発見
二話目です。お願いします。
「行くぜ、水よ出ろ」
彼はそう言って地面に手をかざす。
今回で二度目のトライだが、一向に変化がない。
彼は前回よりもより強く水が地面から湧き出るイメージをしたが、やはり何も起こらない。
「おいおい、どうした?なんか食ったか?変なものとか」
何度も手を上下に振ったが一向に何も起こらず、彼は何がいけないのかという疑問ばかりつのった。
「なんで出ないんだ?砂は操れるのにな。なんかごめんな」
「しゃあねえか。喉が渇いて死にそうってレベルじゃないから、気にすんな」
「そうですよ。気にしないでください!」
「あっしは喉乾いて死にそう」
亮と近衛は『気を遣え』と言わんばかりに多治見を見る。しかしながら、見られている当の本人はそんなこと御構い無しである。
「しっかし何もねえな。何も食うもんねえし」
「仕方がない。辺りは砂漠、この中で食料を見つけ出せという方が無理だ」
「でもさあ、どこまで歩くんだろうね?」
「今、俺たちは取り敢えず村か町を見つけるべく歩いている」
「そうだったの?」
「多治見、出発前に教えただろ?」
「えへへ〜」
笑いながら多治見は横になる。
この二日で一輝の多治見に対する印象はマイペースというものになった。
一方で亮は真面目な委員長で恐らく最年長、近衛は明るく、恐らく最年少ではないかという予想を彼は立てていた。
さらに身長順は、亮、多治見、自分、近衛という順番であると考えた。
「お前髪の毛に砂着くぞ」
「おっと、どうしよう…………まあいいや〜」
彼女は気にするそぶりを見せながらも、そのまま横になった。
(近衛はショートカット、多治見は腰までのロングで二人とも髪は黒いな。一方で亮は刈り上げて全部後ろで固めていて、金髪だ………チャラいな。俺は黒で短髪で全部上にあげてるけど、この世界にヘアワックスってあるのか?)
「意外と悪くないね、このドーム」
「そりゃ良かった」
彼は平静を装っているが内心褒められて嬉しいと、はしゃいでいる。
本人は誤魔化せていると思っているのだが、彼以外にはばれており、既に多治見は彼をからかい楽しんでいる。
「つーかこんなとこで寝ていいのか?服汚れるぜ?」
「いいの、いいの」
多治見は寝そべったままそう答える。
それって勝負服っぽく見えるがいいのか?それとも普段着なのか?
………見ると近衛も勝負服っぽい。
一方俺と亮は上下ジャージ。
この格好って死んだときの格好ってことだよな。…………近衛と多治見はデート前とかだったのかな?
聞かないけど。
「話を戻す。そして今現在、見つけることは出来ていない」
「地図とかはねえしな。試しに魔法使ってみるか」
俺は目を閉じる。
誰かの視界を少し間借りすれば情報が得られると考え、生き物を見つけることにした。
「どうだ?」
「少し待て」
少し探したところで、人らしきものがいた。
手には何かを持ちそれを真剣に見ている。
「誰か見つけた」
「何!!」
視界をちょっと貸してくれ。
………これってタブレット端末じゃねえか?地図を見てたのか。
……なるほどなるほど、俺らがいるとこが…………分かんねえな。
でもまあいいや、ありがと。
…………なんか想像してたのと全然違う風景だな。
「何か分かったか?」
「まあな。まず、ここからもうしばらく行ったあとに小さな国がある。これがいい知らせ」
「なんだ?悪い知らせでもあるのか?」
「そうだ。国はどういうわけか非常に発達している。だが、どういうわけか知らんがその周りは何もない。つまり、そこは孤立しているってわけだ」
「何かあったとしか考えられないな」
「たまたまいたやつの視界を間借りして一緒に地図見ただけだけどな」
「その人と一緒に行くっていうのはどうかな!!」
「言葉が同じなはずがないだろ。通じなくて逃げられるのがオチだ」
「そっか!!」
「そもそもそいつがどこにいるか分からん」
「どうしようか?」
「まあその人はいいよ。で、あっしは村に行きた〜い」
「何故だ?」
「だってさ〜、そこが一番近いんでしょ〜?だったら行くしかないよ〜」
「確かにそうだな」
「俺も賛成だぜ」
「私も多治見さんの意見に賛成かな!」
「………分かった。俺もその案には賛成だ。取り敢えずそこへ行き、転生者について聞く。そして、この世界の言語を習得するぞ」
「俺の力で聞き取れるし話せるように出来ないかね」
「言葉がわからない以上分からない。だがその可能性もあるということを期待しよう」
「じゃあ決まり〜」
「外の様子はどうだ?」
ドームから出て外の様子を見たが、まあ静かだ。
すっかり日も暮れて気味が悪いし今から出発は無理だろ。
…………何もいねえな。
上はもう開きっぱなしだからどうしようもねえしな。
「特に異常はない。だが今日の出発は無理だろう」
「では今日はここで休もう」
「うん」
「おやす〜」
みんなが横になっていく。
「……………」
布団かなんか出せねえかな?
