戦闘
三話目です。
「取り敢えず入れたな」
「君たちはここで止まれ」
いつの間にか後ろにいた先程の彼に言われて足を止める。
「まあ少し待て」
彼が目を閉じると持っていた剣が朽ちていき、身体を埋め尽くしてた模様がゆっくりと右胸の円に戻って行く。
これがこの人の力というやつか。
「今から僕が住んでいるところへ案内しよう。ついて来なさい。」
そう言って俺たちより少し先を彼は歩き出した。
俺たちも後に続いて歩く。
「…………今のは何だ?」
しばらく歩いてて気がついたが、みんな俺たちの方を見て小声で何かを話しているな。
「なあ二人とも」
「どうした?変わる?」
「いや、大丈夫だ。お前ら少し変だと思ったことないか?」
「急に何〜?」
「いや、何も思わなかったならいいんだ」
「でもさあ、男の人が全然いないよね」
「だよな!!」
「そう〜?あっしたちが見落としてるだけじゃない〜?」
「いや、さっきから細かく見てるんだけど全くいないんだ。小さい男の子はいるが、俺たちと同じくらいのやつや俺たちよりちょっと若い、もしくはそれ以上がいない」
「…………言われてみればそうだね〜。みんな働いてるんじゃない?」
「そうかも!!だって見てよ!!ほぼ地球と変わらないよ!!」
確かにそうだ。
周りを見ながら歩いていてここは地球だと一瞬勘違いしてしまうほどこの国の街並みは似ていた。
いくつもの高いビル。そして道路があり、車や自転車のようなものに乗っている人がいる。
俺や亮と同じようにジャージのようなものを着ている小さい子もいれば多治見や近衛のような服装をしている人もいる。
「それにさ、時計もあるじゃん」
近衛が指を指すところを見ると短い針と長い針と円状に配置された十二個の文字。針は互いに別の文字を一つ指している。
指している文字は何を意味しているかは分からない。
「あれを見ると多分まだ働く時間なんだよ!!」
「確かに〜」
彼女たちがはしゃいでいる時に俺は一つのことに気がついた。
無数にあるビルの全てがというわけではないと思うが、少なくとも俺が見たビルは全て動いている感じがまるでなかった。
中で誰かが働いているとかそんな次元ではない。
ただのハリボテのようにしか見えなかった。
「なんかあるな」
「一輝くん、なんか言った?」
「いや、何も」
俺たちはしばらく歩き続けた。
そしてこの近代的な街並みに全く合っていない宮殿が見え、その前で俺たちは止まった。
「でっけえ」
しかし、派手だ、とてつもなく派手だ。
この場合はキラキラというよりギラギラという表現の方が合うな。
「キッツイなぁこの面構え」
彼は宮殿の前で止まり何かを言うと扉がゆっくりと開いた。
「さあ、中だ」
彼の後を再びついていくが、奥に入れば入るほど先程の外側の装飾や派手さがより強くなっていった。
「豪華絢爛とはまさにこのことだな」
「僕の趣味じゃないんだけど、ここの住人がどうしてもっていうからつけてるんだ」
あんたの趣味だろ。絶対に。
「ここが僕の部屋さ。どうぞ」
俺たちが全員入ったことを確認したおっさんは中に入ってきながらゆっくりとドアを閉めた。
「改めて、セデレキテアへようこそ!僕はこの国の二代目の王、吉備陽介だ」
「王?」
「そう、王だ。では早速、君たちにこの世界とこの国説明をしよう」
『出ろ』
俺たちの目の前に椅子が現れる。
数を数える限りでは四つ、つまりこれは俺たち用の椅子ってことか。
「座りな」
亮を降ろす。
「座るのできそうか?」
「ああ、ありがとう」
亮を支えながら座らせる。
「ああ、待った。龍になれる君、服着てきなよ」
彼はどこからともなく畳まれた何かを取り出し亮の前に差し出す。
「着てきな」
亮はそれを受け取りドアを開けようとしたところで、誰かが扉を開け部屋に入って来た。
「なんか用?」
「用があるのはお前じゃないのか?」
「私は掃除しようと思ってこの部屋に来ただけ。で、なんであんたの部屋に知らないやつらが四人もいるわけ?てかこの半裸のやつは何?」
「彼は服が無かったんだよ。僕があげたのに着替えさせてあげたいから彼を案内してやってよ」
彼女は大きなため息をつき亮を一瞥した。
「こっちよ」
彼女は亮と共に部屋を出て行った。
少し経った後で亮だけが戻って来たが、彼の服は今まで着ていたジャージでは無く上下白の動きやすそうな服だった。
