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零話 プロローグ

ネット小説大賞に応募するために書こうと思ったのですが、あまり進捗が進まなかったので自分を追い込む意味も兼ねて投稿します。

見ていただけると幸いです。


「あはは……。もう駄目ね、私達……」


 目の前の存在を前にした少女――クリスティーナは諦めるような口ぶりで言った。

 暗いはずの迷宮の中。何かが息をするかのような音と共に唯一の光源であったはずの光球ライトとは別の光がカズヤの目に入ってくる。

 クリスティーナの言葉を聞いたカズヤは視線を前に向け、クリスティーナが絶望を口にする存在を再び視界に入れた。


(無理もないよな、これじゃ……)


 そこにいたのは、時折、炎を口から覗かせる生物。それは紅の鱗と蜥蜴のように見える頭部を持っていた。

 加えて、鋭く尖った爪に顎から時折見える牙がその存在を最強種足る存在であると主張している。


――カズヤとクリスティーナの目の前にはドラゴンが存在していた。


 カズヤはその魔獣の名前が本当にドラゴンであるかどうかが分からなかった。

 そもそもドラゴンはこの場所に存在しているはずがない魔獣だ。そのため、近場の学生から情報を得られなかったということも魔獣がドラゴンであると断言できない理由の一つではある。

 しかし、何より大きな理由がもう一つあった。


 それは――カズヤがこの世界の人間でないためだ。

 異世界。

 突然、今までいた場所とは異なる地へ飛ばされてしまい、既に一週間が経過している。

 当初はここが異世界ではなく、秘境のような場所だと思っていたカズヤだったが、今ではここは異世界であると確信していた。

 それは何故か。


――ドラゴンなどという現実ではありえない存在を目にしたためか?

――クリスティーナが用いる魔法を見たためか?


 どちらも今いる場所が地球とは異なると断言するには十分な不思議な光景に違いない。

 しかし、カズヤが今いる場所を異世界と強く感じる理由はそれらとは異なる理由だった。


「仕方がないわね……。貴方は早く逃げなさい。あのドラゴンは私が何とかするから」


 クリスティーナは視線を魔獣――ドラゴンから離すことなく、言った。


「何言っているんだよ。俺が逃げた後、お前はどうするっていうんだ」


 カズヤはあまりにも無謀に感じるクリスティーナの言葉に驚きつつも返す。


「馬鹿ね。私は虹の魔女よ。貴方がいなければあんな魔獣、どうにでも出来るわよ」


(……嘘だ。声を震わせながら何を言っているんだよ、こいつ……)


 虹の魔女。

 火・土・金・水・木の主属性を高レベルで操ることが出来るクリスティーナの称号だ。

 カズヤ達がいる国のアンラプスにあるエイドス魔法学園。そこは魔法を使える者は必ず通うと言われている学園だ。そこの生徒すら扱える主属性は多くて二つほど。クリスティーナの優秀さは群を抜いていた。

 しかし――


(こいつに有効な魔法があるとは思えない……)


 カズヤは目の前のドラゴンへ攻撃を繰り返していたクリスティーナを見ているのだ。

 そして、それらは全てドラゴンの対魔力とでも言うべき力によってかき消されていた。

 今更、他に有効な魔法があるというクリスティーナの言葉は信じられなかった。


「何をしているのよ。早く逃げなさい」


 勝つことは出来ない、そう分かっているだろうに未だにカズヤのことを逃がそうと言葉を繰り返すクリスティーナ。

 その言葉を受け、カズヤは自嘲気味にため息を漏らした。


(こいつ――クリスティーナは魔力がゼロだと揶揄されていた俺を馬鹿にすることなく、力を貸してくれようとしている。しかも自分が負けると分かってなお、自分を犠牲にしてでも俺を助けてくれようとしてくれている、か……)


 カズヤはクリスティーナを見る。

 視線は相変わらず、ドラゴンに向けられている。手はすぐにでも魔法を放てるように開かれており、既に何か魔法を放つ準備さえしているのか、白色の髪が薄らと光を帯びていた。まるで逃げる気はないらしい。


(力を使うしかない、か……。また道が遠ざかっちまうけど、勘弁してくれ)


ぬしが気にすることではない。使うべきところで使わなければそれは愚かにすぎるからな。……本当にぬしが気にすることではないぞ』


 カズヤが心の中で一言謝ると心の中から言葉が返された。

 その幼い少女のような声の持ち主――アイリスがカズヤにここは異世界であると確信させた存在だ。

 あれだけ魔力――いや、神気を回復させようとしているのに、力を使っても構わないと言う。しかし、早く神気を回復させたいのか二度言葉を繰り返している。本当に素直じゃないよな、と少しだけカズヤは苦笑した。


(大丈夫だ。ほとんど神気は消費しないさ)


『ほ、本当か! ……嘘を言うでないぞ?』


(ああ、言わないよ)


 訝しんでいるアイリスへ簡単に言葉を返し、未だにドラゴンから目を離そうとしないクリスティーナへ声をかけた。


「逃げる必要なんてないさ。それより――」

「何を馬鹿なこと言っているの? いいから早く逃げなさいって――」


 クリスティーナの言葉を遮り、カズヤは言葉を続ける。


「俺に魔法を放ってくれ」

「は、はあ?」


 まるで意味が分からない。そんな言葉が表情から読み取れるほどの驚愕をクリスティーナは顔に浮かべていた。


「いいから早く!」

「わ、分かったわよ」


 驚きながらもクリスティーナの手に光が集まっていく。

 しかし、その時――今まで静観していたドラゴンの口が大きく開かれた。


(まずい――)


 カズヤの焦燥をあざ笑うかのようにドラゴンの口から猛火とでも呼ぶべき強烈な炎が吐きつけられる。

 カズヤの身が炎に飲み込まれるほんの数瞬前、ようやく完成したクリスティーナの魔法がカズヤに放たれた。

 それを見たカズヤは小さく笑みを浮かべる。


(よしっ! 間に合った!)


 クリスティーナの魔法に向けてカズヤが手を向け――ドラゴンの炎に飲み込まれた。


「な、なんで……」


 カズヤの姿を見たクリスティーナが驚愕のために思わずといった調子で声を漏らす。

 その驚愕はカズヤが炎に飲み込まれ死んでしまったから――ではなかった。


「なんで貴方は――無傷なのよ……?」


 炎に飲み込まれてその身を焼きつかされたと思われたカズヤは今、クリスティーナが見た現実とは裏腹に何の変りもなかった。そもそもカズヤと至近距離にいたはずのクリスティーナに炎の熱ささえ届いていなかったのだ。異常極まりない事象だった。


「ふう……。一か八かだったけど、賭けには勝ったな。魔法ありがとうな」


 嬉しそうに言うカズヤ。


『くくく。よく言いよる』


 アイリスがカズヤの中で面白げに言う。

 意味が分からないといった様子のクリスティーナを気にすることなく、カズヤは視線をドラゴンに向けた。


「おい、そこのトカゲ。よくも俺にこの力を使わせやがったな……。楽に死ねるとは思うなよ」


 先ほどまで浮かべていた喜びの表情を消し、怒りへと変えたカズヤはドラゴンに向かって拳を放った。


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