布団の形をイメージして…………出てこねえ。何でだ?
この前見たアニメだとこうやったらすぐに出てきたんだけどなあ。
「……何してんだ一輝?」
「いやさ、寝るなら布団ぐらいいるかなと思って出そうとしたんだけど、出せないや」
「………気にすんな。それよか寝ろ。明日は早いぞ」
「だな」
「そうだよ一輝君。気にしないで!私は大丈夫だから!」
「あっしもよ〜」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
「起きろ!!」
大声で俺は目が覚めた。声の主は亮。
多治見と近衛も亮の声で目が覚めたようだ。
こいつ修学旅行とかで就寝時間と起床時間を周りの奴にしっかり守らせようとするやつだったよ絶対。
「なんだ亮?朝から」
「しょうがない。取り敢えず起きろ」
「おはようみんな」
「おっは〜。エブリワン〜」
「それでは行くぞ」
そう言って亮はゆっくりとドームから出て行く。
「元気良いなあ。なんか良い事でもあったのかあいつ?」
早えんだよ。
起きてすぐって結構辛いんだぞ。俺は寝起き不機嫌にならんからいいけど。
「あとに続くか」
だらだらと俺は多治見達より先に出ることにした。
後に近衛におんぶされて多治見が出て来た。
「どういう事?」
「なんかね」
「近衛が重いって感じの表情してるぞ」
「いいじゃないか〜」
自分で歩きなさいよ。
「…………いい天気だな」
外は相変わらず何も無く、空を見れば雲がない綺麗な空が目に映る。
「昨日は気付かなかったけど、この世界には太陽みたいなものが一様あるんだな」
「空の色はあっちと変わらず青なんだな」
「なんか、生きてた頃思い出すね」
俺たちはいつの間にか空を見上げていた。
みんな死ぬ前を思い出してたんだろう。
「………綺麗だな」
空の色は青。
「……………そうだね」
俺たちが生きてた時毎日見てた空と同じ色。
父さん、母さん元気かなあ?
サークルのやつら何してるだろ。
「………思い出に浸っていても何も変わらん。………行こうか」
「だな」
「うん」
「ありがと由美。もう下ろして〜」
「あっ、うん」
そう言って近衛はしゃがみ、その背中からスルスルと多治見が地面に降りた。
「てかよ、亮の力って何にでもなれる力だったよな?」
「ああ、それがどうした」
「だったら車とかになれない?」
「………やってみるか」
「ていうかどうやってなんの?」
「イメージすればいいんじゃないかな!」
「そうか、ではやってみる」
そう言って亮は目を閉じる。
「頼むぜ〜」
俺たちは期待を込めて彼を見ていたが、一向に彼の体に変化が起こらない。
「ダメか〜」
「他のものもやってみる」
その後幾度と無く様々なものになろうとしたが、亮の身体には全く変化がなかった。
「……………何も起きねえな」
バスローブちゃん、本当に能力くれたんだよね?
