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八話 魔力ゼロ

「魔力がない、だと……」


 エルキンが驚愕の表情を浮かべて呟く。

 しかし、すぐにその表情を怒りへと変えた。


「サルバ! ふざけるな! いくらお前でもその侮辱は――」

「――おい。なぜ平民風情が私に無礼な口を利く? はっ、お前に足りないのは魔力だけではないとでも言うのか」


 エルキンの言葉をサルバが遮った。その表情に浮かべているのは怒りと――嘲笑だった。


「……魔力がないなどという侮辱をすることは許されることではない。いくら貴方が伯爵家であっても、この学院に通っている以上はこの学園のルールに従い、身分の違いを理由に人を貶めてはならない」

「くっ。しかし、このサルバは確かに耳にしたのです! このエイドス魔法学院に相応しくない言葉を。――魔力がない、という信じられない言葉を」


 サルバはエメリナに言葉を返すが、何故か顔色が一気に悪くなっていた。言葉遣いまでも不自然に変わっており、カズヤに疑問を抱かせた。


「そもそも魔力がないなんてこと、有り得るの?」


 サルバの様子をまるで気にすることなく、モニカが疑問を口にする。


「信じられないようですが、本当のようです。モニカ嬢も殿下もこ奴らのような下賤な者達に付き合うことなどありません。貴方達は――」

「サルバ。私はただのエメリナ。おかしな言動はしないで」

「……分かりました。ですが、言わせていただきたいことがあります」


 サルバはエメリナに返すとエルキンとカズヤの方を向いた。


「お前たち。どうやら魔法防衛者マジック・ガードナーの道を諦め、剣士の道を歩もうとしているらしいな」

「……それがどうした」


 カズヤの返した言葉にサルバは面白くなさそうに顔をゆがませた。


「感謝するがいい。私はお前たちに忠告をしてやろうと思っているのだ」

「忠告……?」


 あまりにもありえない言葉がサルバの口から出てきて驚いたのだろう。エルキンが思わず、といったように言葉を漏らした。


「そうだ。貴族たる私がお前たちに助言を与えるのだ。感謝するがいいさ」

「……勿体ぶらずに早く言えよ」


 厭味ったらしい物言いにエルキンが零す。


「本当に下賤な者は礼儀も知らないらしい。だが、まあいい。私も自身の言葉を一度口にした以上、覆すことはしないさ」


 そこまで言うとサルバは周囲を見渡した。

 さっきまで集まっていた生徒はマルセルクラスとは異なる生徒達だったのだろう。あれだけいた生徒達は先ほどクリスティーナがいなくなってから一人も通っていない。


 マルセルクラスの教室にはちらほらと人がいるようだったが、まるでこちらを気にしていないところを見ると、どうやらこちらの声までは届いていなかったらしい。

 そこまで見た後、サルバはカズヤ達の方を向いた。


「お前達はもしかすると魔法剣闘会フェスティバルに参加しようと考えているのかもしれない。だが、今回の魔法剣闘会フェスティバルには参加することはやめた方がいい。ましてや魔法使いとして魔法防衛者マジック・ガードナーになるのではなく、剣士として魔法防衛者マジック・ガードナーになるというのであれば、なおさらだ」


 意味が分からないといった様子のカズヤ達にサルバは言葉を続けた。


「これは決して嫌味でお前達に言っているんじゃない。今回の魔法剣闘会フェスティバルはいつもの魔法剣闘会フェスティバルではないんだ。何せ、参加するのはエイドス魔法学院だけではないのだからな」

「参加するのがエイドス魔法学院だけじゃない……? ……それってもしかして、優勝賞品が本当にあれなのか!」


 エルキンが信じられないといった様子で口にした言葉にサルバが頷いた。


「そうだ。だからこそ、参加する者達は皆死に物狂いで優勝を目指すだろうな。エイドス魔法学院の者達は当然のことながら、他の魔法使いをほとんど持たない学院などは一層のこと力を入れてくるだろう」


 サルバはそこで言葉を切り、カズヤを見る。


魔法剣闘会フェスティバルでは自身の魔力を用いて障壁アンチ・エレメントを張るということは知っているな?」

「……ああ」


『本当に知っておるのか?』

(……正直言えば知らないさ。でも、そう言えないだろ……)

『ふむ。そんなものなのかの』


 アイリスはカズヤの言葉にひとまずの納得をしたらしい。


「……あれは知らないわね」

「うん。きっとそう」


 モニカとエメリナがカズヤの後ろで小さく呟くのが聞こえた。


『しっかりばれておるの』

(うるさいって)


 アイリスまでカズヤをからかう。カズヤは自身の眉が少しだけ動くのを感じた。サルバはそんなカズヤや周りの様子に気づかなかったようで、話を続けた。


「通常であれば、魔法剣闘会フェスティバルに参加する者が自身に張る障壁アンチ・エレメントを魔法が破ることは滅多にあることではない。もちろんのこと、魔力を消費しすぎてしまい、障壁アンチ・エレメントが薄くなればその限りではないが」


 サルバの言葉にカズヤがエルキンの方を向くと、彼が頷くのが見えた。


障壁アンチ・エレメントってそんなに強力なのか……?)

