決着
大幅に書き換えました。よかったら見てください。
「何だ?」
彼はおもむろにズボンのポケットから小さな瓶を取り出した。
中は緑色の液体で満たされている。彼は蓋を取り左腕にかけ始めると徐々に切り落とされたはずの左腕が形成されていく。
「気味が悪いな」
「……………」
「無視か」
そうこうしているうちに彼の左腕は完璧に元どおりになった。
「じゃあ、始めようか」
瞬間鬼のような形相で彼は俺に切りかかった。
「またか」
二刀流が得意か。お前はどうやらアホじゃないみたいだ。
「バカだ」
迫って来る彼の攻撃を避けつつ彼の身体を少しずつ少しずつ斬っていく。
「くっ!!」
苦悶の表情を浮かべる彼を見ているとなんだか楽しくなってきた。しかしこちら側としてもあえて攻撃を食らってやるほど余裕はない。
「一旦終了だ」
彼の攻撃をいなし彼の腹部を切った。
もう少し深く切るべきなのかもしれないが、こいつを止めるなら十分だろう。
目の前は赤い液体の水たまりができ、傷だらけの彼が一人仰向けで倒れている。
「一輝、今はとりあえず終わりにしよう」
『どうしてだ!!?』
「ここで殺したら、誰があいつらを強くするんだ」
『お前が俺たちを強くしてくれ!!』
「俺はそう簡単にお前と交代できるわけじゃないんだ。それに、俺がやるとしたらお前は一向に強くならない。一時的に肉体が俺のものになるのだから成長もなにもないんだ」
『じゃあ俺がやる!!』
「お前が強いのは今だけだ。今のお前ごときではとてもじゃないがこいつらを育成なんてできっこない」
『……………お前は、俺に全てを奪える力をくれたんだよな?だったらどうして奪うななんて言うんだよ!!』
「確かにお前には全てを奪える力を与えた。だが、どちらにしろ使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。それに、俺は奪うななんて一言も言ってない」
『どう言うことだ!!?』
「今は終わりにしようと言ったんだ。つまり、ある程度強くなって、必要じゃなくなったら殺せばいい」
『…………………でも』
「一輝、今は我慢の時だ。奪われたくないなら先に奪えばいい。だが、今のお前では自分の命すら守れていない。そんな奴がどうやって奪うのだ。守りすらできないなら、攻めるのは不可能なんだ」
『分かった』
「じゃあ、一つあることを教えてやる」
『あること?』
「ああ。もう少しだけ俺に体を貸せ。このおっさんがどうしてこんなことをしたか教えてやる」
『頼む』
「あんた、こいつらの神獣呼び起こそうとしていたのではないか?」
「………………」
彼は何か答えようとしているが、ただただ口を動かそうとしているだけだった。
「しまったな」
息はしてるが返事はできないぐらいか。
話しながら治癒をゆっくりしよう。今こいつに死なれるのは困る。
「神獣!!?なんだそれ!!?」
反応がいいな。
えっと、亮……だったか?
「俺が説明する。異世界に転生する者には必ず力が与えられる。お前らも貰ったはずだ」
「ああ」
「そして、力を貰う時、各々の身体の中に光が入っていっただろ」
「入っていきました」
「実はな、力ってものは、その力っていうもの単体であるわけじゃない」
「どういうことですか?」
「端的に言うと、お前らが使える力は、お前ら自身のものじゃなくて、お前らに宿された神獣のもので、お前らはそれを借りているにすぎないんだ」
「借りている?」
「そう。転生をしているうちに、力というもののニーズが変わったんだ。最初は、雨を降らせることが出来るとか、予言ができるという類のものだったが、最近死ぬ人間が増えてきて転生課に次々と来るようになった。そしてそいつらの要求は段々と違うものになった」
「待ってくれ!転生は何百年に一度じゃないのか!!?」
「そうだ、何百年に一度だ。だが世界は広い。それこそ、十個や二十個という次元ではない。一つの世界に何百年に一度だけという間隔で転生させる、つまり何百年に一度だけとは口だけで、転生は転生先の世界を変えてほぼ毎日行われてる」
「マジかよ」
「マジだ。転生課は一番下っ端の神が最初にやる仕事だ。転生が上手くいけば上に行けるというシステムで転生者の要求にしっかりと答えるという項目がある。そしてどんなな要求でも応えようとする。結果、チートで別世界でいろんなことがしたいという奴らが現れ、世界のあちこちでチート持ちの人間がやりたい放題をし始めた。そして転生者の暴走の抑止案として神が考えたのが、この神獣システム」
「神獣システム?」
「そうだ、チートじゃない能力。例えばなんでも作れる、自由に天気を変えられる。そういったチートと戦う時に不利だと考えられる力の持ち主に与えられるのが、神獣システム」
「戦う?」
「そうだ。最近は、転生者同士が諍いを起こすことが多くなったんでな」
「その争いで、チート持ちじゃないやつも巻き込まれるってことですか?」
