【第十三話 決戦(後半)】
【第十三話 決戦(後半)】
TAKE 43649
正直に言うと、辛い。
何でこんな事をしているんだって思う時もある。
こんな縛りに挑戦しなければって何度も後悔した。
それでも、俺は諦めずに挑戦する。
ここまで来て、諦めるなんて事は出来ない。
挑戦を始めてから1ヶ月経過した。
土日に挑戦し、その様子を録画したのを平日に編集、投稿する。
そんな生活を1ヶ月続けた。
試行回数は5桁、それももうすぐ折り返しとなる。
もう、どんなチャンスであっても焦る事は無い。
それだけの回数心が折れ、立ちあがって来たのだ。
1回戦の相手はスライム。
何の感情も浮かばない。
ただ、モンスターとステータスを確認するだけだ。
相手のステータスは高いが、この程度は問題無い。
差は大きくても、挑んだ回数が回数なだけあって対処は完璧だ。
淡々と指示を出し、勝つだけだ。
いつも通り、スライムの正面に立たせる。
この時、相手のステータスの高さによって距離を変える。
高ければ遠くに、低ければ近くに……だ。
当然、相手は攻撃を仕掛けてくる。
けど、この距離は見てから回避が余裕だ。
何度同じ指示を出したか分からないくらい同じ事をしている。
余裕を持って回避し、攻撃後の隙を狙って攻撃させる。
ほんの一瞬だけ、麻痺が発生し動きが止まる。
文字通り一瞬だけであり、1秒にも満たない。
その一瞬が重要であり、逃げる時間稼ぎになる。
被弾したらほぼ終わりである以上、一瞬であっても利用しない手は無い。
しかし、まだ安心出来ない。
スライムのDEFを超えていない以上、スキルでダメージは無効となる。
こちらの攻撃は一切通じないのだ。
先程同様、距離を取って攻撃を誘う。
毒による削りが発生するまでこの戦法を使い続ける。
それ以外に勝ち筋が無い以上、当然の行為だ。
4回目の挑戦で毒が発生した。
相手のHPが片手で足りる量だけ減った。
後はきちんと距離を取り、指示ミスさえしなければ勝ちである。
何度目かなど数える気すらしない呆気ない勝利だ。
2回戦の相手はスライム。
多分、連続でスライムを引けるのは運が良い。
そう言って最後にウルフを引いて負けた回数は多い。
何も安心出来る要素は無く、ただ戦うだけだ。
3回戦は……ウルフだ。
降参……いや、待て。
何だこのクソ個体。
合計ステータスが100ちょっととか雑魚過ぎだろ。
これは……挑むべきだ。
このクソ個体にビビってるようじゃいつまで経っても終わらない。
ここで勝負に出れないようじゃ一生雑魚のままだ。
ウルフ用の策は……クソ、出てこない。
ずっと避けてた弊害か。
とりあえず様子見で回避に専念させるか。
ふむ……分かってはいたが、シフと比べると圧倒的に弱い。
ランクが違うし普通個体とクソ個体を見比べるのは明らかに間違っている。
それでも、憐みの心を持ってしまうほど弱いと感じる。
夢に現れるくらいシフの動きは見た。
それと比べるとあくびが出るほど遅い。
だが、ランペと比べた場合は相手の方が速い。
安心出来る要素はあるが、油断していい理由にはならない。
制限時間ぎりぎりである、9分経過したタイミングで仕掛ける。
精神的疲労がヤバいが、相手のスタミナを少しでも削っておかなければ反撃で負ける。
勝率が1%でも上がるならこの程度の疲労は受け入れる。
その程度の疲労で集中が途切れる程俺の精神は軟じゃない。
それくらい、挑んできたんだ。
絶対の自信はある。
予定通り、攻撃を避けきることが出来た。
種族的に強いとは言え、ソロで指示がゴミでステータスもゴミであるなら、付け入る隙はいくらでもある。
それを活かせる能力がこっちに無いのが心配だが、今は大丈夫。
相手はスタミナ切れで動きが鈍っている。
NPCに偽装なんて高度なプレイングが出来ない以上、スタミナ切れは確実だ。
あとは、攻撃を当てるだけだ。
残り時間も分から秒で表示に変わっている。
ここで焦れば即失敗となる。
定石通り、相手を釣ってから攻撃を仕掛ける。
頼む、麻痺を引いてくれ。
麻痺さえ引けば一瞬の隙が生まれ、逃げる時間が稼げる。
こっちもスタミナ切れで動きが悪くなっている以上、麻痺を引けないとかなり危険だ。
…………混乱?