全然使えないんだけど俺以外使えないとかそんな訳ねえよな?
あんだけ定番な演出して実はあげてませんでしたってのはないよな?
「………乗り物がダメなのか?」
そう言って亮は右手を顎に当て険しい顔つきで遠くを見ている。
「じゃあ〜龍とかどう?」
「龍?」
「そう。ドラゴンってやつだよ〜。あっしらがいた所にいないものがひょっとしたらこっちにはいるかもよ?」
「………やってみる価値はあるかもな」
再び彼は目を閉じる。
「………おお、すげえすげえ!!だんだん変わってきた!キモイけど」
いきなり亮は目を開け彼らを見る。
「どうした?」
「え?自覚ないの?」
「何がだ?」
「背中見ろ、背中」
「背中?」
亮は渋々自分の背中を見る。
彼は自身の背中にいつの間にか生えていた四枚の羽根に驚き取り乱した。
「え!!!は、え!!?何だこれ!?一輝なにかしたのか!!!?」
「亮!痛えよ!その爪で肩を掴むな!止めて、俺を揺らすな!やめろ!何もしてねえよ俺!!」
「何だこれ!!!?一体何がどうなっている!!!」
「落ち着け!これから俺らが見たことをありのまま話す。だからよく聞け」
一旦座らせよう。
どうどう、お座り。
「お前が目を閉じて数秒たったぐらいかな。お前の背中が少し盛り上がった。その数秒後にはお前の背中に小さな羽が形成されていきすごいスピードで大きくなっていった。それと同時並行でお前の指がゆっくりと移動して行き、さらには小指が消えていった。手の平には黒い鱗が生えてきて爪が変化して、腕も太くなり着ていたシャツの袖は破けたし、靴の踵の部分から黒い指が出てきた」
亮は自分の足を見てまた驚いた。
「うおっ!!」
無理もねえよな。
いつの間にか履いてた靴はなくなって、自分の足の指は前を向いて生えてる三本、後ろを向いて生えている一本の計四本になって、異様に鋭い爪が生えている。
脛ら辺は黒く輝く鱗で覆われ履いていたジャージは長ズボンだったはずなのに、いつの間にか半ズボンにになっていた。
「大丈夫だよ亮くん!かっこいいよ!!」
「たぶんそういう問題じゃないと思うよ由美」
「うん分かった!!」
「話を戻そう。恐らくお前の力はこの世界に存在するものだけになれるか、もしくは生き物だけになれるか。俺が仮定するのはこの二つだ」
「龍になれるかもしれないことが分かったから、ひょっとしたらこの世界には龍がいるかもね!」
「だとしたら一回見てみたいもんだな〜」
「さて、亮には残酷な選択肢をここで提示しなければならない」
「残酷だと?」
「選択肢は二つだ。一つ、このまま龍になるか。一つ、すぐに元の姿に戻って恥ずかしい姿を晒すか。言っておくが今、仮に元に戻ったとしたらお前はノースリーブに下は裸っていう最悪な姿になる」
「待ってくれ。現時点で危ないのは分かった。しかしだな、もし仮に俺が完璧に龍になれば、恥ずかしい目には合わなくていいんだろうが、それはこの場でだろ?龍になったら完璧に俺は着ているものを全て失うんだろ?結局裸じゃねえか」
「安心しろよ〜亮〜。龍になってあっしらが村に行ければ、服を調達できるんだぜ〜。今戻ったら、一生の恥だぜ〜」
亮はしばらく考えていた。
「……………どうする?」
お前考えるんだ。
俺だったら絶対に断るな。
「やってやる。なってやるよ!!」
亮は目を閉じる。
すると彼の背中の翼はみるみる大きくなっていき、ついには彼の体の大きさの何十倍もの大きさになった。
さらに腕は太くなり、指や手の平、足や身体が大きくなっていく。
「やばいやばい。離れるぞ!」
俺と多治見、近衛は全力で亮のいる場所から離れる。
