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六話 マルセルクラス

「やっと来たか」

「お前が早すぎるんだって」


 カズヤたちがエルキンに追いつくと、虹の魔女がいると思われる教室の廊下には人だかりができていた。


「なあ、これってもしかして全員虹の魔女を見たがっているのか……?」

「あったりまえだろ! 何せ虹の魔女だぞ!」


 カズヤがエルキンに聞くと当然とばかりに返答が来た。

 廊下は幅が三、四メートルもある。カズヤのかけている記憶の中にある学校の廊下と比べてもかなり大きい。それにもかかわらず、廊下は人があまりにも多く集まっているせいで簡単に通ることは難しそうだった。


「やはり虹の魔女による影響は大きい」


 エメリナが呟くように言う。


(虹の魔女って有名人とか芸能人とかみたいな存在なのか)


『ユウメイジン……? ゲイノウジン……? どちらもよく分らぬが、相当に人気があるのは確かなようだのう。……少なからず、信仰までなされているではないか。なぜ、妾にその信仰を向けぬのだ……』


 アイリスが嘆く。


(信仰されている……? それって虹の魔女は神みたいな存在になるとでもいうのか?)

『はっ。そんなことはなるまいよ。いくら信仰されておっても所詮は人の身だ。肉体に神気を宿らせることなど出来ようはずがない。故に妾と同じ位階になるなどありえんのだ』


 心なしかアイリスの声は自慢げだ。


(そんなもんか。でも、随分とすごそうなのは確かだな)


 アイリスが言うには虹の魔女は間違いなく人だ。

 しかし、信仰までなされるほどであるという。一体、どれだけのことを成せばそんなことになるのか。カズヤにはまるで想像が出来なかった。


「お。扉が開い――」

「なんだ、この下賤な者たちは。ここはマルセルクラスだぞ! お前らのような汚らわしい者が私たちに近づくなどふざけているのか! 落ちこぼれどもは早くこの場から去れ!」


 エルキンが目ざとく扉が開かれることに気が付くが、出てきた男が言葉を遮った。

 その男が醸し出す高圧的な態度に周りにいた生徒たちが退き、海が割れるかのように中央に空間が出来た。

 人がいなくなったために見ることが出来たその男は周りをまるで汚らわしい物を見るかのように軽蔑に満ちた目をしていた。

 無駄に煌びやかな服に埃でもついたというかのように手で払う仕草までしている。


「さあ、クリスティーナ様。汚らわしい下賤な民に道を開かせました。どうぞ、こちらへ」


 そして、先ほどの態度が嘘のように、恭しい態度で後ろにいた人物へ進むよう促した。


「……いい加減にやめて」

「ははは。何をおっしゃるのですか。私はクリスティーナ様の魔法防衛者マジック・ガードナーになる者です。言うなれば貴方の騎士のような者なのです。貴方を無碍にすることなどありえないではありませんか」

「……っ! だから、最初に言ったでしょう! 貴方を選ぶことなんてありえないと!」

「ご冗談を」


 白髪の少女――クリスティーナがその顔を怒りに染めるが、男はまるで意に介していなかった。

 クリスティーナはその様子を見ると足早にその場を去っていく。


「お、お待ちください!」


 そんなクリスティーナの後ろに男は付き添う様にして走っていった。


「……あいつ、カサス伯爵家の奴だ」


 二人がいなくなり、廊下から人が減ってからしばらく経った時、カズヤの隣でエルキンが呟いた。


「エルキンは知ってるのか?」

「ああ。……正直、知りたくもなかったんだけどな」


 カズヤの言葉に答えるエルキンはいつもの快活な様子が嘘のように、その表情に苦渋の色を浮かべていた。

 近くを見てみれば、モニカもまた嫌そうな表情をしている。


「あの男はカサス伯爵家の嫡男であるサルバ。とても好色で魔力至上主義であり、貴族であることを鼻にかけている嫌な奴とでも考えておけばいい」

「……随分な評価なんだな」

「正当な評価にすぎない」


 エメリナの言葉はまるで容赦がなかった。

 しかし、その言葉に頷くモニカやエルキンの様子を見る限り、サルバは本当にひどい男らしい。


『ふむ。しかし、先ほどの男は随分と強力な魔力を持っているようだぞ。あのクリスティーナとかいう少女と比べれば小さいが、今主のそばにいる者らの何倍もの魔力を持っていたようだ』

(そんなに多いのか?)


 正直に言えば、カズヤには魔力の多さというものはいまいち分からない。

 しかし、魔法学院に通うエルキン達と比較して何倍もの魔力を持っているということは随分と大きな魔力を持っていることになるのではないかとカズヤは考えた。


『正直、妾が顕現していた時にもあれほどの魔力を持つ者は少なかったな』

(アイリスが顕現していた時……? 昔は今みたいに封印されてなかったのか……?)


『今でも封印されているわけではない! ……まあ、昔のことだ。その時は優秀な魔法行使者マジック・ユーザーが今よりも遥かに多かったのだ。今では神を信仰する者が減ったが故に力ある魔法行使者マジック・ユーザーはほとんどいないと思ったのだが、まさかあの時代に匹敵するほどの者がおったとはのう』


 アイリスが懐かしむように言う。


「しかし、あいつが虹の魔女の魔法防衛者マジック・ガードナーか……」


 エルキンが諦念を交えたかのような呟きを漏らす。


「……? さっきもサルバってやつが言ってたけど、なんだそれ?」

「カズヤ……。お前、そんなことも知らないのかよ」

「あんたって本当にどこの田舎から来たのかって感じよね」

「同意する。正直、カズヤは物を知らなさすぎる」

「お前ら、容赦ないな……」


 あまりの言葉にカズヤの口元がひきつった。


「まあ、いいさ。説明しよう。……俺たちにはさほど関係がないけどな」

(関係がない……? どういうことだ?)


 いまいちよく分らなかったが、カズヤは相槌を打つため、頷いた。


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