第0相
浄瑠璃及び歌舞伎で一番好きな作品『妹背山婦女庭訓四段目(杉酒屋、道行恋の苧環、御殿)』を元にした初の長篇モノ。
元ネタが分からなくても一応楽しめます。
コンスタントに連載できるかどうかは別として……。
住み馴れた町を見下ろす展望台で夕日を眺めていると、いつも後ろから声がかかる。私は純白のドレスを着ている。ウエディングドレスだ。
「さア、決闘を始めヨウ」
私は左肘を取り外して、中に納まっていた木刀を引き抜く。
木刀の体積分の血潮が溢れでて、履いている白いタイツをぐしょぐしょに汚す。
「あいかわらずひどいなあ……」
「準備はいいカ?よくばハッ……」
全身アスベストで出来たそいつが言い終わらぬうちに、私は木刀でそいつの心臓があるであろう場所を貫く。小さく呻き声だけを上げ、そいつはその場で硬直する。同時に太陽が沈みきり、月の彼方から従者が私を迎えにくる。
目覚めるとそいつの残像が足元に立っていて、数秒後に私は犯される。
処女膜を貫かれる幻覚に呻いたその日のうちに、必ず生理がくる。
いつも私は斬る役を演じていた。けれどそのままやられたらどうなるのか、目覚めては時おり思案してみるものの、いざ眠るとそんな意思は見事に霞んでしまう。
この現象を最初に経験してから、一月前が、たぶんちょうど二十回目だった。
なぜこんな夢を見続けるのか?
理由なんてわからない。
もしやこれは私に課せられた試練なのかもしれない。