一方で亮の身体の成長は止まらずどんどんと大きくなっていく。
全身は黒い鱗で覆われ、首は伸び、頭部は龍そのものであった。鋭い牙、大きく裂けた口そして真っ赤な目。
角が二本と尻尾まで生え、先端は鋭く尖っている。
そして、長い首を地面にゆっくりと置く。
「でっけえな」
「すごい大きいね。私の想像したのよりも大きい」
「かっけ〜。でもあれどっかで見たことあるんだよな〜」
「まあとりあえず近づいてみようぜ」
俺は平静を装いながら亮に近づいた。
ほとんどの男なら一度は憧れる龍。それが目の前にいる。
それだけでもうテンションは上がりまくりだ。
「おい亮、聞こえるか?」
「………聞こえてるぜ」
「今の間は何だ?」
「初めてなったせいか、身体のあちこちが鈍くなっている。耳も聞こえにくいし、目も焦点が合わない。お前らが六人いるように見える。足の方は少し動かせるが、首が慣れない」
「翼はどうだ?」
「やってみる」
そう言って亮は頭を上げる。
「オッケーだ。行けそう」
亮は勢いよく自分の翼を上下左右に動かしていく。
激しく砂埃が上がり、強風が俺たちのいる方にくる。
「やば!!でかい壁になれ!!」
俺は慌てて周りの砂で巨大な壁を築いた。
「直撃するのはごめんだ!多治見!近衛!俺の後ろへ!」
近衛と多治見と俺は壁の後ろに隠れる。
「大丈夫なのこれ!!?」
やべえ、崩れたらどうしよう。
「………!!」
何て言ったか聞こえなかったが、亮がそう言った瞬間に俺たちがいるところの少し横からとてつもない勢いで砂が俺らの方へ飛んできた。
「二人とも!!こっちの方に来い!!」
俺は慌ててもう一つの壁を作り二人をこちら側に来させた。
作った壁はどんどんと削れて小さくなっていきその場で立って仕舞えば頭が出てしまうくらい小さくなったところで止まった。
「うげえ。砂まみれだ」
なんとか埋まらずに済んだ。
なんだなんだ、ブレスってやつか?
「おい!!こら!!殺す気か!!!」
なんとか大丈夫だな。
砂は結構かぶったけど。
「うへえ。気持ち悪いなあ」
亮は俺たちのことを見て何か言いそうになっていた。
「……………ひとまず安心だ〜」
まずい!!喋られたらまたあんなことが!!
「喋るな!!何も言わずそこにいろ!!」
俺はできる限りの大きさで亮に言う。
亮は聞こえたようで、その場に留まっている。
「大丈夫か!?!?」
「うん。何とかね」
「あっしはおっけ〜」
「オッケー。亮の背中までいける階段になれ」
その言葉で、俺らの足元の砂が段差を作りながら固まっていく。
「………よしよし順調に出来ているな」
足を一段目に乗せ、少し踏む。…よし、強度は大丈夫だな。
「………よし!!何とか到達したな」
亮の背中に階段が到達したのを確認して、俺を先頭に階段を上った。
「やべえ」
横に柵かなんか作ってねえから落っこちそうで怖いな。
「強度は多分大丈夫だと思う」
「落っこちてもあっしが治すから安心してね〜」
俺たちはなんとか亮の背中に到達し背中によじ登る。
「うおっと!!滑るなこれ」
なんでこんなツルツルしてんだよ。
鱗がつるつるで登りにくいったらありゃしねえ。
「亮!聞こえるか!?!?」
「大丈夫だ!怪我はないか!?!?」
「全員無事だ!取り敢えず落ちないように何か作んねえと」
「私に任せて!」
そう言って近衛は自信満々といった表情で自身の胸を叩く。
「『背中に座れる部分三つ現われろ!』『シートベルト出ろ!』」
すると亮の背中に三つの座席のようなものとベルトが現れる。
「俺は必要ねえぜ」
「そうなの?」
………待てよ。
はじめからそれ使って車とか出せばよかったんじゃないの?