「全員揃ったな。ではまずこの国について話そう。この国はこの世界に四つある平和な国の一つだ」
「四つ?」
「そうさ、四つ。一つは先ほど僕が提案した取引の中で言った同盟国、そして残りの二国は同盟は結んでないけど平和主義者が国の頂点だから争いとかはない。それ以外の国は平和とは程遠い」
「原因は」
「何を分かりきったことを今更。君たちが封印しにきたとかいう転生者のせい他ならないんだよ。あいつら調子乗って好き放題やりやがったからな。まったくチートだかなんだか知らねえけど……話を戻そう。てな訳で今この世界はあのクソどものせいでこうなってんだ」
「どもってことは複数いるってことですよね?」
「そうだよ。昔は俺含め八人いたがその内二人は僕ともう一人で殺した」
「殺……した?」
「そう、殺した」
「どうやって」
「それはまた後に説明しよう。で、今俺たちと敵対しているのは二人だ」
「その二人はなぜ、その殺さなかったんですか?」
「簡単だ。逃げられた」
「逃げられた?」
「そう。戦いの最中にどっかへ雲隠れされちゃってね。探す余裕も当時なかったからそのままなんだ」
「……………」
「でだ、そこからずっと見つけられてないから殺せずじまいなんだ」
「陽介!!」
勢いよく扉が開かれ先程とは違い焦っている様子の彼女が入って来た。
「どうした?」
「また一人よ!!」
「またか!!」
彼が慌てて部屋を出ようとする。
「ついてこい!!」
ただならぬ雰囲気を感じ、ひとまず俺たちは彼について行った。
必死に彼を追い、着いた場所は中央広場のような場所だった。
そこでは何かが暴れている。
…………おかしい。どうして誰も叫んだり走って逃げようとしないんだ?ここでは日常茶飯事のことなのか?
「何だあれ!!?」
全身が緑色で所々が膨れて人の顔らしきものがある。
下半身は普通に足二本で上半身だけ異様に膨れている。
『……!!……………!!』
『…………、…………。……………!!』
彼はそう言って再度上着を脱ぎ、亮の首を切った時と同じ姿になった。
「……………何て言ったんだ?」
なるほど、右胸にあるあの赤く輝く円から剣が出てきて、それを抜くと同時に模様が身体中に浮かび上がるのか。
「…………さあ?」
躊躇なく暴れている何かを上から彼は切断した。
真っ二つになったそれは、切れ目から左右に分かれて地面に倒れた。
段々と緑色の液体が切れ目から流れ出し、膨らんでいた上半身らしきものは萎んで、溶け始めていた。
「後は任せた」
「はいよ」
「何ですかあれ」
「あれは元この世界の住人だ」
「酷いな」
「これも転生者の仕業ですか?」
「…………………ああ」
なんだ今の間は。
………何かを隠してるな。
「………まあこの話は明日やろう。お前らに家を用意したから今日からそこへ住め。そして明日から、いろいろと始める」
「すいません。明日からじゃなくて明後日にして貰えませんか?」
「…………わかった、では明後日までにしてやる。じっくりと考えてこい。家まで案内させる、絵里!」
「何?」
「案内頼む」
「はいよ」
先程の彼女がこちらに駆け寄って来た。
「じゃあ君たちこっちね」
「お願いします」
「はいはい」
俺たちは絵里さんの後を追って歩いていった。
暫くすると大きなビルを前に彼女は足を止めた。
「ここが君たちの家」
「はい」
「それ鍵ね。部屋はそこに書いてあるから。それと一応自己紹介、『吉備絵里』、あいつの妻よ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします〜」
彼女は鍵を渡すとすぐに帰っていった。
「行くか」
エレベーターがありそれに乗って鍵に書かれた文字と同じ部屋を探した。
なんとか見つけ鍵を開けて中に入ったが中は真っ暗でそこからまた電気を入れるスイッチを探した。
「電気、電気。……お!これかな?よっと」
部屋が一瞬にして明るくなった。
しかし習慣とは恐ろしいもので生前と同じように部屋に明かりをつけるためにスイッチがあるのが当たり前と思って探していた。
「いいぞ」
外に三人を待機させていたので、部屋に入れる。
「家具は一式揃ってるな」
「じゃあまず、座ろう」
「お前ら今日のあれ見てどう思った」
「………」