『そうさの。それは障壁アンチ・エレメントが強力というより、障壁アンチ・エレメントと魔法の相性によるものが原因だな』

(相性?)


『そうだ。魔法というものは魔力に指向性を与え、現象と成している。しかし、障壁アンチ・エレメントはあえて魔力に指向性を与えず、その場に留めておるのだ』

(……うん? それがどうして相性の関係になるんだ?)


 アイリスが言っている言葉通りであれば、特に相性の関係が出てくるとは思えず、カズヤは疑問をアイリスにぶつけた。


『いいか、ぬしよ。ここで問題となるのは障壁アンチ・エレメントが指向性を持たない魔力であるということなのだ』

(指向性を持たないことが……?)


『そうだ。障壁アンチ・エレメントの魔力は指向性を持たない。故に例え、魔法が障壁アンチ・エレメントに当たったとしても、指向性の持たない魔力の影響を受け、魔法の威力は大幅に減衰するのだ。ある程度の魔力さえ用意出来れば、相手の魔法を打ち消すことすらできるだろうて』


(なるほど……。……あれ? でも、そうなると障壁アンチ・エレメントって魔法には強力みたいだけど、剣とかのような物理的な攻撃には――)


魔法剣闘会フェスティバルの話はどうなったんだよ。別に魔法剣闘会フェスティバルの参加者のレベルが下がったとかどうとか、そんな話はつまらねえから聞きたくないんだよ」

「……全く、口の減らない者だな」


 気づけば、エルキンがサルバに文句を言っていた。

 どうやら、サルバの話は途中から脱線し、愚痴染みた話に変わっていたらしい。


「まあ、いいさ。続けさせてもらうぞ。……魔法剣闘会フェスティバルが今まで死者を出すことなく続けることが出来たのは先ほど言った障壁アンチ・エレメントが理由だ。しかし、障壁アンチ・エレメントは物理的な攻撃には意味を成さない。それは知っているな?」


「ああ、知っているよ。だからこそ、俺達は魔法を早く放つために詠唱の速さを上げる必要があるんだろ。そんなのは学院に入る時に散々説明されたって」

「その割には随分と気持ちよさそうに寝ていたけどね」

「う、うるさいな! 退屈だったから、仕方がねえんだよ!」


 モニカに暴露されたエルキンが顔を少しだけ赤くして叫ぶ。

 そんなエルキンを見たエメリナがため息をついた。


「魔法を早く放つために詠唱の速さを上げるだけでは足りないと先生は言っていた。同時に早くその場から動き、距離を取ることが肝要なのだ、と」


 エメリナがエルキンの言葉に補足する。


(なるほど。距離を開けて早く魔法を唱えるってことか。確かにそれが出来れば魔法を放つ時間を取りやすくなるな)


 カズヤは二人の言葉に納得した。


「殿下、補足いただきありがとうございます。しかし、その対策が必要なのはそもそも障壁アンチ・エレメントが物理に対して弱いことが原因です」

「うん? 何を言っているんだ? そんなの当り前だろうが」


 サルバの言葉にエルキンが返す。

 モニカやエメリナもまた頷いており、同じ意見のようだった。


「ああ、普通ならそう考えるよな。だが、我がマルセルクラスではクリスティーナ様の魔法防衛者マジック・ガードナーとなる者に物理に対する対抗魔法――物理障壁アンチ・フィジカルを教えていただくことになっているのだ。そして、私がクリスティーナ様の魔法防衛者マジック・ガードナーとなることが決定している以上、私にその栄誉は与えられる」


 サルバは笑みを浮かべてカズヤ達を見る。


「もはや魔法だけでなく、物理に対する対抗魔法を持つことになる私に敵う者などほとんどいない。故に魔法剣闘会フェスティバルは私に任せるがいい。まあ、まともに障壁アンチ・エレメントすら使えない者達が魔法剣闘会フェスティバルに参加するなど無謀にもほどがあるがな」


 そこでサルバは言葉を切り、カズヤだけを見た。


「――いや、そもそも魔力を持たない者が魔法剣闘会フェスティバルに参加できるはずがない、か」


 そこまで言うと、これで忠告は終わったとばかりにサルバは去っていった。


「全く。本当に嫌味な奴だぜ。何が助言をしてやろう、だ」


 エルキンが悪態をつく。

 しかし、どうにもカズヤには不安をぬぐえなかった。


(俺に魔力がないのは事実、だよな。障壁がないってことはやっぱり魔法は俺に効くってことなのか……? そういえば、アイリスの電撃の魔法だって簡単に食らっていたっけ)


『うむ? ぬしよ。何を言っているのだ? ぬしに魔法が効くわけがないではないか』

 カズヤの抱いた不安をアイリスは何でもないかのようにかき消すのだった。


やっぱり12月はなかなか書けない……。

とはいえ、ブックマーク登録してくださる方がいらっしゃいますので、少しずつ投稿していこうと思います。

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