「強度は保証しかねるよ!!」
「無いよりはオッケ〜」
多治見と近衛はどこか楽しそうな様子で座ってベルトをつける。
「楽しそうだな」
おいおい、遊具じゃねえんだぞ。まあいいや。
俺は亮の頭の方に行こう。ええっと、角を掴めばなんとかなんだろ。
「おい危ねえぞ!」
「お前国がどこにあるのか知らねえだろ!指示するから!」
「………振り落されんなよ!!」
そう言ってその場から動き出す。凄まじいスピードで俺らは空を飛ぶ。
「やべえ!!怖え!!」
飛行機に乗ってた時は中だったから外の景色見てはしゃげたけど、自分の前に何も無いと景色は見えねえし、風は強いしで最悪だ。
「顔だけ覆え!!」
苦し紛れにそう唱えると目が開けられるようになった。
これで何とか指示出来るな。
ちらっと後ろを一瞥すると多治見と近衛はテーマパークのアトラクション感覚でいるようだ。
「あいつら大丈夫かな?」
………すげえなあいつら。
飛んでいる間、下を見てみたが一面砂漠だった。
いくら移動しても、出来る限り遠くを見ても何も無い。
一面、白い砂しかない。
「なんか、綺麗だな」
しかし、指示出すの疲れるな。
ええっと、例のアレは…………あった!
「見つけた!!」
俺は喜びのあまり声を荒げる。
昨日地図にあった大きな建造物を見つけられたことが嬉しかった。
少し離れたところで亮を着地させ、俺らは先に降り離れる。
「あいつを囲え!」
砂が亮を囲う。
「よし!!」
巨大なドーム状になった。
………俺ってドームと壁と階段以外作れないのかなあ。
まあこの中だったら普通に小さくなれるし全裸を見られずに済む。
………なんであの時思いつかなかったんだろ。
「戻るまで待つか」
「ラジャー」
「あいつの服どうすっかなあ」
「そうだ!私の能力で服出せないかな?やってみよ!『さっき亮くんが着ていた服よ出ろ!』」
近衛がそう言うと彼女の足元に服が畳まれた状態で現れた。
「出したよ」
「ねえ、それあるんだったらお前が家とか水出せばよかったんじゃない?」
とうとう思っていたことを言ってしまった。
「いいのいいの!」
「………小さくなれ!!」
ドームがゆっくりと小さくなっていく。
「はあ、疲れるなあ〜」
「何もしてねえだろお前」
よし、試着室ぐらいの大きさにできたな。
ひとまず服を持って行こうか。
「亮、服だ」
「サンキュー」
上に向かって俺は服を放り投げる。
上には何も作ってないのでトイレの個室状態だ。
「はいよ」
「………これどこから出した?」
「近衛が出した」
「……………」
亮が黙っている。
きっと近衛がはじめから力使えば良かったんじゃねえかって思ってるんじゃねえか?