「多治見、近衛は?」
「なんか、キモかった〜」
「そうだったね!」
「そういうことじゃないんだが……。まあいい」
「俺は怯えもせずに淡々と片付けるあの人や絵里さんの方が怖かったよ。この世界ではあんなことが『慣れ』になっちまうんだな」
あと住人もだが。
「そうだな」
「あとさ、みんな気が付かなかった?」
「あの妙な間か?」
「それね〜」
「確かに変だったよね!!」
「気付いてたか。良かった、話がしやすい。俺の予想だがあの化け物は多分あの人となんか関係がある」
「恐らくな。だが迂闊にそんなことを聞いてしまっては、はぐらかされて終わりだろう。ひとまず、彼のことを聞き出しながら調べていこう」
「…………ねえ、みんな」
「どうした近衛」
「いや、えっと、お腹空かない?」
「…………なんか探すか」
「うん!」
「ああ」
「準備よろ〜」
「風呂も用意しよう」
「着替えがないよ〜」
「近衛、出してくれ」
「任せろ!」
昨日見たとはいえまだこの宮殿の派手さには目が全く慣れない。
「で、覚悟は決まったのか?」
「はい」
「随分と早いな。まあ目の色が若干違うのはわかった。その覚悟折れないことを祈るよ」
何か怪しいな。
「じゃあ、早速今日から訓練するけど、いい?」
「「「「はい」」」」
「じゃあ始めるか。ここは広さ高さなど申し分ないからな、存分に戦えるぞ」
やはり戦いの訓練がメインだよな。
「一つ言っておく。これは君たちも使える力だ」
「え!?」
「だから最初の試練はこれを出すことだ」
『分身』
一瞬で彼が四人に増えた。
「先に言っておく。殺しはしない。だが、死にたくなるかもな」
昨日のように彼は俺たちの視界から消えた。
「こっちだ」
昨日と同じように後ろから声が聞こえた。
俺たちは振り返ったが、目の前にいた彼らの右腕には剣、左腕には誰かの腕を持っていた。
「早すぎて気付かなかったか?」
恐る恐る俺たちは自分の腕に視線を落とす。………右腕はある。左腕は…………嘘だろ?……………ない!!うっ!!熱い熱い熱い!!焼ける!!熱い!!熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!
「いってええええええええ!!!」
「うぐっ!!ぎいあ!!!があああああああ!!」
「いたい!いたい!いたい!!」
「ぐう!!うっく!!あが!!」
「くそがあああああ!!」
「亮!!?あいつ龍になる気か!!?」
「殺す!!」
「治れ!治れ!治れ治れ治れ治れ!!」
「おい、痛みのあまり仲間も道連れにするつもりか?」
「!!!」
俺が気付いた時には、亮は元の姿に戻っていた。
亮はその場で横たわっており、肉塊が彼を囲むようになっていた。
「次は君たちだ」
「来るな!!来るな!!」
ここで死ぬのか!!?
俺たちは何も目的を果たせずにまた死ぬのか!!?でも俺は死なない………。
いや、それですら今はどうでもいい!!
亮も近衛も多治見も短い間だった。
また俺は大事なものを失うのか。
…………もう失いたくない!!
『そう焦るな』
一瞬にして何かがこの空間で起きた。
俺以外全員の動きが止まっている。
「何だ…………これ」
『おい、聞こえるか?』
「誰だ?」
『俺はお前の持ってる力だ』
「力?」
『そうだ。俺はお前の持ってる力だ』
「それがどうしたんだ?」
『お前、失いたくないものがあるんだろ?』
「仲間を、あいつらには死んでほしくない。あいつらを失いたくない。力が欲しい」
『力をやろう』
「くれるのか?」
『ああ』
「くれ!!あいつらを守る力を!!何でもやるから!!」
『俺の力は守る為に使うには少々強力すぎる』
「じゃあ何のためだっていうんだ?」
『守るだけではだめだ。守るということはその場を凌ぐだけにすぎないというのが俺の持論でな』
「だからなんなんだ?」
『守る対象ができるのはどうしてだ?』
「奪う奴がいるから!!」
『奪いにくるやつがいるから守らなければならない』
「そうだ………奪うやつがいなければいい」
『そうだ。奪うやつがいるから守る。ならば奪うやつを消せばいいとは思わないか?奪うやつを消せる力があれば守る力なんていらないだろ?』
「お前は持ってるのか!!?奪う力を!!?」
『もちろん。俺の力は奪うことに使うのが丁度いい』