「ほとんどがチート持ちとチート無しでの戦いだ」
「え!!」
「悲しいことにチート無しの者のほとんどは現住民の生活を壊さずに自分も住みやすい世界にしようとうまく力を使うが、チート持ちは自分が住みやすくしたいがために、その国の状況なんて一切関係が無い。それによって意見が衝突。話し合いの場にはチート持ちは来ない。そして話し合えない。結果止むを得ず、戦闘に発展」
「結果は見えてますよね」
「チートの圧勝だ。一人でなんでもできてしまうからな。酷い時は転生させた日にその転生させた魂が戻ってきたなんてこともあった」
「チート持ちは平気で人を殺せる奴らしかいないんですか?」
「全員が全員というわけじゃ無い。チートはあるが、殺したく無いからと言って戦争を起こさずに問題を解決する努力をする者もいるくらいだ。しかし、ほとんどは平気なんだよ。どういうわけかは知らないが」
「その、神獣システムって何ですか?」
「神獣システムはチート持ちを好き勝手させないためのもの。チート以外の能力を事前に神が作った神獣と一体化させそれを転生者に入れる。すると、こいつのように胸に赤い円が出来上がる」
まだ治らないか。
少し回復の速度を上げよう。
「ただこのシステム、作ったばかりな故発動条件が厳しすぎる」
「どういった条件なんですか?」
「一つは、ある程度は力を使っておくこと。だがこの時点でまず難しいんだ。神獣とリンクさせたせいで力に制限がかかっている結果使える範囲はかなり狭まる。そしてもう一つ、何かしらの強い感情をおこす」
「強い感情?」
「そう、例えば一輝、こいつはお前らが殺されると思った。そして、お前らを守るという強い感情で本来出て来ることのない俺が出て来る羽目になったがな」
本当はこいつを殺したいという気持ちの方が強かったんだが、ここは綺麗事でまとめておいた方がいいだろう。
「力を少ししか使っていなかったため、俺がこいつを乗っ取ったが、力をしっかり使っておけば、こんな事にはならない。ただ、乗っ取られないだけで、使いこなすにはまた時間が必要だがな」
「で、どうして俺たちの腕を切ったことが神獣を使えるように必要だったんですか?」
「言ったはずだ、強い感情が必要だと。こいつのアイディアは非常にいい。人間、あるいは生物が恐れること。なんだ?」
「………………」
「答えは死だ。死は最も恐れられる存在。死にそうになった時、殆どの人間は死にたくないという感情で頭も心もいっぱいになる。強い感情だとは思わないか?だからこいつはお前らに自分とお前らの圧倒的な力の差、そして亮がなった龍をお前らの目の前で肉塊にしたことで次は自分じゃないかという死に対する恐怖を呼び起こそうとした。だが、一輝みたいな奴がいたせいでこうなっているがな」
「お前ら、確認してみよう」
「………うん」
「うい」
彼らは互いに背を向け自身の服の襟から胸元を見る。
「どうだった?」
「俺は出来てる」
「私も」
「あっしも」
「全員できていたか」
彼はそう言ってゆっくりと上半身だけ起こした。
「……………」
まだ、十分じゃないが大丈夫だろう。
「どうだ?気分は」
「最高に悪いな」
「そうか。喜べ、全員使えるようになったぞ」
「だが、結果殺されかけた。ガキだと舐めていたやつに」
「殺そうとしたのは俺だ。お前は一輝に負けたわけじゃないが、気を付けろよ。こいつの抱えてるものは中々に黒くそして深い。特に仲間というものに対してな」
「気をつける」
「では俺はここで去る。また会おう、陽介」
一輝、交代だ。
『ありがとう』
「気にするな。だが、俺に気を許すなよ。俺は今日外の楽しさを知った。味わいたくなったら、定期的に出ようとするだろう。さらに、今のお前の左腕と左脚、更には両目は俺の物だ。俺の機嫌を損ねるとどうなるかよく考えろよ」
『ああ』
「それとお前の身体には常に負荷がかかってることを忘れるなよ。食われたらお前自身が無くなるぞ」
『がんばるよ』
ゆっくりと感覚が戻って来た。
見える、聞こえる、動かせる。
「一輝、だったか…済まなかった。お前たちのためとはいえ強引過ぎた」
目の前で頭を地面につけた彼を見て、不思議と先程まであった憎しみとか、殺意とかが和らいでいく感覚がする。
「頭を上げてください」
彼はゆっくりと頭を上げた。
「一つ聞きたいんです」
「なんだ?」
「この方法以外なかったんですか?」
「この方法しか俺は知らないんだ。俺自身はこの方法で神獣を呼び起こしたからな」
「一輝!」
いつの間にかあいつが亮達にかけていた結界のようなものはなくなっていた。
「大丈夫かお前ら?」
「お前は大丈夫なのか!!?」
「心配したよ!!」
「お疲れ」
「ああ」
「吉備さん。貴方に、いや、この世界に何が起きて、どうして貴方が神獣を呼び起こせたのかを、俺らに教えてください」
「ああ、全て話そう。お前達には知っててもらいたい。この世界の現状を」
ありがとうございました。