わかるぞ、俺も思ったから。
「終わった?」
「ああ」
「崩れろ」
砂を崩し、亮と共に近衛たちがいる場所に戻る。
「お疲れ」
「どっと疲れた」
「取り敢えず行こうよ!」
「疲れたよ、あっしも」
俺らは少し先にある国へ向かった。
「もう二度としたく無い」
「多分何度もお世話になるぜ。よろしく」
「結構楽しかったよ!かっこよかったし!!」
「あっしも龍なんてものに乗れて楽しかったね〜。でも、落とされないようにしてたら疲れたよ」
「おお、見えてきた見えてきた!!…………あれ?」
「ビルだな」
「ビルです!」
「ビルだね〜」
「何でビルが?」
どこからか声がする。
「誰かいるのか?」
すると四方八方から数十人ぐらいの集団が現れ、ゆっくりと俺たちとの距離を詰めてきた。
手には長い何かを持ちその先には剣らしきものが付き、俺たちの方へ向けている。
「どうする?」
「下手に手を出すのはダメだ、あいつら武器持ってるし。俺は死なないからいいけど、お前らは違うだろ?」
「痛いのはやだね〜」
俺たちと少し距離をあけて彼らは止まった。
しかし、相変わらず剣先は俺たちの方へ向けている。
「いきなり大ピンチか?」
「……どうすればいいんだ?」
「両手挙げてみよう!」
「やめた方がいいな。あっちなら通じただろうがここは通じないと思うぜ。もしかしたら、攻撃してくるかも」
「俺らを囲め」
攻撃されてからでは遅い。
「一輝!!」
刹那すごい速さでドームが形成され俺たちを包んだ。
「これで何とか大丈夫だろ」
外では複数の叫び声と大きな音が聞こえる。
「間に合った」
なるほど、イメージする速度を上げれば自動で形成速度も上がるのか。
「一輝、助かったよ。正直どうしていいか分からなかったからひとまず安心だ」
「取り敢えずこん中にいれば攻撃は受けなくて済むだろ」
突然の爆音と共にドームが揺れる。
「なんだ!?」
「外の様子を確認できないか?」
「透明になれ」
俺の言葉でドームがゆっくりと透明になっていく。これじゃあ近衛の力とほぼ変わらなくねえか?
「こんな風にして大丈夫なの!!?」
「大丈夫だと思う。確信はないが」
「外の様子は!!」
外は武器を持ったここの住人であろう人々がドームへ攻撃をしていた。
各々が持っていた武器は銃だったらしく、俺たちのいるドーム目掛けて次々と弾丸を撃ってくる。弾丸は貫通することはなかったが、さすがに全方位から撃たれてるのは少し怖いな。
さらに何人かの大柄な者が筒状のものを担いでいる。
「銃だったのかあれ!!?」
「そうみたいだな。とするとでけえやつが持ってるのって………」
筒から何かが発射され爆音と共に俺らの目の前が炎で覆われる。
「ロケランか!」
「これがなかったらって思うとこええな」
「くそ!らちがあかない!どうすれば………おい一輝」
「どうした?」
「これをでかくしろ」
「何で?」
「早く!」
「わかったよ!」
「巨大化」
俺は言われた通り少しずつ大きくしていくと俺たちの周りにいた彼らは一歩、また一歩と後ろに下がっていった。
「やったぞ!」
「多治見、万が一のために、よろしくな」
「分かった〜」
亮は覚悟を決めたかのように深呼吸をして目を瞑る。
彼の身体からゆっくりと翼や鱗が生え、彼の身体が少しずつ変化していく。
少し経つと彼の姿は再び龍になっていた。
「一輝、これを解除してくれ」
「これって、このドームか?」
「解除した瞬間、俺はあいつらを攻撃する。加減はできんがこんなとこで死ぬわけにはいかないんだ。万が一怪我をさせたら多治見が治す」
「任せて〜」
「………わかった。できる限り怪我させんなよ!」
「ああ!!」
「解除」
ドームが消える。中から姿を現した亮を見て彼らは銃を下ろす。
「銃下ろした「許せ!!」
俺が「銃を下ろしたからやめろ」と言う前に亮は彼らに向かって叫ぶと、それは咆哮となり彼らを襲う。
しかし、咆哮が迫っているはずなのに彼らは恐れもせずその場から動かなかった。
「何で!!?」
刹那咆哮がかき消された。
「!!?」
強風が俺たちを襲う。立ち上がる砂埃の中に人影が一人現れる。
『ーーーーーーーーーーーーーー』
その人影は何かを言うと後ろにいる人々の方へ顔を向けた。