あ、いや、助かった。
麻痺じゃなかったとは言え、NPCの指示通りに反撃しなかった。
命令無視で別方向を向くと言う形になったのは有難い。
九死に一生を得たと言えば良いのか?
よく分からないが、これで勝ちが決まった。
そして、決勝だ。
何度目か分からない決勝戦だ。
俺は勝てると思っている。
今、流れが来ていると思っている。
スライムが2回連続で来た。
クソ個体のウルフに勝った。
これで勝てなきゃどうすればいいんだって話だ。
相手は……コボルト。
ステータスは……合計300前後、平均値だな。
偏りは……AGIが高い、かなり厳しい。
それでも、勝てる気がする。
相手は純粋な完全上位互換だが、勝てると思う。
何故と聞かれても答えられないが、勝った気分でいる。
相手の策は読めている。
高ステータスを利用したヒット&アウェイだ。
一撃離脱型とも呼ばれ、攻撃後すぐに距離を取るタイプだ。
この攻撃の一番の強みは、攻撃後の隙が少ない事である。
走り抜けるように攻撃してくるため、回避後に攻撃をと思っても相手は距離を取っている。
一撃の重さがかなり低くなるが、回避優先の攻撃はどこまでも厄介だ。
けど、この攻撃には致命的な弱点がある。
相手は攻撃にも回避にもスタミナを大きく消費すると言う事。
それともう一つ、スピードを出す関係で直線的な動きをする事。
どこまでも読みやすく、上位者になれば使わない戦法だ。
こちらの策は簡単であり、ただ回避に専念するだけ。
上手く相手の回復に合わせて攻撃を仕掛ければ、スタミナ有利を取れる。
そうなれば、こちらの攻撃が当たる。
当たりさえすれば勝ちと言っても良い。
相手の攻撃を避けるのはかなり厳しい。
攻撃のタイミングを予測し、指示出しをする。
それから回避行動に移る関係上、どうしてもラグが発生する。
いつもこのラグさえ無ければと考えるが、システム上どうしても発生してしまう。
これは仕方が無い事なのだが、どうしても欲が出てしまう。
相手が肩で息をし始めた。
しかし、こちらも肩で息をしている。
残り時間は3分とまだ結構残っている以上、迂闊に動けない。
ピンチであり、チャンスでもある。
心が逸る。
勝利へと焦ってしまう。
落ち着け……落ち着くんだ俺。
ここで勝負を焦れば負ける。
相手はこちらの3倍も高いステータスを持っている。
同じ肩で息をしているとは言え、あちらの方が有利だ。
こちらが勝っているのは武器の質と指示出し内容だけなのだ。
まだ、勝負を仕掛ける時間では無い。
残り1分を切った。
このままでは引き分けになる。
だが、まだ仕掛けるべきタイミングではない。
相手のNPCも時間を気にしている。
指示が雑になり、焦っているのが丸分かりだ。
昔のゲームだと残り時間に関わらず同じ動きをしていたが、最近のゲームは違う。
ちゃんと人間らしく動いて焦ってくれるから助かる。
残り30秒。
完全な特攻に移行された。
被弾覚悟の攻撃だ。
はっきり言おう。
これを待っていた。
この攻撃を待っていた。
そのスタミナで、その疲労で、その状態で、俺と俺の最高の相棒であるランペに通じると思っているのか?
所詮はNPCだと言わざるを得ない。
1度目の特攻、これを回避する。
まだ、様子見をする。
残り10秒。
2度目の特攻が来る。
今までで一番遅い攻撃だ。
大きく回避させる。
ここしかない。
被弾覚悟でこちらも特攻だ。
当たればなんでもいい。
雑で稚拙でどうしようもない体当り気味の攻撃だ。
だが、当たった。
こちらの攻撃が当たった。
そして、相手の攻撃は時間切れで存在しない。
反撃は時間切れで行えない。
俺は、勝った。
次回、Eランク大会縛りプレイ編最終回です。
明日の更新で一度完結にし、再度書き溜めを行って2章開始の予定です。
一応ですが、2章では主人公が変わります。
別視点とかではなく、完全な別プレイヤーの物語となります。
そちらではモンスターとの触れ合い重視で、戦闘や育成は二の次になるかと……。
期間が空きますが、是非2章もお願いします。
最後に、乱数はクソ。
中編作るか悩むレベルで勝てなかったです。
神個体引いたので少なかった運が全て消え去った感じですね。
しばらくは運関係で期待しないようにします。