「くれ!!何だってやる!!何だって捧げる!!だから、くれ!!!」
『任せろ』
その返事が聞こえてすぐに再びおっさん達は俺たちに近づいてきた。
どういうわけか知らないが俺はいつの間にかその場で立っていた。
『さて、少し借りるぞ』
おかしい、俺は立とうなんて思ってないのに。
『自動詠唱発動』
口が勝手に言った。
『まだ慣れんな』
どうなってるんだ?意識と身体が一致しない。
「一輝?」
「一輝君?」
俺は二人と倒れている亮を見る。
右手が勝手に亮達へ向く。右手がこぶしを作るとゆっくりとあいつらが浮遊しこちらにきた。
右手が開くとあいつらは俺の後ろで止まりその場で浮遊が終わった。
『詠唱』
「治れ」
口がそう言うと、瞬く間に俺のなくなった左腕が生えてきた。
後ろを見るとあいつらも同じように生えてきたみたいだ。一つ分かったことは、亮は何かになった状態で死ぬと少しの間気を失うってこと。
そしてあいつは一度何かになると仮に腕が無くても元に戻れば再生するってこと。
死んでいなくてよかった。
近衛は大慌てで、亮に布を被せる。
『一輝、何を捧げる?』
「お前が欲しいもの全部」
『そうだな、まずは左手と左足、そして両目を貰おう』
「くれてやる」
『契約成立』
俺は上だけ服を脱いでいた。俺の左腕が右胸の前で止まる。
見ると俺の右胸には知らないうちに目の前の敵と同じように円ができていた。
ただ一つ違ったのは、彼が赤に対して俺は真っ黒だったと言う点だ。
円から出てきたのは剣の柄の様なものだ。
『今回はお前の中にある刀のイメージに即して作ってみた。それを引き抜け。そうすればお前は欲しいものが手に入る。お前の仲間はすでに俺が保護しておいた。お前を借りてな』
「分かった」
出てきたそれを掴み、全力で引き抜いた。
すると、俺の身体の至る部分にあいつと同じ模様が浮かび上がった。
そして、右胸の円から出てきたいくつもの黒い線が俺の顔に上ってきてそれは目まで到達した。
視界が暗くなり、目に激痛が走る。
聞こえて来る叫び声、これは俺のだろう。
「何をするつもりだ?」
俺を見て動揺しているのか、彼が聞いてきた。
そんなのもの俺にだって分からない。
こっちだって何が起きているか全く見当がつかないんだから。
………痛みが引いてきた。
それに、視界が明るくなっていく………見える………まだ慣れない。
そうこうしているうちに今度は左腕と左脚に激痛が走る。また叫び声が聞こえるがこれも俺のだろう。
………何だろう、段々感覚が鈍くなってきた。
痛くない、聞こえない、見えない。
『……………安心しろ。俺が代わりにやってやる』
任せた……………いい身体だ。
「…………」
一輝の異変に気付いたあいつは俺に攻撃を仕掛けて来た。
「当たってやる義理はない」
俺は攻撃を避け続ける。
耳から笑い声が聞こえるあたり、俺はきっと笑って避けているのだろう。
だが一輝の時間ではない、今はな。
「お前を殺せるならと一輝は張り切って左の手と足を俺に捧げた」
切りかかってきた彼の頭を掴み地面に叩きつける。
「………一輝?」
「身体はな。だが、人格は俺の時間だ。俺は一輝じゃない。俺はディリアだ」
「ディリア?」
「お前を殺すために俺は出て来た」
「ほざけ、ガキが」
「外はいい。何て素晴らしい。空気、色、温度、全てがある。欲しい。もっと刺激が、もっと俺に感動をくれ」
俺の視界からまた彼が消えたが正直もう飽きた。
「はやいな。老いぼれが無理をするのは良くないぞ」
ひたすらに切りつけてくる彼を俺は嘲笑する。
そして一瞬のうちにできた隙、それが命取りだ。
「ほざけ」
「早すぎたか」
喋っている彼の首は俺の目の前にある身体についているべきだが、今回は俺の手の上に乗っている。
「え」
「傑作だ。滑稽だ。首が胴体とくっついてると錯覚している」
「どういうことだ!!」
「簡単だ、俺が切った。しかし気づかないで威勢のいいこと言っていたのはいささか愉快だった」
肉体が倒れたと同時に首から温もりがなくなった。
「分身とはいえ消えるというわけではないのか」
首を投げるとどこがで着地した音が聞こえる。
しかしもう興味は移っている。
目の前の同じ顔に同じ容姿同じ喋り方に同じ構え方の三人の人間。
「さて、どれが本物だ?」
ありがとうございました。