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各々

『どうすかね』


あれから五日経った。

訓練方法はいたって簡単で、彼女に言われた通りに刀を振るというものだ。

だが正直きつい、めちゃくちゃきつい。

一日目は食事すら取れないレベルまで全身がボロボロになった。


『ん〜、まあ、そうだね〜。5点かな?』


『何点中?』


『千点中よ』


『嘘だろー。どの辺が駄目ですかね?』


『まず、圧倒的な体力不足、そして筋肉も足りないわ。それと無駄な動きが多すぎる』


『これからついていきますよ!!体力も筋肉も!!』


『じゃあ、頑張ろうか』


『ういす』















『どうですかね、彼は』


『才能は別段あるってわけじゃないわ。ただ彼はものすごい貪欲だわ。何事においても全てを吸収しようとする程の貪欲さよ。彼、剣術の才はないけど学習の才はあるわ』


『それは期待出来る』


『心が痛いな。そのような人相手に僕は全力で戦わなくちゃいけないんだもんね』


『お前には辛い役だと思う。お前の性格上尚更だろう』


『翔さん』


『ただ、あいつの気持ちも尊重してやってくれ。あいつは力を欲してるから、お前の全てをあいつにあげてくれ』


『はい!!』


『センテアさん!!素振り終わりました』


『じゃあ次、私と戦おう』


『え!!』


『時間がないのよ。あなたもはやく使ってみたいでしょ?』


『………うす!!』


俺とセンテアさんは、少し間を空け向き合う。


『よろしくお願いします』


『よろしくね』


『…………あの、俺の刀は?』


『ああ!!ごめんなさい。翔!!………ありがと、これ使って』


彼女は翔に渡された刀を俺に向かって投げる。


『うおっと!!………何すかこれ?』


『あなた専用の刀よ。特製品』


飲み込まれそうなほどの漆黒の鞘、柄の部分はごく至極一般な感じだ。


『刀身を見てみてくれ』


柄に手をかける。鞘から抜こうとすると鞘が二つに割れた。


『あれ!!?』


『ああ、その長さだからよ、鞘は片方が開くようにしておいた。抜きやすいだろ?』


確かにするりと抜けた。

肝心の刀身は鮮やかな紫色だが、センテアさんのものと少し違う点があった。


『…………なんすかこの小さい穴』


『よく見えるな。それは後で説明する。安心しろ、切れ味にも耐久度にも問題ないように穴は開けてある。さあ、はじめろ』


刀を構える。彼女も腰の刀に手をかける。


『………………』


『……………』


互いに無言で睨み合う。

こういう勝負事は先に動いた方が負けだという話を思い出し迂闊に動けない。


『私からいくわ』


彼女がそう言った瞬間俺の持っていたはずの刀は俺の手から離れ何処かへ行った。


『あれ!!?』


『集中しろ』


彼女はそう言って俺に斬りかかる。

必死に避けるが、全て避けることはできず、段々と傷が出来ていく。

おまけに傷は全てなかなか深い。

このままじゃ死んじまう、仕方ない。


『くそ!!』


『だからそれは使うな』


彼女は懐から出した小刀で右胸に手を当てようとした俺の右腕を切り落とした。


『うぐ!!くそ!!』


『どんな時も心を静めて、そして冷静になって。混乱すれば負けよ』


平気で言うけど現に腕切り落とされて全身切りつけられてんだぞこっちは。

そういえば、俺の左手の左足………これを使わない手はない。


『もう諦めた?』


『いや、なんとかまだ頑張れそうだわ』


俺は斬り付けられながらも、彼女を観察する。

じっくり見ていられる程余裕は無い。

はやく見つけないと。


『……………』


『もう終わりかしら?』


まだだ。まだ。………………ここだ。


『掴んだ!!』


『っ!!』


『ようやく掴みましたよセンテアさん!!』


彼女が刀を持っている右腕を掴んだ。

ここさえ抑えれば攻撃は止まる。


『見えてたの?私の攻撃』


『少しだけですけどね』


彼女の攻撃を受けていて分かったのは彼女には攻撃を連続で出す為に攻撃と攻撃の間に様々な工夫を凝らした繋ぎがあること。

切られつつ俺はずっとつなぎを使うときを待っていた。

正直一か八かだったが左手が硬くてよかった。

初めて贄として差し出してよかったと思う。


『流石ですよ。この一瞬以外は全く分かりませんでしたよ』


『ははは!!掴まれたのは初めてだよ』


『俺の勝ちですね』


『甘いよ。さっき見てたでしょ?私は小太刀を懐に隠している。それで私があなたの首を刎ねれば私の勝ちよ』


『大丈夫ですよ。貴女はそんなことしない』


『……………そうね』


彼女は刀を地面に落とす。


『離して。五分五分でいいかしら?』


『ういす』


手を離し自分の右腕を取りに行く。


『一輝、これを使え』


翔さんが投げてきたものを受け取る。またこれか。


『かけろ。腕自体があれば再生が早くなるぜ』


『成る程な』


『私がかけてあげよう。君は自分の右腕を持ってろ』


『ういす』


センテアさんに薬を渡す。

彼女は無言で俺の右腕に半分ぐらいかけた後、俺の頭の上から残りをかけた。


『身体も治さないとでしょ?』


『ああ、忘れてた』


『これから毎日これをやるわ。貴方は私から見て盗んで、分からないことがあったらもちろん聞いていいけど、私は口で説明するのが下手なの。だから眼で学んでね』


彼女はそう言って何処かへ歩き出す。


『どこ行くんすか?』


『あんたの刀取りに行くのよ』


