
「ちゅ、中隊長殿。ほ、本当に前進するのですか?」
そう言えばこの曹長、ルスターの時に一緒だったな。
あの時はずいぶんと酷い事を言われた気がするけど、少尉に付いていかないでここに残ってるのは意外だな?
「少尉が敵の目を惹き付けてくれた。今のうちに突破するぞ!」
「しょ、少尉を囮にしたのですか!」
囮とは酷いな。勝手にそうなっただけだよ。
「少尉の犠牲を無駄にしない為にも行くぞ!」
「ここに止まるよりは、この人に付いていけば…… でも、……」
何をぶつぶつ言ってるんだよ。置いて行くぞ!
「あ、待って下さいよ!中隊長殿!皆、中隊長殿に続けー!」
そうそう最初から素直に従えば良いんだよ。
でも、間違ってたらごめんな。
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