【第十話 準備】
【第十話 準備】
誰だよ『呪い』属性の短剣使うとか言った奴。
アレめちゃくちゃ値段高いじゃん。
Eランクの大会荒らす程度じゃ足りないんだけど。
何で武器1本で約100周しなきゃいけないの？
こっちはそれ6本必要だから約600周だよ？
維持費と言う名の食費が必要だからもっと多いよ？
馬鹿じゃないの？
まぁ、そこも動画にしてるんだけどね。
動画撮影や編集はした事ないけど、記録として残したい。
俺の苦労を見て、こいつ馬鹿だろって言われたい。
因みに、フレンドにはこの縛りを伝えた。
リアフレは狂ってると言い、まともなフレンドは頭がおかしいと言った。
そして、Fランク廃人達は応援しつつ、同じ縛りで挑戦すると言ってきた。
苦行が終わった後に苦行を行うとか絶対に馬鹿だ。
俺もこっちが終わったら何れ挑戦するから俺も馬鹿だ。
頭空っぽにして馬鹿みたいに遊ぶと楽しいが、この馬鹿は別だろう。
そんな感じの苦行を続けて1週間が経過した。
社会人だから当然のように会社に行って仕事をしている。
その為、全然準備は終わっていない。
会社の人達に苦行をしていることを黙っているので有給も取り辛い。
流石に寝る時間を削ってプレイ出来る程若くないので、かなりのんびりペースだ。
高々2日寝ないのですら厳しいとか……俺も年を取ったな。
あの頃は2徹3徹なんて当たり前だったのに……。
ゲーム自体の進行度は変わっていない。
先の大会で稼いだ方が効率が良いのは分かっているが、進みたくない。
何かしらの理由があると思われるかもしれないが、そんな物は無い。
ただ、何となく先に進みたくないだけだ。
全体の、他プレイヤーの進行度は結構進んでいる。
最高ランクのS+ランクをクリアした人も結構多く、既にプレイヤー戦も行われているらしい。
あっちもあっちで大変だと思うが、高ければ何でもいいS+とこっちは苦労が違う。
1でも数値が超えたら最初からやり直しと一定以上数値が上昇しなければやり直しはどちらが大変なのだろうね。
どちらにせよ、厳選は時間が掛かるから両方に参加する人はほぼいない。
一部の廃人はどうやって時間を捻出しているのか知らないが両方参加している。
お前いつ寝てるの？状態である。
さて、そろそろ現実を見るか。
武器代はそこまで難しくない。
何故なら、金額が決まっているから周回数が計算出来る。
終わりが見えると言うのは精神衛生上とてもありがたい事である。
が、モンスターは全然違う。
運が良ければ1体目で終わるし運が悪ければ一生終わらない。
妥協個体で勝てるとは思えないので、お金はいっぱい稼ぐ必要がある。
理想個体が産まれる確率を計算したくない。
きっと心が折れてしまう。
俺は廃人モドキであり、生粋のゲーマーでは無い。
メンタルは普通の人並みだ。
多分心が折れてしまう。
そんな柔らかくて脆い心を守る為に新しい挑戦をしている。
シフによる蹂躙からワンコ達を使った蹂躙に変更した。
これによって本番と似た環境で大会を味わえる。
他にも、相手のモンスターの種類、ステータスの値とその平均、NPCの指示内容なども集計した。
約600周分のデータだ、見えてくる物は多いだろう。
毎日50周分のデータを掲示板に挙げ続けた。
他の人の意見が欲しかったからだ。
でも、意見以上に頭がおかしいと称賛された。
やっぱり廃人や検証勢はネジが外れてると褒められた。
俺は生活を捨ててないので廃人では無いはずだ。
ネットの世界に生きてる人は簡単に廃人認定し過ぎだと思う。
話がずれた。
俺が挙げたデータを基に、本物の廃人達が色々と発見してくれた。
これはとても助かり、俺の縛りプレイに役に立つ事が確定している。
頭が蕩けた状態で集計していたので気付かなかったが、色々な法則があるらしい。
まず、1回戦で出てくるモンスターはFランク組で固定らしい。
それに加え、ステータスもFランクに近く、200超えの個体は珍しい。
2回戦以降は完全なランダムであり、運次第となる。
ステータスも結構バラつきがあるが、統計的には300付近に集まっている。
この情報は本当に大きかった。
300付近の敵の動きを覚えれば相手の行動が全て想定内になる。
そうるれば指示が安定し、勝率も上がる。
誤差レベルかもしれないが、それでも上がるのは大きい。
塵も積もれば山となる。
更に、モンスターとステータス、NPCの指示には法則がある事が発見された。
これは別の大会で検証していた人達からの報告であり、β版時代から調べていたらしい。
やはり本物の検証ガチ勢は俺とはレベルが違う。
俺はまだまだ廃人でも検証勢でも無いな。
例えば、ウルフ系でAGIが一定以上ある場合、ヒット＆アウェイ戦法を好む。
例えば、ホース系でATKが一定以上ある場合、突進よりもその場暴れを好む。
例えば、スライム系でDEFが一定以上ある場合、カウンター戦法を好む。
この情報はとても大きい。
相手のステータスを見て、大体の作戦が分かるのは大きい。
あまりに大き過ぎて会社でむせたくらいだ。
周りの視線が少し痛かったが、嬉しさでどうでもよく感じた。
多分こんな苦行をしているのはばれてない。
このまま周回を続ける。
少しでも多くデータを取れば廃人達が精査してくれる。
仕事の日でも変わらず、毎日50周し、報告を挙げる。
そして、気付いたら目標のお金が溜まっていた。
これで『呪い』属性の武器が6本買える。
食費が地味に足りなくなって焦ったのはキモが冷えたけどね。
目標金額が溜まったからって浮かれ過ぎたのが原因だ。
いや、より正確に言えばモンスター厳選から目を逸らしたかった。
ここからが本当の地獄なのだ。
終わりなんて存在しない。
どこまでも遠く、果てしない理想を追い求める。
希望なんて存在しない。
物欲センサーが壊れてからが本番だ。
さぁ、始めようか。
モンスターの、コボルトの厳選をする為の資金集めを。
いや、その……うん。
今お金無いからね……また周回なんだ。
もうすぐサービス開始から1カ月が経過するけど、まだEランクで周回だ。
おそらく、俺よりも進行が遅いプレイヤーは居ない。
もしかしたら居るかもしれないが、ログイン時間を考えれば俺が一番下だ。
何も嬉しくないな……。
テンションが下がるだけだ……。
さぁ、今日もシコシコ一人寂しくEランク大会を荒らすか。
理想個体……早く出てくれると嬉しいな。
ポケモンの色違い理想個体を求めるって言えば苦行が伝わる？
でも最近のポケモンは厳選楽だからな……どうなんだろう？
