ジョギングおじさん
過去、中学生の頃から高校卒業まで、通学時間になると、必ず出くわす、おじさんがいた。
おじさんは、トレーニングウエアに身を包み、いつも元気に走っていた。
時々、声をかけられた。
「おい!シケた顔してないで、お前も毎朝走れ!」
「若いんだから、もっとハツラツと歩け!」
「ジョギングは健康の基本だ!」
とにかく元気で、ニッコリ笑って走っていく。
悪気はない人だと思ったけれど、そんな声かけが毎日になると、確かにウザかった。
「勝手に走ってください」
「大きなお世話です」
言いたかったけれど、言うのも可哀そうなので、黙っているか、最後には顔をそむけた。
大学に進学してからは。通学時間帯も違うので、ジョギングおじさんを見かけることはなくなったけれど、ジョギングおじさんは、まだ元気に走っていると思っていた。
それでも、なぜか気になって、今までの通学時間に道を歩いてみた。
しかし、何日も同じ時間に歩いても、おじさんと逢うことはない。
母に聞いてみたら、すぐにおしえてくれた。
「ああ、あの人ね、ジョギング途中で心臓発作」
「そのまま、あの世にいったんだって」
「まあ、二日酔いでも風邪ひきでも、健康のためにって走ったらしい」
「健康さえあれば、命なんか、いらないって・・・まるで漫才だねえ」
これで、母も案外シニカルである。
「まあ、他人はどうでも、本人が好きなことしている時に、天国に召されたんだから」そこまでは、母に応じた。
ウザいのも嫌だけど、寂しさも感じた。
他人のことなのに。