少し経って彼女が帰ってきた。

しっかりと俺の刀を持って。


『ありがとうございます』


『こんな事もできるわよ。私の技術を全て盗めれば』


『すげえ』















「さあ第二回定例会議を始めよう。仕切るのはもちろん、私、肇だ。よろしく」


「イエーーー!!」


「フーーー!!」


「さて陽介くん、新しい子達はどう?」


「一人が連れ去られました。しかし三人は依然こちらに」


「オッケー。じゃあ引き続き育成よろしく」


「終わりー!!」


「解散!!」
















「はあ、今日も大変だったなあ。でも大分動けるようになってきた気がするぞ!!…………一輝くん何してるかな?………………あれ?……………これって」


一輝くんがいなくなってもうすぐ二週間が経つ。

その間に連絡も一切なかったけど私達は彼を信じている。でもこんなに連絡が無いと少し不安になってしまう。

………きっと大丈夫だ、大丈夫。


「近衛」


「ひっ!!」


「どうした?大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ!!」


「ならいい、帰ろう。また明日も大変だからな」


「久留美は?」


「もうすぐ来る」


「お待たせ〜」


「よし。帰るぞ」


「亮、おんぶ〜」


「するか馬鹿」













センテアさんとの初戦の後俺に部屋を用意したと言われ指定された場所に行ってみた。

この数日間ずっと鬼軍曹のいるあの部屋で過ごしていたからあの生活のリズムが身体に染み付いている。

新しい部屋の方は広くもなく狭くもなく一人で過ごすにはちょうどいい感じだった。

うとうとして布団に入ろうとすると部屋に訪問者が。


「お疲れ一輝」


「お疲れ」


「鍵かけたよな?」


春がにこにこしながら俺に鍵を見せる。


「合い鍵!!」


「…………だべるか」


「うん!!」


「菓子とか持ってきた」


二人は床に座り菓子を開け食べだす。


「お前らもあの人達に色々教わったの?」


「うん。ただ私達は戦争の最中だったから正直あんまりしっかりと教えてもらってないんだ」


「そうか」


「だから俺たちは自分達でやってるんだ」


「一緒にやろうぜ!!」


「遠慮するよ」


「つれねえな航平は」


「お前のためのメニューだろあれ。俺たちがいたら邪魔になるだろうが。安心しろよ、お前が俺たちに勝てるはずねえから」


「その減らず口は相変わらずだな!!」


「ふふっ、あははは!!久しぶりだね、この感じ」


「懐かしいな」


「ああ」













一日が刹那的に終わっていき、気が付いたらかなりの日数が経っていた。

あいつらどうしてるかな?なんか連絡手段無かったっけな。


『考え事をする暇はないぞ』


この人すげえな。


『どうですかセンテアさん!!大分よくなってきましたよ!!』


『確かに私の攻撃を食らう回数を二十回以内に抑えられた事を考えると初日から比べて大分成長したと言えるわね』


『よっしゃ!!褒められた!!』


『でもいずれは私とあと二人相手に神獣無しで、下手をすれば素手で倒せるぐらいになってもらわないと』


『………嘘でしょ。そうはいっても今日であと五日ですよ。これから何するんですか?』


『最終日はもう決まってるわ。一日中不眠不休で私と戦ってもらう』


『まじかよ』


『あと四日、私から学べることはまだまだあるはずよ。全て盗みなさい』


『耳にタコができるほど言われましたよ、盗めって。任せてください。人のいいところを盗むのは得意なんです』











「今日も一日お疲れ様と自分を褒めてやりたい。お疲れ、俺」


一人部屋の中でそう言う。

大分体力が付いたおかげで帰って来るなり布団にダイブするなんて事はやらなくなった。

正直暇を持て余している。


「何すっかなあ」


おい一輝。


「なんだよディリア」


お前、取り引きしねえか?


「何のだよ。目もあげたし片方の手足あげたろ?あと何が欲しいんだよ」


取引というのは言うまでもない。目を返してやろうか?


「まじで!!?…………いや、なんか裏がありそうだな」


確かに裏があるが、これはお前にとって非常に有益なんだぞ。


「どういう事だ?」


もし仮に神獣を使い切ればお前は両目を失う。勿論それでもいいというならいいのだが、戦いが終わってもお前はまだこの世界で生きなければならないだろ?そのとき両目が見えないというのはいささか不便ではないかと思ってな。


「まあ確かにそうだな。でも俺が戦いで生き残るとは限らんしな」


お前は死なない。神獣で殺されなければな。


「神獣では死ぬんだ」


神獣は転生者の全てを無効にする。しかし面白いのが神獣で神獣の力は無効にできないんだ。


「つまり俺の魔法を使うっていうのは無効化されるけど、神獣自体は普通に使えるってことか?」


そういうことだ。


「成る程な。じゃあ仮に俺がお前に目を返してもらう場合、俺はお前に何をあげればいいんだ?」


声をくれ。


「また重い要求だな。両目か?」


片目だけだ。


「損しかしてねえじゃねえか」


神獣の目は素晴らしいぞ。幻術にも引っかからない、何にも侵されない絶対不可侵の領域だぞ。


「要するに目だけに関しては転生者の攻撃は一切効かねえってことか」


どうする?


「少し待ってくれ。色々やってからでいいか?」


問題はない。


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