七話 魔力至上主義
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「サルバが言っていた魔法防衛者ってのは魔法剣闘会での役割なんだ。主力となる魔法行使者を補佐し、自身もまた可能であれば相手に攻撃を加える。それが魔法防衛者だ。……もしかして、魔法剣闘会についても説明って必要か?」
「……ああ」
ここまで来たら全部聞いてしまおう。そんな考えでカズヤはエルキンに先を促した。
「ったく、仕方ねえな。魔法剣闘会についてだが、簡単に言えば魔法を使った決闘といった感じだ。一応、剣を使うこともあるみたいだが、エイドス魔法学院に限って言えば、剣を使ったなんて話は全く聞かないな」
「どうしてだ? 剣だって十分強いだろうに」
「何を言ってるのよ。剣が魔法に敵うわけがないじゃない」
「同意する。剣を使っていたら、魔法行使者に近づくことさえできずにやられてしまう」
カズヤの疑問にモニカとエメリナがすぐに反応した。
あまりにも断言するものだから、カズヤは一つ疑問を抱いた。
(魔法ってすぐに発動できるものなのか?)
『ふむ? そうさの。よほどの熟練者でない限り、魔法を発動させるまでにはそれなりの時間が必要だな』
(それなら剣を持っている相手が懐に入ってきたら、熟練者じゃない限りやられてしまうんじゃないか?)
『違いない。加えて剣という物は素人が扱ったとしても、そこそこの殺傷力を得ることが可能だ。何せ当たれば間違いなく、相手の肉を切り裂くが故にな。悠長に時間をかけて詠唱していれば、剣士にとって絶好の獲物にしか見えんだろうよ』
アイリスは今よりも熟練した魔法使い――魔法行使者が多くいた時代を知っている。そのアイリスが熟練した魔法行使者でなければ剣を持った相手には敵わないと断言しているのだ。
(いくらなんでも魔法を特別視しすぎなんじゃないか)
カズヤがそこまで考えた時、ラシェルが言っていた言葉が頭によぎった。
――魔力至上主義。
初めて聞いた時はいまいちよく分らなかったその言葉が意味していたこと。それはエルキン達のような思考のことなのではないか。
(確かにここまで魔法にこだわっていたら、それが原因で命を落としてもおかしくはない、か)
カズヤは今になってようやくラシェルが危惧していたことを理解できた気がした。
「魔法行使者と魔法防衛者がお互いに詠唱している時に剣士が来たらどうするんだ?」
「……え?」
カズヤが問いかけた言葉にエルキンはまるで意味が分からないといった様子だ。
「そもそも相手に剣士なんていないんじゃない?」
「確かにエイドス魔法学院に出場する選手には剣士なんて存在しない。だからこそ、剣士がいた場合の想定なんていらないと思う」
モニカとエメリナが考えを口にするが、カズヤは首を振った。
「今までがそうだったかもしれないけどさ。でも、これから先に剣士がいないなんて断言するのはおかしいんじゃないか。例えば俺たちが魔法剣闘会に剣士として出場したりすれば、その剣士がいないなんて前提条件は崩れるだろうし」
カズヤの言葉に三人は黙ってしまった。
まるで考えたことがない。そんな言葉が伺えそうな表情をしている。
しかし、そんな表情をしていたのはほんの二、三秒ぐらいだった。
「……そうか、そうだよな! 魔法がうまく使えないのに魔法使いとして魔法防衛者になる必要なんてないよな! どうして、今まで考えつかなかったんだ!」
エルキンが嬉しそうに言う。
「確かに言われてみれば……。どうして、私達は魔法使いとして魔法防衛者をするしかないと思い込んでいたのだろう。冷静に考えれば、すぐに気づくはずなのに……」
エメリナはエルキンとは対照的に暗い表情をしていた。カズヤの言葉によって自身の考えが狭まってしまっていたことに気づかされたためかもしれない。
「でも、私達が今更剣士の真似事をしても上手くいかないんじゃない?」
「う……」
モニカの言葉にエルキンの笑顔が固まった。
そんなエルキンを見つつも、モニカが言葉を続ける。
「そもそも私達が剣士になれたとしても、魔法行使者はどうするのよ。魔法防衛者と違って魔法行使者は魔法使いがなるしかないのよ?」
「魔法防衛者は魔法行使者を補佐する役目であって、魔法使いである必要性はない。しかし、魔法行使者は必ず魔法使いでなければならない。これは魔法剣闘会がもともと魔法と人の技術を神に捧げる儀式であったことから決まっていること。さすがにこの制約は守らないわけにはいかない」
「そうだったな……」
モニカとエメリナの指摘によって完全にエルキンの顔から笑顔が消えた。むしろ、膝をついて俯くほどにまでなってしまった。
「さっきから魔法防衛者になることしか話していないみたいだけど、魔法行使者って三人の中からなることは出来ないのか?」
カズヤの言葉にモニカが首を振った。
「ダメなのよ。私達じゃ、魔法防衛者にしかなることが出来ないの。魔法行使者にはなれないのよ」
「それは一体――」
「おや? まだ、落ちこぼれクラスの連中がここにいるとは」
カズヤの疑問を遮るかのように声が後ろから聞こえてきた。
見れば、先ほどクリスティーナについていったはずのサルバだった。
「ははは。お前はとうとう己が魔法使いであることの矜持さえ捨てたようだな。愚かにも剣士へと成り下がろうと考えるとは……」
「……何が言いたい」
カズヤの言葉をおかしそうに笑い始めるサルバ。
あまりにも不自然な様子にエルキンも訝しそうにサルバの方へ視線を向けた。
「まあ、それも仕方がないよなあ! 何せ、お前は我がエイドス魔法学院に始まって以来の男だ。何せ――魔力が全くないのだから!」
瞬間。サルバの言葉を聞いたエルキン達が息を飲む音がカズヤに聞こえたのだった。