彼らは皆、人影の方へ駆け寄り何かを言っている。
それを聞いた人影はゆっくりと俺たちの方へ向き直す。
「………助けてくれたのか?」
「…………何だお前ら?」
砂埃が落ち着き、ゆっくりと人影の姿が分かってきた。
背はさほど高くない、なぜか上半身は裸で下には彼らが履いているのと同じ白いズボンを履いている。
右手には赤く輝く剣を持ち、右胸も持っている剣同様に赤く輝いている。
そして剣と同じ色の様々な模様が彼の身体を覆っていた。眼鏡をかけ、髪には所々白髪が混じっている。
見た感じ三十代半ばだ。
「日本語………?」
ということは転生者か。
いや待て、落ち着け、平常心を保て。
ここは冷静に相手のことを聞き出そう。
ここで逃げられては困る。
「…………あんたこそ誰だ」
「人に名前を聞くときはまず名乗ってからだな。よし、俺の名前は『吉備陽介』だ。ほら、名乗ったぜ。次はお前らだ」
「………梶井一輝だ」
「近衛由美」
「あっしは多治見久留美」
「………そこの龍は?」
「こいつは羽島亮」
「そうか。で、お前ら何の用だ?いきなりこいつらを攻撃するなんて」
「仕掛けてきたのはそっちだ。それに、言語もわかんないんだ。だから殺されないためにも俺たちはドームを作って中に入った」
「なるほどねぇ、そんで、次は殺されないために殺すってか?」
「安心しろ、俺は殺すつもりなんてない」
「何だ話せるのか?じゃああの咆哮は何だよ。あんなのくらったらひとたまりもねえぜ」
確かにそうだが、俺たちはこうする以外方法を思いつけなかった。
「…………まあいいや」
俺たちの目の前にいたそいつはいつの間にか消えていた。
「消えた!!?」
「案外脆いもんだな」
「何で後ろから声がするんだ!!?」
俺たちが振り向くと先程の彼がいた。
その手に龍の首を持って。
「え」
何かが隣で倒れる音がする。
「………亮!!」
「お前らがやろうとしてたことはこういうことだ」
足が震えて動けない。どうしてだ。
ゆっくりと首のない龍の姿が変わっていく。…………元の体に戻った。
「………首がある………」
それを見て俺達は急いで亮に駆け寄った。
「亮!亮!起きろ!起きろ!」
亮を必死に揺さぶる。
するとゆっくりと彼が目を開けた。
「よかった!!」
「………あれ、俺首切られたよな?」
「でも生きてる!よかった、よかった」
近衛が何かを言うと彼女の手に布が現れ、それを亮へかぶせた。
「不思議だな。まあいい」
彼は持っている首をどこかへ投げた。
投げられた首は終わりの見ない砂漠の中に消えていった。
「君たちは何が目的だい?」
「この世界の転生者全員を封印することだ」
「そうか、頑張れよ。多分君たちすぐ死ぬと思うけど」
「……………」
彼は顎に手を当て目を閉じる。
「取引しないか?」
「取引?」
「そうだ。君たちここに住みなよ」
この時ほどこいつが怪しいと思ったことはない。
一体何を考え、あの一瞬で何を思いついた。
「信じられないって感じだな。無理もないよね、だって君たちのお仲間を躊躇なく攻撃したんだし。でもこれに乗らないてはないと思うなあ。だって僕が衣食住全てを保証する上に稽古もつけてあげるっていう特典までついてるんだよ?」
「…………俺らは何をすれば良いんだ」
「簡単さ。一つ、この国を僕と共に守る。一つ、一国を除く他国すべての転生者の封印。この二つが僕の要求だ」
「…………」
「君たち転生者だろ?悩むのは得策とは言えないな。他国に行けば八つ裂きや拷問だね」
「…………分かりました」
これしかねえ。
この人も封印する対象だと思うが、ひとまずこの人に従っておこう。
俺は頭をさげる。
「お願いします」
「そうかそうか、そこまでお願いされたらしょうがないな」
彼はそう言って後ろを向き大声で何かを話し出した。
すると周りにいた人々は武器を下ろしぞろぞろと歩き出した。
亮を背負い俺は彼等の後に続く。多治見と近衛もその後に続いた。
「何だ………これ」
「門さ」
『………………!!』
彼の声でゆっくりと門が開いていき、武器を持った彼等がぞろぞろと中へ入っていく。
「ようこそ、我らの国、セデレキテアへ」
ありがとうございました。